上 下
25 / 185
第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です

出端をくじかれる②

しおりを挟む
 
「魔道課が張り切っているからね。これからもいろいろ出てくるんじゃないかな」
「そうなんだ。……それは、いいことね」

 魔道課は魔法研究所のひとつで、魔道具の研究を主とする集団が属している場所である。
 開発されたものは仕方がない。

 これで当初のそこそこできる、イコール、無難な淑女計画が崩れてしまった。
 学園の方針、つまり、クラスごとにある程度魔力を同じにし、教え方や進み方も変えて人材を育みましょうとする考え方はすごく合理的で賛成ではある。
 だけど、それなりにこなそうのレベルが上から数えたほうが早いなんて予想外すぎた。

 何度も転生していると言っても毎度少しずつ違う人生。そして、今生も違う。
 違ってくれないと詰んでしまうのでありがたいのだけれど、予想の域を超えているよぉぉっと、にっこり笑うルイにつられて同じように笑みを浮かべながら、私は意気消沈していた。

「最高クラスになってなぜそんなに落ち込むんだ?」

 淑女笑顔をキープしながら嘆く私の横で嬉しそうに笑うルイとの会話に入ってきたのは、現王兄の子であり継承権第二位のサミュエル王子。
 そして、私を追い回した人物であり、彼だけのせいにするつもりはないが、王都学園に入学することになった元凶。

 燃えるような赤髪の癖のある短い髪に、赤みを帯びた瞳は非常に目立つ。
 切れ長の瞳だけ見るとキツいイメージだけど、全体が整っているので上品な顔立ちにまとまっている。
 端的な言葉とともにこちらを見る双眸には何も含むことがないのは、門扉のところで待ち構えられた上で謝罪を受けたので理解している。

 父親が軍事部トップということもあり、サミュエルも武道派の直情型という印象を受けた。
 あの日も悪気はなく、従兄弟のルイを思っての行動だというのも先ほどのでよく理解した。

 どうやらずっと気にかけていたらしく、悪かったとまっすぐに謝られては私も受け入れるしかない。
 その潔さは気持ちいいものであったが、サミュエルのせいで初っ端から学園で目立ってしまったのは否めない。
 私は小さく息を吐き出し、何度も己にも言い聞かせてきた言葉を告げる。

「ひっそりが目標なので」
「ひっそり? 目立ちたくないということか。だが、ルイと仲が良い時点で無理だろう?」

 ごもっともな意見に、私は言ってくれるなと非難を込めてサミュエルを見上げた。
 さすがにあまり面識のない王族を睨むとかはできなので、じと、くらいは許してほしいところだ。

「そこはそこ。ほかの部分でと言う話です」
「そうだよ。サミュエル。僕とエリーの仲は揺るがないから、ほかでのひっそりだから」
「お、おう。……頑張れ」

 本人である私が主張するならまだしも、ルイに余計なことを言うなとばかりにきっぱりと言い切られ、サミュエルはぽりぽりと頬をかいた。
 勢いに押されて意見を引っ込めると、応援までしてくれる。追いかけ回された時は融通が効かないと思っていたが、案外いい王子様である。

 そもそも、なぜサミュエルが自分たちのところにいるかというと、異性と話すのが面倒くさいのか、話しかけようと虎視眈々こしたんたんと狙っている女性陣を全無視して席に荷物を置くと、すぐにルイと私のもとにやって来たからだ。
 避難場所ではないんだけどなと思いながらも、話してみるとまっすぐなところとか好ましい人物だ。

 ただ、二人が揃うと圧巻だ。
 彼らの人格は好ましいと思っていても、最高クラスに配属され、二人の王子がそばにいる事実に出端をくじかれた感は否めなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

殿下、今日こそ帰ります!

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
彼女はある日、別人になって異世界で生きている事に気づいた。しかも、エミリアなどという名前で、養女ながらも男爵家令嬢などという御身分だ。迷惑極まりない。自分には仕事がある。早く帰らなければならないと焦る中、よりにもよって第一王子に見初められてしまった。彼にはすでに正妃になる女性が定まっていたが、妾をご所望だという。別に自分でなくても良いだろうと思ったが、言動を面白がられて、どんどん気に入られてしまう。「殿下、今日こそ帰ります!」と意気込む転生令嬢と、「そうか。分かったから……可愛がらせろ?」と、彼女への溺愛が止まらない王子の恋のお話。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...