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1-something quite unexpected-

10高塚くんは手馴れてる②

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 えっと、これは彼氏がいなければ、こうして一緒にいるのは大丈夫だろうってこと? 配慮ってことかな? 

 ここまで連れてきてその確認? なら、先にすればよかったんじゃないかな。
 イケメンの考えていることはよくわからない。

「なんで黙ってるの? いい? いいって言って」
「いいけど」

 顔を寄せて詰め寄られて、莉乃は目をぱちくりして思わず頷いた。
 すでに一緒にいるし、今更なのではと思ったが高塚くんが妙に緊張して真剣だったから口にはできなかった。

 それにしてもなんか必死というか。
 少し莉乃が黙ってただけで不安だとばかりに聞かれると、ちょっと可愛いって思ってしまった。私と仲良くしたいっていうのは本当だったんだって。

「良かった」

 そこで心底嬉しそうに微笑まれ、莉乃もまんざらでもなくなった。
 理由とかわからないけれど、莉乃を知っていたらしく莉乃の何かを認めて仲良くしたいとストレートな態度は好感が持てる。ほだされる。

 強引さとか、顔面の良さとか、いろいろ気にはなるけれど、前面に好意を見せられて無下にはできない。
 莉乃はちょっとだけ肩の力を抜き、小さく諦めの吐息と微笑を乗せた。

「お待たせしました」

 そこで、店員さんの声とともにタイミングよく注文していたものが運ばれた。アイスコーヒーにアイスカフェラテ、そして抹茶パフェと順に置かれていく。

「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」

 二十代後半くらいの落ち着いた男性が、最後ににこっと笑みを浮かべてすっと去って行った。
 机の上に置かれたパフェは写真通りの盛り付けで、うさぎ型のクッキーがこちらに向いてちょこんと乗っている。

「すごく可愛い。それにおいしそー」

 ぴょんと跳ねる動作のそれと、抹茶の色味の濃さに思わず声を上げると、高塚くんが嬉しそうに笑う。

「かわいい」

 ……かわいい?
 こっち見ながら言われたから一瞬顔がかぁっと熱くなったが、あっ、パフェかと勘違いに一気に熱が引いた。

「うん。うさぎかわいいね。本当に高塚くんは頼まなくてよかったの?」
「いい」
「でも、」
「一口はちょうだい」
「それはいいけど」

 ものすごい笑顔で催促され、莉乃は反射的に頷く。

 さて、ここで問題がやってきた。
 男の人と二人っきりで喫茶店なんて入ったことがありません。そして、食べ物を一口とはいえシェアする場合、先に渡したほうがいいのだろうか。しかも、スプーンが一つ。
 これは店員さんにもう一つもらうべきだよね?

 わかってるんだけど、どのタイミングで言えばいいのだろうか?
 あからさまに言うのもなんとなく失礼だなっと思うし、そのまま使い回すのも変だ。

 とりあえず、先に食べてもらってそのあと店員さん呼んだらいいかな。
 とても仲の良い友だちだったら軽く紙フキンで拭くくらいで済ますのだけど、今日知ったばかりの男性のはやっぱり無理だし、意識しすぎてるのもばれたくないし。

 なるべく自然になるように心がけて、莉乃はなに食わぬ顔でスプーンとセットで高塚くんの前にパフェを差し出す。

「じゃあ、先にどうぞ」

 その際に、コーヒーをカラカラとかき混ぜながら、がっつりこっちを見ている高塚くんと目が合う。
 ずっと葛藤するところを見られてたみたいだけど、なにを考えてたかまではばれていないはずだ。

 高塚くんが、莉乃からパフェへとゆっくりと視線を移す。
 もしかしたら、一口食べたあとこういうことに慣れててスマートそうな高塚くんがスプーンを頼んでくれるかもしれない。そうだ。そうしてくれるはずだ。なのに、

「りのが先に食べて」

 ふるふると高塚くんは首を振り、パフェが目の前に戻ってきた。

 トンデモナイことになった。

 ひゃー、どうしたらいい? 一口食べたあとはいって渡すの? もう何口か食べてから? それってハードル高すぎない?
 なんか、考えることが増えたぞ。早くしないとパフェのアイスが溶けてしまう。

「でも、好きなところ先に食べてくれたほうが食べやすいんだけど」
「うーん。でも、俺はりのが美味しそうに食べてるところ見てから食べたい」
「…………」

 どんなリクエストだ。
 えっ? 食べてるところしっかり見るつもり? なにその羞恥プレイ。無理なんだけど。


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