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2-My goddess-【千歳SIDE】

49りのが足りない①

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「りのが足りない」

 千歳はキーをテーブルに放り出し、冷蔵庫から炭酸水を取り出し一口飲むと、二人がけのソファにぐったりと凭れた。 
 自分でもおかしいのではないかと思うくらい、りので頭がいっぱいだ。一緒に帰っていても、駅のところでバイバイしてすぐりののことを思い出す。毎日、毎日引き止めたいと葛藤を繰り返す。

「やばいな」

 前髪をかきあげ、ふぅっと息を吐き出す。
 そうやって自分を落ち着かせないと、じっとしていられないとばかりに暴れ出す気持ちのまま、りのとところまで駆けていきそうだった。
 自分でもやばいと思う。りのへと向ける気持ちが止まらない。

 背もたれに頭を預け、そのまま腕を伸ばす。
 りのの手の感触、腰の感触、そして頬の感触。思い出そうとするが、なんかもう、はるか彼方の記憶のようで、大事なものを失ったかのように寂しい。

 部屋に一人でいると、それは顕著になる。だって、ここはりのの気配が全くしない。
 だから、すぐに連絡したくなる。りのの存在を感じていないと落ち着かない。

 りのは、俺が思う十分の一くらいでも寂しがってはくれては、いないんだろうな……。その現実がつらい。
 なんで、りのと離れ離れにいないといけないのだろうか。俺のそばにいないといけないのにって、結構本気で思ってる。

 りのに触れれば触れるほど、りのが不足していく。
 ちゃんと家に着いたかなとか。変な男に引っかかっていないかなとか。
 やばいくらい執着している自覚はあるから、毎日ずっと一緒にいたいけれど自重している。

 本音は、休み時間のたびに会いに行きたかった。
 だけど、周囲が放っておいてくれないし、円滑に日常を過ごすにはある程度の愛想が必要だ。大事なときに思うように動けなくなるようなことはしたくなかった。

 それになにより、りのに余裕がないところを見せるのは嫌だった。常にりのにとってカッコイイ男でいたい。
 惚れた女にそう思うのは当然のことだった。

 りのにはりのの付き合いがある。あまり束縛すると嫌われる。そう何度も言い聞かせて己の気持ちにブレーキをかける。
 それは嫌だ、と。絶対無理だ、と。
 想像するだけで、胸が痛くなってなんとか踏みとどまっていた。

 最初は強引だったけど、これ以上はと思うことで納得させる。
 言い訳じみているがあの時は会えて嬉しくて余裕なくて必死だった。あの時を逃したら、前みたいにまた手の届かないところにいきそうで。絶対、捕まえると思っていたから仕方がない。

 でも、今は連絡手段がある。学校に行けば、会える。会うことができる。
 だから引き下がる。本当は嫌だけど、引き下がる振りができている。

 だって、一緒に帰るのもあまり喜ばれていない。俺が強引だから、帰る。
 でも、りのは嫌なことは嫌というから、嫌われてはいない。それがわかるから、少しでも触れていたいから、りのの元に通う。

 ああー、会いたい。


「早く、俺のものにならないかな」


 そうすれば、とことん甘やかして、俺のだって周囲にも主張できるのに。


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