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第一部 第一章 ここから始まる物語
ループを繰り返す①
しおりを挟むそもそも私が『ひっそり』にこだわる理由は、何度も生を繰り返すヘンテコな人生のせいである。
これで何度目だろうか。もう数えるのもバカらしいくらい同じ時、同じ国と同じ家に生まれ落ちる。
そして、どれも十六歳くらいまでの記憶しかない。死んだのかさえもわからない。ただ、それまでの流れとこれが最後だろう記憶は覚えている。
その人生は、少しずつ違いいろいろだった。
まず、忘れもしないこの世界の記憶にある一番最初の人生から五度目くらいまでは、蝶よ花よと育てられた美しい姉に関わることであった。
私は、公爵家と恵まれた家柄以外は目立つところのない貴族の娘である。
容姿も能力も可もなく不可もなく、ゲームなどの世界でいうならモブというやつなのだろう。
そう。お察しの通り、モブだとかそんな言葉が出るということは、もともとはこの世界の住人ではなかった。一番初めの前世の記憶は地球という星の日本の女子高生だ。
その生の時代では、転生とか悪役令嬢とか、魔王、聖女とかそういう異世界ものの小説が流行っていた。
そういった話を含めた本を読むのが好きであったが、ゲームはからっきし。
だから、ゲームのシステムはわからない。異世界系の本の世界から、ぼんやりと知識を得るだけであった。
なので、一度目と二度目は気づかず、三度目の転生でここは乙女ゲームの世界ではないかとようやく思うようになった。
もしその予想が当たっているなら、ヒロインや悪役や脇役やらと配置されているのだろうが、それっぽい人はいるがどうしたい、どうなりたいかもわからない。だろうな、くらいで全てが憶測。
知っていたなら、こういう時はどうすればいいともっと的確に予測を立てられていたことだろう。そして、こんなに何度も何度もなーんども転生していないと思う。
そもそも、そういう世界と仮定するなら、ヒロインは姉であるマリア・テレゼア、もしくは後ほど出てくる平民出身のソフィアなのではと思っている。
そして、対象はやはりこの国の王子たちで間違いないだろう。ほかにも側近や先輩や教師と、それっぽい人はいるが正解はわからない。
なら、悪役でもないモブの自分はひっそりとマリアやソフィアの恋路を応援し、目立たずそれなりの人生を全うすればいいはずだ。
とにかく、主役級の彼女ら、彼らに積極的に関わることさえしなければ、平凡と書いて幸せな人生になるはずなのだ。
だから、三度目の転生で五歳の時に強く頭を打っていくつもの前世を思い出した私は、なるべく地味な服を選び、姉となるべく関わらないようにした。
一度目と二度目は、美しい姉と一緒にいるがために目立っていたことに気がつかなかったため、どこか浮世離れした姉の世話をしていたらいつの間にか姉の恋模様に巻き込まれていたのだ。
とにかく姉のマリアはモテた。
多くの男性に言い寄られ、自由な時間がなくなるほど声をかけられることが日常茶飯事であった。
マリア曰く、誰もが優しくて素敵な人なのだそう。そのため、誰か一人を特別にひいきにするようなこともなく、言い寄られるとちょっと困ったように眉尻を下げて微笑を浮かべては皆平等に接していた。
その結果、儚げで美しい姉の前では争いは起きないが、裏では熾烈な戦いが繰り広げられていた。
誰もが素敵ならどの人でもいいということであり、結局マリアは誰一人として特別な関係を持たなかった。
それに対して、心が広くて優しすぎるからだと思えたのは最初だけ。
すぐに水面下の争いも公になってきて、確実に姉の日常が壊れつつあった。
それを見かねて、平等も良いことばかりではなく毅然とした態度も必要だと諭すようにしたが、そのたびにマリアは「だって、エリー以上に素敵だと思える人がいないんだもの」と言い放った。
うるうると瞳を潤ませ、ぎゅっと妹の手を握り真剣な顔で訴えるマリア。妹の私がそばにいるだけでいいのだと本気で告げてくる。
男性たちのことはどっちでも良いらしく、話したいのであればどうぞくらいなのだそうだ。
そう。姉は自他ともに認めるシスコンであった。
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