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第一部 第三章 騒動は唐突に降ってくる
危うく悪役令嬢①
しおりを挟む「これはエリザベス様に言われて。本当は嫌だったのですがそうしないと私が……」
しくしくと隣席の第一王子に言い寄るように泣きながら告げるドリアーヌを前にして、私は密かに興奮していた。
──来たわよ。来たっ!
なに、その王道セリフ。
ここ最近、ずっと回りくどさを感じていたので、わかりやすくえん罪を着せられようとしていることに少し興奮する。
今まで身内に許されていたことに甘えて、同年代との交流を避けていた。
そのため、学園に入ったからにはこれも勉強だと、周囲に合わせておしとやかに話を合わせてきた。
その中で頻繁に話しかけてくるのがこのドリアーヌであり、彼女とのやり取りに、話せば話すほどなんとも言えない面倒さを感じるようになっていたところだった。
自分のことでなければ、なんてわかりやすい言動なんだと盛大ににやにやしていたことだろう。
はてさて、困った。言葉で先に植え付けられた後の無実の証明というのは、なかなか難しい。
何より、自分の犯したらしい罪を知らない。
その端くれのヒントでももらえないかなと、私はじっと真意を測るようにドリアーヌを見つめた。
面倒くさい日々を思い返しながらドリアーヌを眺めていると、異変に気づいたルイがすかさず私のもとへと駆けつけてくる。
「エリー、どうしたの?」
当たり前のように、横にぴったりとくっつくようにルイが立つ。何も言わないが、サミュエルも私のそばに寄ってくる。心強い味方だ。
「ええ。何やら私がしでかしたらしいわ」
「らしいって」
頬に苦笑を浮かべながら軽い口調で告げると、ルイの表情が苦々しいものになる。
心優しいルイは私が傷ついたのではないかと気にかけてくれているようで、私は心配いらないよと小さな笑みをこぼした。
肩を竦めたいところだけど、ここは大人しい令嬢らしく小首を傾げるだけにする。
「そうとしか。今、それを聞いているところなの」
笑いに余裕を感じ取ってくれたのか、苦々しかったルイの表情が今度は呆れに変わる。
「ふーん。無茶はしないでね」
「もちろん」
私は力強く頷いた。こんなところで躓いていられない。
ルイから視線を戻すと、ドリアーヌを牽制も込めて眇めた目で見据えた。
今まで特に反論しなかったからと言って、御しやすいと思われるのはしゃくである。
「ドリアーヌ様、ご説明いただけないと謝罪も弁明もできないのですが」
「謝罪って。思ってもいないことを言われても今更ですわ。私、今までどれほどの思いで……」
揚げ足を取られた言葉が返ってきて、私は嘆息する。
その間、ドリアーヌの視線は度々様子をうかがうようにシモンへと向けられている。当の王子はというと、どちらの立場にも立つ様子はなく静観するようだ。
その表情は見守っているとも突き放しているとも取れ、一切何を思い考えているかが見えない。さすが、完璧王子。
思った反応を得られなかったドリアーヌは、次に私の味方をするように立つルイをうるうると見つめた。
はいはい。どこまでもわかりやすいのをありがとう。
そう心の中で呆れ返りながら、私は無言を貫いた。
「殿下たちと仲が良いことで脅すように命令されて、とても怖くて。やりたくないって言ったんですけど、そうしないとクラスにいられなくすると言われて仕方なく」
「エリ」
ルイが何か言おうとしてくれたが左手を上げて制し、私は話が見えないともう一度問いかけた。
「ですから、何を?」
「しらばくれないでください。あれ、ですわ」
「あれ?」
あれじゃわからない。
首を傾げていると、ドリアーヌは自分に酔っているのか、悲劇のヒロインよろしく言葉を続ける。
「申し訳ない気持ちでいっぱいだったのですが、同じ公爵家の娘として比較される対象ですからクラス替えになってしまったらと思うと恐ろしくて」
「へえ」
いつの間にそんなことに?
自分のことを語られているが、当然身に覚えはない。逆にぽろぽろと出る設定に呆れとも感心とも言えない相槌を打つ。
それが気に入らなかったのか、ぎっ、と睨みつけられ、それからドリアーヌは涙を拭う仕草を見せる。
「でも、この際だから言わせてもらいますわ。みんな知っていますから。エリザベス様はルイ殿下と仲が良いからこのクラスに配属されたのであって、本当のエリザベス様の魔力は平凡だって」
なかなか、あざといな。もう何度そう思ったことか。
そして、私のことを王子と仲が良いだけの平均的な並の令嬢だと思っていたようだ。
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