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第一部 第五章 終わりの始まり
天使な双子①
しおりを挟む深い森を背景に、有名な建築家を雇い入れ建てられた白亜の城が広がる。
中央にあるメインの城に四つの巨大な塔が繋がるように聳え、敷地内にはバラ園、泉水の庭園、なんと湖や滝まであり、川も流れどこまでも広大な土地が広がる。
間違いなく、ほかでは見られない景色に圧倒される。
そんな素晴らしき場所の中でも、さらに王家の者か彼らに招かれた者しか入れない秘密の庭園に、私は招かれていた。
「うわぁ、なんて愛らしいのでしょう」
頬を紅潮させ、両手を顔に添えデレそうになる表情を押さえた。
城の門をくぐったところから畏まり緊張していた私であるが、王子たちに庭園に案内されて数分、しずしずと大人しくあろうと行動していたことがあっさりと崩れた。
成形された並木道に囲まれ、軸線を中心にした幾何学的でシンメトリーな庭は美しい。中央には噴水があり、太陽の光とともに降り注ぐそれらは癒やし効果がある。
その広大さと美しさに感心していたが、現在私は違う意味で興奮していた。
可愛すぎて、危うく飛びつくところだった。
なんと、目の前には今すぐ飛びつきたいくらい可愛らしい顔があるのだ。まさに天使。天使が舞い降りている。しかも、それがふたつあるではないか。
本当ならこの興奮を共有したいところであるが、あいにく私のほかには共感してくれそうな人は誰もいない。
それに行動や態度に表してしまうと、溺愛のすえ変態じみてきた姉と変わりない。しかも、私は客人であり彼らとは初対面なのだ。
みっともないところは見せられないと、意識を総動員して戒める。
金の髪がきらきらと光を反射して、晴れた日の湖面を思わせる水色の瞳がじぃっと下から見上げてくる。
くりんとした大きな瞳で上目遣いが似合いすぎるっ! これほど完成度の高い整った美しさと可愛さのダブル攻撃はない。
──くはっ。天使がいる~。
私は身悶えそうになるのを必死に堪えながら、舞い降りてきた天使の姿を堪能した。
「エリー?」
ルイが不思議そうな顔で私を覗き込むと、ああっと何かを悟り気難しそうに眉を寄せた。
これは、絶対呆れている。その証拠にしっかりしなよとばかりにぽんっと肩を叩かれ、私は誤魔化すようになあに? と視線を向けたると小さく溜め息をつかれた。
ルイにはあれこれ見られてきたので、私は可愛いらしいものに弱いことは知られている。ルイも出会った時はとっても可愛らしかった。
私は唇を尖らせて、仕方ないんだってと心の中で弁明する。天使とは初対面なのだ。しかも、ダブル。これは眼福すぎて目が離せない。
初のダブル攻撃の衝撃はすごいのだと視線で訴えながら、このままでは不審者なので気を取り直して告げた。
「あまりにも王子たちが可愛らしい姿でしたので、思わず見惚れてしまいました」
誤魔化すようにふわりと笑みを浮かべて、ここぞとばかりにまた眺める。
「「ありがとうございます」」
ダブルで返される言葉。聖歌隊の天使のように透き通る声に、同じタイミングでぱちぱちと瞬きされては、鼻血を出す五秒前だ。
第一王子であるシモン王子の四つ下で、兄と同じコバルトブルーの瞳と金の髪を持つ彼らは、そこでにっこりと笑みを浮かべた。
──うわぁぁん、鼻血出そう。よだれ出そうっ!
とうとう残りの王子、ジャック・ランカスター(双子兄)と、エドガー・ランカスター(双子弟)の登場だ。
この国の王子が揃ってしまったがもう今更だ。
王子三人とクラスも一緒で接触してしまっては、もう四人も五人も変わらない。しかも、こんな天使な二人ならむしろウェルカムだ。
第一印象は大事だ。にまにましたいのを必死に堪え、私は淑女スマイルを浮かべた。
一連の流れをユーグ・ノッジは冷たい眼差しで見てくるが、以前よりは感じる冷たさが減った。
視線が冷たいだけで理不尽なことを言われるわけでもない。シモンとのやり取りからも、何か事情ありそうなのでその眼差しもあまり気にならない。
完璧王子の柔らかな表情と読めぬ眼差しはいつも通りだけど、プライベートだからか、はたまた弟たちがいるからか、ここが外だからか、少しだけ気配がいつもより柔らかに感じた。
シモンは小さく肩を竦めると、咎めるような眼差しを双子に向けた。
「ジャック。エドガー。今日は客人が来るから邪魔をしないようにと話したはずだけど」
「ええー。ですが、シモン兄さんがこの庭園を使うと知らされては気になります。僕らもご一緒したいです。せっかく帰ってらしたのに」
「そうですよ。しかも、女性を連れていると聞いては尚更です」
そっくりな二人であるが、むすっと面白くないのだと表情に出しながら甘えるように話すのが兄であるジャック、落ち着いて話すほうが弟のエドガーのようだ。
そして、彼らがここに来たのはこの場所であることと、兄であるシモンが女性を連れてきたというところがポイントのようだ。
兄弟関係は良好で、兄を慕っているのが見てとれてほっこりする。
この場所がどれほどの意味があるのかはわからないけれど、私の性別は気にしないでほしい。ただの魔法の見せ合いよっ、と私は心の中でグッと親指を立てた。
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