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第二部 第四章 忍び寄る影
実の実態①
しおりを挟む布袋の中で背筋を正すと、ぴったりとくっついたマリアがこくりと息を呑んだので、安心させるように私は小さく微笑んだ。
先程までの姉の言動もヒヤヒヤしたけどなんとなく目的はわかっている。姉が時間稼ぎをした分、今度は私が頑張る番だ。
「で、趣味だったか、その拾った実の話だが」
「いろいろ作るのは楽しいんですよ。それでその実に何か問題が?」
「問題があるからこうなっているとわかってるだろう?」
「まあ、そうですが……。なかなか、手荒ですね」
自分だけでなく、マリアもそしてニコラも巻き込んでしまっている。
幽霊であるアンは……、あれ? いない。まあ、勝手についてきたから勝手に帰ったのか。気まぐれな幽霊だ。
自分で言うのもなんだが、公爵家の子女であるエリザベス・テレゼアの価値は低くない。
テレゼア公爵家は、この国に生まれたら子供のころに読む絵本で語られるくらい有名で、そんな相手にケンカを売るのはリスクがかなりある。
計画性がないというか、もしくはそれを上回るほど確かめずにはいられない重要なことがあるのか。
あるいは……、何かあっても簡単に捕まらない自信があるのか。
──……まあ、『実みたいなモノ』で学園に何か仕掛けようとしていた時点で危険は承知の上なのだろう。
拉致監禁までして、何もないままでは済まされない。巻き込まれた時点で、今まで通りとはいかないことは私もわかっている。
これがゲームの強制力だったとしても、起こっていることは事実。ぶつかったのなら全力で最善を尽くすだけだ。
「こちらも事情があるんでね。とりあえず、その実はどこにやった?」
「どこって、拾ったものはほぼ自室にあります」
「……部屋か。…………変わったことは?」
「……? 特にないですけど」
「ない、だと? どういうことだ……」
そこで男は壁の男へと視線をやり、移動するとぼそぼそと二人は話しだした。
何かが起こることが前提だった『実みたいなモノ』、いったい何を仕込んでいたのか。
妙な不安に眉をしかめながら彼らを見ていると、軽く頷いた男が私のところに戻ってきて、上から疑惑の眼差しでじろじろと観察しだした。
見下ろされると、改めて体勢や体格の不利を意識し緊張する。
相手が急に暴力を振るってきたら、手が使えない今は魔法発動もうまくいかないしどうすることもできない。
それに、高度な魔法か仕掛けが施されているのかさっきから魔力がうまく循環できない。つまり手が使えても魔法が使えない可能性が高い。
かなり状況的に不利なため、少しでも多くの情報収集と時間稼ぎが必要だ。
「えっと、それを一度よく見せてもらえますか? もしかしたら思っているものと違うかもしれませんし」
「ああ。勘違いだったら困るしな。これが現物だ。よーく見てちゃんと確かめろ。これはあんたのためでもあるんだ」
私のため、ねえ。
これはしらばくれるのはあまりよくないかと、目の前に持ってこられたものをじっと見つめる。ついでに、角度を変えてもらい様々な方向から確認した。
うん。やっぱりこれだ。『実みたいなモノ』で合っていた。
「どうだ?」
「思っているもので合っていたらすり潰しましたけど?」
「すり潰す?」
「はい。まず、初めて見るものでしたのでなんの効能があるのか調べるのに切り刻んだり、ごりごりぃっとすり潰ぶしたり」
気になったら、それが何かを知るためにはまず刻むでしょ?
しかもいくつもサンプルがあるのなら、ためらわないよね? と心の中で付け加えておく。
私がいくつ拾ったかとかどこまで把握されているのか、母数に対してどれくらいの割合で私が引き当てたのかはわからないが、彼らにとって問題となる数だったのだろう。
嘘をついて壁際にいる男を刺激したくないので、やったことは素直に話しておこうとにこっと笑みを浮かべた。
「全部か?」
「日々いろいろ拾うのですべてを把握しているわけではありませんが、概ね試しました」
「何を試した?」
「そうですね。あとは煮込んだり、練ったり乾燥させたりです。なので、その実みたいなモノの名前を知らなくても、ほかの植物と変わらないということは知っています。さすがに食べることはまだしてないので、活用法を全部試したわけではないのですが」
さすがに正体不明のものを口に入れようとは思えなかった。
「はっ? 食べる?」
「毒性チェックはしましたのでお腹を壊すことはないとはわかっているのですが、食すことはさすがに怖くてしてないです。なので、あなたたちの目的が私にはわかりません」
私は眉尻を下げ、困った表情を作った。
姉が好戦的だった分、愁傷な態度をとっておくべきだろう。あまり刺激するのはよろしくない。
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