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1-something quite unexpected-

32高塚くんと気まずい①

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「またねー」
「りぃちゃん、今度は二人でデートしような」
「未成年をたぶらかすな」
「相変わらずシスコンだな」
「この程度をシスコンと呼ぶなら、ほとんどのやつがシスコンになるな。これは兄としての思慮と友人が犯罪者にならないようにの配慮だ」
「言葉にするとなんかひどいな」

 兄の紘乃と拓真くんがいつもの掛け合いを始めた。

 土曜の夜は拓真くんが泊まることになったので、結局、日曜は両親二人だけで出かけていった。
 久しぶりに家族で叔母のところに顔を出しその帰りに必要なものを買いにでも行くかーくらいだったので、あっさりと予定変更が決まった。
 余談だが、お父さんと久しぶりのデートになるわね、と嬉しそうに着る服を決めていた母は可愛らしかった。我が家は両親の仲が良くてなによりだ。

 莉乃は辞退を申し出たが、せっかくだからと拓真くんが車であっちこっち兄とともに連れて行ってくれた。
 飛び級して一足先に働いていて余裕があるのと、もともとそこそこのお家柄だとかで全部の会計が拓真くん持ち。兄よ、友人に集らないでほしい。兄が全く遠慮しないから、妹の遠慮が通らなかった。

 自分の興味なきことはとことん動かない兄の基準は難しい。お兄ちゃんではなく名前を呼ぶように幼稚園のころに言われ、理由を聞くと名があるのに呼ばない方がおかしいと真面目な顔で言われた。あと兄妹で同じ響きが入っているのを確認できて嬉しいだとか。
 感性も独特でそんな兄に付き合える拓真くんは貴重な友人なので、我が家としては大歓迎するのは当たり前のことだ。

 慣れ親しんだやり取りを終えた兄とともに拓真くんを見送り、リビングでシンクに手をついてお茶を飲みだした兄に声をかける。

「部屋に戻るね」
「ああ。拓真とデートは許さないぞ」
「いやいや。ないでしょう」
「優良物件ではあるけどな」
「どっちよ」

 真顔で告げる兄は、本気か冗談かわからない。
 とにかく、兄は兄なりに拓真くんを友人として認めているということはわかったので、まだ言うかと嘆息すると適当に切り上げて莉乃は自室に向かった。

 休日の終わりが近づき、程よい倦怠感がまとわりつく。
 わずかに日が沈み始め、電気をつけるほどでもないけど少し暗くなりだした部屋の扉を閉めると、はぁーっと息が漏れた。

「楽しかったけど、ちょっと疲れたなぁ」

 一人になると思わず声に出た。

 この二日間、いつもより外に出ていたからか、よく遊びました花マルと締めくくれるような休日だった。
 友人と遊ぶのも、兄とそして憧れのお兄さんと出歩くのもどちらも楽しくて、莉乃の心は満たされ潤ったけれども、どこかずっと後ろ髪を引かれている気分は付きまとっていた。

 避けていたがどうしても気になって、莉乃は机の上に視線をやると同時に、はぁっと大きく息を吐き出した。
 しばらくぼんやりと立っていたが、このままではいけないと首を振る。

「よしっ」

 誰に言い聞かせるでもなく声を張り上げると、大きな動作で机の上に画面を下にして置いたままにしてあったスマホを手に取る。
 そのまま横にあるベッドにボスッと腰掛け、しばらく暗い画面のスマホを眺めていたが、はぁぁ~と内なるものを吐き出しながらそのままごろりと身体を後ろに倒した。

 柔らかすぎず固すぎずちょうどいい塩梅のベッドに身をまかせる。──ああー、やっぱりベッド最高!! ごろごろするの最高っ!!
 しばらくアホみたいに身体を左右に動かしていたが、我に返ってぴたっと停止した。

「ううぅぅぅ~」

 わかってる。わかってる。ちょっと現実逃避したくなっただけ。
 
 ゆっくりと目を閉じると、土曜日に見た高塚くんの私服姿が浮かぶ。
 同級生とは思えないほど大人っぽくて、普段の優しい雰囲気とは違った危険な色気を放ち、周囲を惹きつけるような男臭さ。

 あれは反則だと思う。
 学校でのギャップもさることながら、誰が見てもいい男なのはわかり、十代の青年ではなく女性の扱いにも慣れ余裕がある大人の男性に見えた。
 そんな彼の姿は立っているだけで雰囲気が他とは違い、世間慣れしたものが見て取れた。

 やんちゃそうな人たちとの付き合いもあるようで、それらはドン引くよりもさらに高塚くんの魅力を増大させていた。
 もともと、清廉潔白という雰囲気ではなかったから、そういう人たちと対等に付き合える強さというのが魅力的に映るのかもしれない。

 当初の美咲の情報は事実に基づいているのだろう。その中に偽りや誇張が入っていても、あの姿の高塚くんにはそう納得させられるものがあった。
 高校生の女子なんて高塚くんからしたら子どもなんだろうなと、改めて実感するものだった。

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