上 下
44 / 81
2-My goddess-【千歳SIDE】

44女神に飢える③

しおりを挟む
 

 * * *


 千歳の17年の人生の中で、あれほど鮮明に記憶に残ったものはなかった。
 あの一瞬で、全てが奪われた。時が止まったかのように彼女しか見えなくなった。

 慌てて身体を動かした時には遅く、はらりと、彼女の艶やかな黒髪が落ちていった。
 そうさせてしまったことをひどく後悔するとともに、それがひどく勿体ないと感じた。一本一本丁寧に拾い集めて誰にも触らせたくないと思うほど、彼女のものだというだけでどうしても独占したいという気持ちが唐突に千歳の中を占める。

 声をかけても彼女の意識はこちらにないことは明白で。ちらりと向けられた視線はすぐさま逸らされる。

 今までにない反応。あえて興味がないとばかりの態度を取り気を引こうとする女とは明らかに違ったそれは、千歳の琴線に触れたのかもしれないが、そんな単純なことではなかった。
 あっさりいなくなった彼女の背中を見つめ、その姿が見えなくなると、どうしようもない焦燥感に駆られた。
 いなくなって、見えなくなって、初めて気づく。

 日に日に、彼女の存在が気にかかる。
 あのとき間に合っていれば、それ以前にさっさと争いを諌めていれば、もっと声をかけていれば、追いかけていれば、とキリがない。
 その思いと共に、彼女を探し、その時間だけ彼女のことがさらに気になった。もはや、千歳にとって彼女は尊くも焦がれる女神となったのだ。 その、

「彼女がいない」

 やっと、彼女と同じ場所にやってきたのに、彼女がいない。見つからない。千歳はこれまで以上に焦っていた。
 相変わらず、見た目に寄ってきた女が邪魔するが、彼女たちがどうあの子に繋がるかわからないので邪険にもできない。
 出会いが出会いだったから、千歳は少しでも彼女に好印象を持ってもらいたかった。

「どこにいる?」

 なのに、肝心の彼女が一向に見つからない。制服はこの学校だった。それは間違いない。なら、なぜ会えないのか。
 あっちこっち歩いて、学年関係なく確かめられるクラスは確かめて、出歩く必要もなく女子たちがこちらに接触してくることも多かったが、そこにも彼女がいなかった。

 会いたい。一目でもいいから、姿を見さえすれば。
 なのに、転入して一週間、そして次の週も彼女がいない。見つからない。
 もし、このまま彼女が見つからなかったら……。そう考えるだけで気が狂いそうだ。
 彼女と同じ制服の女子がうろつくだけで、どうして彼女ではないのだと落胆する日々。


 ────────俺の、なのに。


 カップルがいちゃついているのを見ると、余計な想像をして気分が下降する。
 千歳がこうしてもたついている間に、他の男が奪ったら?
 いや、あれだけ可愛いんだ。男がいないわけがない。

 どちらにしろ、早く見つけて安心したい。少しでも彼女のそばに。



 どこに隠れてる、────俺の女神。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】

青緑
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。 親代わりの枢機卿と王都を散策中、王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。 ある辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認められていく。しかしある日、多くの王侯貴族の前で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。 ——————————— 本作品は七日から十日おきでの投稿を予定しております。 更新予定時刻は投稿日の17時を固定とさせていただきます。 誤字・脱字をお知らせしてくださると、幸いです。 読み難い箇所のお知らせは、何話の修正か記載をお願い致しますm(_ _)m ※40話にて、近況報告あり。 ※52話より、次回話の更新をお知らせします。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...