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第一部 第一章 ここから始まる物語

sideルイ 守りたいものと本音①

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 サミュエルに突撃を受けて倒れてから、ようやく会えたエリザベスはよそよそしかった。
 なんとか誤解を解いたが、また一人で遠くに意識をやっているエリザベスにルイは苦笑する。


 『ひっそり。ひっそりが幸せへの道なのよ』


 たまにルイに諭すように告げるエリザベスのそれは、ちっともひっそりと生きているようには見えなかった。
 なぜなら、屋根に登ってそれを言われ、ごりごりと薬草を擦りながら告げられ、時には馬でかけまわりながら語られてきたからだ。

 ――これのどこがひっそりなんだ?

 そう思うが、それを告げる時のエリザベスはひどく真面目な顔をしていて、普段は好奇心いっぱいの菫色の瞳には強い意志が宿っていた。
 彼女がどうしてそこまでひっそりにこだわるのかはわからないが、行動が伴っていないことに目を瞑ると、それは魔力のことではないかとすぐに気づいた。

 エリザベスの魔力は国の基準を満たし、十四歳を迎えたら王立学園に入ることのできるレベルだ。だけど、それを隠そうとしている。
 それがわかるのも、ルイの魔力が高いからだ。そして、王家の者はそれを見極める力がほかの者より備わっているので、エリザベスのひっそりとは魔力で目立ちたくないということなのだなと独自に解釈していた。

 最初の頃はそこまで深く考えていなかった。
 個性的なエリザベスの独特な考えで、一時的に何か思うことがあってしているのだろうと思っていただけだった。

 だけど、魔力が安定しだした十二歳になっても魔力を隠そうとしたままなのに不安を覚えたルイは、王立学園に行きたくないのかと、ほかに誰もいない畑で一度聞いたことがあった。
 それに対してのエリザベスの答えは、「行きたくないわ」と単純明快だった。

 即答されたことにショックを受けた。王族として、エリザベスの才能を埋もれされるのは惜しいと言う気持ちもある。
 なので、魔力が高ければ行くべきだし、誰もが憧れる場所だと言ってみたが、「あったらね。だけど、ないもの。もし、仮にあったとしても行きたくないわ」と、しらを切られた。

 ――エリーの魔力は十分にある。なのに、なぜそこまで隠す? なぜ、そこまで嫌がるのか?

 ルイはその時、とても焦っていた。
 魔力の高い王族は、必ず十四歳で入学しなければならない。
 そうなると、こうして侯爵家に遊びにくることもままならなくなる。公務に加え、学業、年齢が上がれば上がるほどしがらみもあり、自分の欲望のままに行動できるのは今だけであった。

 それについては諦めてもいるが、エリザベスが魔力それを隠す限り入学しないことになる。
 本来なら学園で会えるはずなのに、避けるように実力を隠すエリザベス。なんだか、自分だけが彼女に会いたいと思っているようで、胸が苦しくなった。

 気持ちの差、このままいくと過ごす時間が減る事実と、その認識の違いが怖くなる。目を離した隙に、エリザベスはどこかに行ってしまいそうで不安になった。
 不安とともにとても寂しくて、置いていかれるような感覚に苦しくて目の前の苗をじっと見つめる。

 エリザベスと出会うまで土なんて耕したこともなかったルイであったが、すっかり慣れてしまった動作で野菜の苗を掘った穴に入れ優しく土をかぶせると手を止めた。
 せっせと苗を植えていたエリザベスが、同じように手を止めるとルイを見て静かに笑った。

 いろいろな感情をころころと見せるエリザベスであったが、ときおりふと儚げに笑う。
 穏やかな風が頬をくすぐり、通り抜けていく。ふわりと舞うピンクゴールドの長い髪を押さえて、エリザベスは空を見上げた。

「だって、余生をしっかり過ごしたいんだもの」
「余生?」

 しっかり? ゆっくりの間違いじゃないのかな?

 わからないと首を傾げると、エリザベスはまたひとつ苗を取ると植えた。
 その時に出てきたミミズをちょいっとつまんで、また土に戻す。たくましい。

「うん。こうして野菜作って、たまに木に登って平和な街を眺めて、あんなことやこんなこともあったなって、ああのんびりとしたいい人生だったなっと振り返えられる人生にしたいの」
「それと学園に入りたくないことにどう繋がるかわからない」

 余生でも木に登るんだと、らしすぎる言葉に笑いたかったが、その時のルイは笑えなかった。

「うーん。でも、王立学園というステータスに興味がないわ。公爵家に生まれたからには役目があることはわかっている。別に魔力が高くなくても偉い人は偉いし。だから、役目さえを全うすれば、あとは誰にも文句はないと思うの。家の繁栄はきっとマリア姉様がいい旦那様を見つけて上手くやってくれると思うし。私はそれ以上のものは望まない」
「それって、結婚も? エリーの年頃の令嬢は少しでも身分と見目のいい相手を見つけようと頑張っていると聞くけど」

 未来を語るエリザベスの中に自分の存在が少しも見えなくて、ルイはぎゅっと拳を握り締めた。

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