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好きだ *sideラシェル④
しおりを挟む過去を話すことでさらに軽蔑される可能性もあり本当に怖かったが、心の広いルーシーは受け止めてくれた。そのことに救われる。
なのに、受け入れてもらえたらもらえたで、本来どうして話そうと思ったのか、ルーシーだから話しているという部分が伝わらないことにも苛立ち、それと同時に男の存在がまたじわじわと気になりと、自分の感情なのに制御できない。
自分は汚いと、話を聞いてくれるルーシーを汚したくない気持ちもあるが、だからといって誰かに譲ってもいいだなんて思えない。
ルーシーなら受け止めてくれるかもと期待する心もあって、自分でクズだと言いながら、心の奥底で期待する。
――本当、自分は最低だ。
義母たちを、見目や身分を目当てに性的に関わろうとしてくる異性を、軽蔑しておきながら遊んでいた自分は、身体も心も綺麗ではない。ルーシーに触れる資格があるとは思えない。
なのに、握ってくれる手だとか、繋いでもいいのだと教えてくれる温もりに、好きが止まらない。
もっとルーシーに触れたいと思う。
こんな俺でも受け止めてもらえるのなら、一緒にいたい。誰にも譲りたくない。横にほかの男がいるのは耐えられない。
ここにきて、オズワルドの徹底するような愛情の、質は違えど相手を想うのに相手の気持ちを知る前に動きたくなるような衝動を理解した。
今を信じてもらって、少しの可能性をかけて少しずつ距離を縮めていけたらと思ったのに、ろくな人間関係を築いてこなかった自分はルーシーの前では情けないことばかり。
あの時一緒にいた親しげな男が従兄であったことや、過去を聞いて引かれはしなかったが、まったくく伝わらないことに焦りが出る。
「ははっ。えっと、そういえば、ラシェル様も女性と」
「あの女性は侯爵子息としての付き合いだから、遊ぶとかそういった人ではないよ。俺が好きなのはルーシーだから」
伝わらないもどかしさや、こみ上げる想いをそのまま、本人を前にしてまだ伝えるつもりのなかった言葉が出てしまう。
「えっ?」
「あっ」
凝視され、自分が何を口にしたか理解し、びっくりするほど顔に血が集まるのがわかった。
恥ずかしくて顔を隠すように片手で覆ったが視線が合うとラシェルは徐々に顔を赤らめ、その顔を隠すように片手で覆った。
「その……」
「ごめん。今日はここまで言うつもりはなかったんだ。さっきも本当にごめん。いろいろ焦ってかっこ悪い。俺の信頼は底辺だろうから偽りなく包み隠さず話して、そこから少しずつでも距離を縮めていけたらってそう思ってたんだけど」
「そうなんですか……」
何もかもルーシーの前では格好がつかない。
それでも出してしまった言葉を撤回する気はないし、ここで有耶無耶にするとさらに信用をなくしてしまうだろう。
ラシェルは意を決し、自分の気持ちをなるべく素直に話すように心がける。
ルーシーの前に跪きこんな俺が触れてもいいだろうか、触れさせほしいと願いながら、ルーシーの両手の先に触れた。
「改めて言わせて。俺はルーシーが好き。あの日話してからずっと気にはなっていたのだけど、男といるのを見て、すでに相手がいる可能性や取られる可能性に焦った。そこから好きだと気持ちを自覚した」
先ほど仕出かしてしまったこともあり、振り払われないこと、嫌悪が浮かんでいないことにほっとする。
黙ったままのルーシーに反応はないけれど、ラシェルは少しでも想いが伝わるように言葉を重ねた。
「ルーシーが俺をそういう意味で見ていないことは知っている。だけど、この話をしたのはもうこれ以上の失態は犯したくないし誤解されたくないから。伝わらなくて焦ってしまったけど、ルーシーを怖がらせたいわけでも困らせたいわけでもない。だけど、いつかはルーシーにこの想いが届くといいなと本気で思ってるから」
「……わかりました」
ルーシーにとっては考えもしかかった告白なのだろう。今までの反応を見ると明らかだ。
だけど、口に乗せて伝えた言葉は、ラシェルの胸を熱くした。
「ルーシー。俺の本気から逃げないで」
好きがもう抑えきれない。
どうか、と願いながらじっと見つめ、ラシェルは触れていた手に力をこれ以上込めることはできず、変わりにとばかりきゅっとルーシーの袖を掴んだ。
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