巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
上 下
59 / 63

眩しすぎて *sideラシェル①

しおりを挟む
 
 お騒がせアリスが退学し、学園に平和が訪れた。
 ラシェルはオズワルドを見習って、侯爵家のことや側近関係のこと以外ではルーシーと過ごすようにしていた。

 学園生活も残り半年を切り、ルーシーと会おうと思ってすぐに会えるのは今だけだと思うと、すべてのことが眩しくて焦燥感を覚える。
 ルーシーと過ごす日々は顔がにやけるほど気持ちが高揚し、一日が終わるとすぐに会いたくなって、次の日が待ち遠しい。自分でもびっくりするほど浮かれている。

 いつもより授業が早く終わった放課後、誰にも邪魔をされない屋上にやってきていた。
 ベンチに並び、木漏れ日を感じながら二人っきりの時間はかけがえのないものだ。

 自分の手の中にすっぽり収まる、ルーシーの柔らかな手に指をしっかり絡めながら、ラシェルは小さなつむじを眺めた。
 髪は肩下まで伸び、切るか伸ばすか迷っていると言っていたが、ルーシーを形成するもの、ルーシーがそう決めるのならどちらもきっといい。

「ラシェル様。そんなに見られると照れるのですが」

 じっと見つめていると、うっすらそばかすが散っている頬をピンクに染めてルーシーが見上げてくる。
 そのこげ茶の瞳に自分が映っているのを確認し、ラシェルは目を細め笑みを深めた。

「つむじが可愛いなって」
「……っ。今日はつむじですか? ラシェル様は毎日なにか褒めてくれますが、付き合っているからといって褒めなければならないわけではないですよ」

 ルーシーが苦笑し、それから仕方がないと穏やかに笑みを浮かべる。
 一つひとつ、自分のすることを受け入れてもらっていると思える彼女の表情に胸がきゅんとする。

 ラシェルは、繋ぐことを許されている手の指に力を込めた。もっともっとルーシーのことを知りたい。
 離されることがないと思えるほどの確かなものが欲しくて、許されることを確認しながら、少しずつできることを増やすことに余念がなかった。

「褒めるためではなくて、俺がそう思っているから口にしたまでだよ。ルーシーの一部だと思うとどれも可愛らしくて」
「うっ。なんでそんなにさらっと言えるんですか。ラシェル様の目は雲ってるんじゃないかってくらい、私がどう映っているのか疑問です」

 ルーシーは照れながらも、ちらりと繋いでいる手ががっちり絡んでいることを確認し苦笑する。
 二人きりになると少しでもくっついていたいラシェルの気持ちを理解し、好きなようにさせてくれている。

「見たままだよ」
「うーん。それが信用できないというか」

 そこでルーシーはじっとラシェルを見つめ、小さく笑う。
 光が差し込んだこげ茶の瞳には、慈しむような優しさが見える。

「信用?」
「どう見えるかは本人じゃないからわからないですが、私は客観的に自分の容姿を理解しているつもりなので、親しい人以外に褒められるのは慣れてなくてそわっとします」

 ラシェルが過去遊んでいたことを口には出さないが、その事実が言葉の受け止め方を変えているのではと思うのは穿った見方ではないはずだ。
 その上で、気遣われ、信用に結びつかない現状は歯がゆい。

 あと、『親しい人』の中に、まだ自分が入れていないことが地味に傷つく。
 身内込みの親しい人だというのはわかるし、自分たちの付き合いはまだ浅い。確かに自分たちはこれからなのだけれど、ならいつになったらルーシーにとっての親しい人の中に入れてもらえるのだろうか。

 それを踏まえて、過去を知った上で受け入れてくれていることは奇跡だとさえ思っている。
 だけど、ルーシーの許容は嬉しいのに、自分の過去を悔やんでも仕方がないのに悔やむ気持ちは一向に薄れず、どこか寂しさを勝手に感じてしまう。

 ――不甲斐ない。

 ラシェルは痛む胸を無視して、それでもとルーシーをまじまじと見つめた。
 自分が仕出かしたことも含めしんどいなと思うことはあるけれど、それ以上にルーシーがいることは心身ともに包み込むようなものは確かにあって、大事にしたいと思える存在が自分にいること自体かけがえのないものだ。

 こんなことで一喜一憂するのではなく、もっとルーシーとの時間を大事にしたい。
 許容されていること自体はやはり嬉しくて、早くルーシーが自分を好きになればいいのにと願わずにはいられない。
 もっと、自分だけしか見ることのできない可愛い反応が見たい。
 なにより、ルーシーを前にすると湧き上がる伝えたい思いがありすぎて黙っていられない。

「うーん。ルーシーが望むならそうしたいのだけど、女性をこんなに愛おしくて好きだと思うのが初めてで、さっきみたいに聞かれたら思ったことを言っちゃうし。これはルーシーが可愛いのも悪いんだと思う」
「……照れずに言わないでください。こっちが恥ずかしいです」

 私は平凡だって自覚あるのに、とぶつぶつ言っているが、本人も自覚している通り、顔立ちは派手な部類ではない。
 それでも、ラシェルにはルーシーだけが特別だ。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...