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第一部 第一章 ここから始まる物語

ループを繰り返す②

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 だからか、マリアに振られた男性が私に寄ってくることも多々あった。
 妹の私を取り込めば姉を取り込めると考えるのか、下心丸出しの男が多くてうんざりするほど、彼らは姉の周りから離れない。

 こちらが必死になって追い払っているのに、とうの姉は可愛い可愛いと育てられたお嬢様なので、のほほんとのらりくらりとしながら私を構い倒してくる。
 構われれば構われるほど、マリアを落とすなら私からのほうが攻略しやすいだろうと男性たちに絡まれる。

 なので、前世を思い出した三度目は、ぷちんと堪忍袋とまではいかないが何かの糸が切れるのは必然だった。
 姉は美しさ以外の罪はなく、男性たちに期待を持たすようなことを言っているわけでもない。
 ただ、男性たちがやたらと姉に熱を出すこととシスコンの合わせ技の弊害に、私はうんざりした。

 そこで両親の反対を押し切って家を出ていければ良かったのだけど、やはり公爵家の箱入り娘なのでそんなことが許されるはずもなく、なんとか理由をつけてマリアと距離を置いた。
 そうやって獲得した時間を、これ幸いと外へと視野を広げさらに距離を置く理由を作った。

 気に入った商人にノウハウと商業魂を学んだり、実際に売る現場に付き合わせてもらったりとそれなりに充実していたのだが、それはあっけなく終わりを迎える。
 実地とばかりに宝石の交渉をしている際に、なぜか向かいの野菜売り場からカボチャがものすごいスピードで飛んできて頭を打ってそこで記憶は止まり、気づけば四度目の生を受けていた。

 四度目はやはり同じことを繰り返しそうな姉に早めに見切りをつけて、両親をうまく丸め込んだ。
 ひそかに見つけた魔女に弟子入りし、これまたひそかに魔術にいそしんだ。
 五度目は庭師のトムさんのつてを得て農業を学んだ。そして、どれもしょうもない理由で頭に何かが飛んできて記憶をなくしたのか死んだのか。

 どれも最後に、マリアの「エリーが相手してくれない~」とぼやきがこだました。
 意識的に避けることもあったので、シスコンの姉にはそれが堪えられなかったのかもと考えてしまうような最後である。
 違うかもしれないが、シスコンの姉から逃げるようにほかに打ち込んだことが、死に(記憶飛ばしに)急いだのかもと考えるには十分だった。
 もはや、これは姉の呪縛か。

 六度目でそれに気づき、まったく改善されていないことを憂いた私は、深く関わるのも思いっきり拒否するのも駄目だと反省し、姉と程よく付き合うことと姉に群がる男性に絡まれても適当に流すよう心がけた。
 相変わらずマリアはシスコンであるが、相手をしてほしそうなときは実に根気よく付き合いでられることを受け入れると、私の意思を尊重してくれるようになった。

 あと、逃げようとする私に、転生の最初はほよほよするだけの姉であったが、転生を重ねるごとにグレードアップしていてうまく私の隙をついてくるようになった。
 美しいのは変わらない。だけど、妹の愛で方が露骨になっていると思うのは決して気のせいではなかった。

 放っておくと地味なドレスばかり着てまったく着飾ろうとしない私をひっ捕まえて、可愛くしようとメイド任せにせずマリア自ら髪をいじったり、お揃いの宝石を身につけさせようとしたりと手間を惜しまない。
 当然、目立ちたくないので隙を見て着替え直しているけれど、ある程度は付き合うことにしていた。

 マリアの愛はそれはそれは重かった。
 ある日のこと、姉は条件と年齢が満たされ学園に行くことになったのだが、「エリーが行かないなら行かない」と、自身の美貌を有効に使った儚き泣き落としで断固拒否。

 私は仕方がなく、「マリア姉様、エリーも寂しいですが活躍なさる姉様を見てみたいです」と熱の入った眼差しを向け、彼女が折れるたびに励ました日々。
 普通そういう駄々は反対じゃ……、と皆思った。

 ここまで露骨に妹ラブなんですといった態度で私を構うマリアの様子に、姉を落とすついでのように私に絡んでくる男性たちは減った。
 逆に姉の不況を買うと理解したのだろう。

 考えもせぬ方向で収束したが、結果オーライである。
 やっと余計なトラブルも減り心身ともに負担は減りだし、気持ちも楽になった。
 もともと、私もマリアのことは好きで自慢の姉であったから、関係をうまく築けて良かったとさえ思う。理由はあれど、少し蔑ろにしていたことは心を痛めていたのだ。

 そうやって、やっと姉の呪縛から抜けられ魔の十六歳の誕生日を突破した。
 それまでは十六歳を超えることはなかったのだ。よくやった、私。

 家族に盛大に祝われた誕生日。
 ほっこりしながら部屋に戻り、「ばんざーい。ばんざーい。やっほーい」とこっそりベッドの上で一人万歳三唱したものだ。
 だけど、それもまた遠い昔の話。私の万歳三唱を返してもらいたいと後々涙することになるのだった。


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