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第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です
いざ、ランカスター王立学園②
しおりを挟む──いでよ、私の真の姿!
柔軟な思考を持った私は今までと違う。入学が決まってから、日々研鑽した私はバージョンアップした。
もう一度、この世界のこと、そして国のこと、公爵家の娘であることを認識し直し、それに似合う振る舞いを学び直しながら、今まで習得してきた技術をおさらい。
今までの知識と能力の使い所というのを考え直したのだ。
父であるテレゼア公爵は外交に長け、周辺諸国から恐れられている。
魔力属性は水。普段、感情を荒げることがないのでそこの目算を誤ると死を見るらしい。氷の外相と言われている。
どんな外交をしているのか知らないが、実際、水魔法から派生した氷の魔法を得意とすることからつけられた通り名とともに、国のために大活躍である。
その公爵に娘が二人いることは有名で、そのうちの一人は絶世の美女。テレゼアという名は貴族社会で知らぬ者はいない。
私は聖女だと持て囃されている姉の妹として認知されていることもあり、王立学園に入るからには魔力を隠していても意味がない状況になってしまった。
ならばと、前回の失敗から学び、うまく使いこなすことにシフトチェンジ。
あまりにも出来なさすぎると返って目立ちそうなので、そこそこ出来るくらいにしようと決めた。
こうなってしまっては多少注目を浴びることを前提として、それ以上に目立たないようにすべきだ。
自分の背負う家名、そして目立つ姉の妹としての正しき振る舞い。多少、こうあるべきという姿を演じることが必要になってくる。
現在の私の魔力値はルイの話からの推測によるものだけど、魔力を一定に維持しようとするあまり、それが返って魔力の精度を上げてしまったようだ。
納得のいかない私に「なら、僕と出し合ってみよう」とルイが言ったので、属性が一緒のルイと風の魔法を出し合うことになった。
すると、出るわ出るわ。
周囲に迷惑をかけないように緩い風であったが、上限が見えずその日の街の洗濯物は自分たちの風ですっかり乾いてしまった。
その時、「ほら、僕と張り合えるほどの力。これで隠れようというのは無理だよ」と、同情的な声音でありながらルイはどこか誇らしげに告げた。
トドメを刺され私は、今までの生の中で一番の魔力を保持していることに、自分のことながら目が点になった。
何それ? 望んでいないし。
望んでいないが、上がってしまったものは仕方ないのでうまく有効活用するほうが疲れない気がした。
それに、ルイも余裕で風を操っていたので、上には上がいる。彼がいると、一人で目立つことはないかと安心もした。
さすが王子。すでに際立った存在がいると自分は霞む。持つべきは友である。
けれども、同時に王子であるルイと友人であることは何かと問題があった。
国の王子。目立つ以外の何ものでもない。ルイを狙う女性の嫉妬に巻き込まれる可能性だってある。
それも視野に入れてそれなりの振る舞い、公爵令嬢として恥じることなくでしゃばることなく友人ポジを維持することは大切だ。
もう、ついている付加価値は受け入れる。その上で立ち回るべきだと考えた。
ほら、新しい私である。大人になった気分だ。
もしかしたら、このまま何も起こらず十七歳を迎えられるかもしれない。なんて、思わないでもないくらい新たな私。
そのためにも見のこなしの優雅さも身につけた。スカートの下にはちょっとした仕掛けもしてある。
もう、裸足で走り回る私ではないのよっ! というか、それは両親とマリア、そしてルイにこっぴどく怒られたのでできない。
ねちっこく小言を言われ、言い訳しようものなら睨まれて、じっとしなければならない苦痛ったらなかった。
いろいろ乗り越えて思考は柔軟。
うっかり対策はばっちり。ソフィアが入ってくる一年後、ほどほどできる高位貴族として頑張るのよ。そして、何としても魔の十七歳を超えてみせる。
──さあ、いざ参らんっ。
大きな門をくぐり私は一歩踏み出した。
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