3 / 52
やめてみよう①
しおりを挟む「やっぱり、ふざけた設定!?」
侯爵家の屋敷に戻った私は、一人になってぽすぽすとクッションを叩いた。
本当はぼすぼすといきたいところなのだけど、ほっそりした腕ではぺこんとクッションがへこむのみ。
先ほどは恋心に引きずられ少しセンチメンタルな気分に浸っていたけれど、時間が経つと徐々に腹が立ってくる。
転生先が死に役の盛り上げ要員って、全くもってよろしくない。人の人生をなんだと思っているのか。
転生前の記憶は全体的におぼろげで、思い出した物語もざっくりとしたものだ。
その上、それは私が死んでからのデュークたちの恋物語で、ただただ悲しくなっただけだった。
しかも、なぜ私が死ぬことになったのかがわからないまま。どうやら隣国が絡んでいるらしいくらいの情報しかなかった。
恋愛ベースの物語だとしても、敵を討ったならそこは解明してほしかった。
「死に損でしかないのよね」
私は悔しさできゅっと唇を噛み締めた。
それから努めて大きく息を吐き出す。
全く役に立たない情報だけれど、知らないまま何も対策せずに死ぬよりはマシだと思うことにする。
あとはこことまた違った世界で生きていたのだとわかるだけで、どういう人生を過ごしたのかもおぼろげだ。
そのため転生したから性格が前世のものに成り代わったとか、能力が上がったとか、情報を知ったことでこの先の人生を謳歌できるとかいうのも全くない。
フェリシアは私で、デュークのことがずっと好きだった記憶も想いもそのままだ。
けれど、性格は現在の私よりもさばさばしていたようだというのはわかる。
健気な尽くし系であった私も自分で、恋心も自分のものなのだけど、このままでいいのか、良くないよねと突き上げてくる感情は経験したことがないものだった。
私は裕福なオルブライト侯爵家の末子として生まれ、ウォルフォード公爵家長男であるデュークとは互いの両親の仲が良かったことで幼馴染として頻繁に顔を合わせていた。
十歳の頃、相性が悪くないなら婚約しましょうと、互いの両親が乗り気で私たちは言われるままに婚約者となった。
出会って一緒に過ごすうちに、私はデュークを好きになっていたからむしろ喜んだ。
大人びて落ち着いた雰囲気で、ときおり気遣われる優しさに、幼いながらに憧れきゅんきゅんしていた。デュークは私の王子様だった。
声に出して好きだと本人にも周囲にも言ったことはないけれど、態度でバレバレだった。
そして、デュークは誰に対しても大きな反応を示さず、なら私でいいじゃないかしらと主に母親たちの意向でトントン拍子に決まっていった。
軽いように見えるけれど、身分や政治的な面でも悪くない話であったし、私たちの相性も見ての判断で誰も反対しなかった。
そんな感じで、何不自由のない環境で好きな人と婚約していずれ公爵家の夫人というかなり恵まれた人生であったのだけれど、ここにきて大きな問題が発生した。
「やっぱり無理。なんで私が死なないといけないのでしょう」
ヒーローの影のある部分、ヒロインに惹かれる理由付けに死ぬ役なんてごめんだ。
物語は幼馴染で婚約者である私が殺されて本格的にスタートする。
いなくなって初めてどれだけ婚約者が自分のためを思って動いてくれていたのかに気づいたヒーローが後悔し、敵を討ち強くなろうとするなかでヒロインと心を通わせ癒やされ幼馴染の敵も討ってハッピーエンド。
はっきり言ってふざけている。
デュークの死んだ婚約者である私は、物語に深みを持たせるための死に役だ。
しかも、なんでヒロインに喜んでいると思うと言われないといけないのか?
好きな人が自分の敵を討つために危険な目に遭う姿を見て嬉しいと?
そこには寄り添うようにずっと女性がいて頑張れと応援すると?
自分には見せてくれなかった苦悩や笑顔、気を許したような表情。それらを見せつけられてどこを喜べと?
ぽすっとクッションを叩き、悔しさに涙で滲んだ顔を隠すように押し付けた。
一度流れると、こみ上げる悲しみで涙が止まらない。
2,581
お気に入りに追加
5,299
あなたにおすすめの小説
諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。
どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。
だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。
短編。全6話。
※女性たちの心情描写はありません。
彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう?
と、考えていただくようなお話になっております。
※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。
(投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております)
※1/14 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる