巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
上 下
54 / 63

好きだ *sideラシェル③

しおりを挟む
 
 その後、アリスが乱入してきたので連れ出したりと、まるでリミットに気づいたのかと思うくらい、アリスの行動が派手になってきた。
 そのため、ラシェルもルーシーに話しかける時間を邪魔されていた。
 それでも忘れられまいと一時の感情で気安く誘っているわけではないとわかってもらえるよう、必死に話す機会をもらえるようにルーシーにアプローチをした。

 ようやく了承を得て、学園の屋上へと連れ出すことに成功する。
 そうなったらそうなったで、心臓が破裂しそうだった。
 腰に手を回そうとしてあっさりと断られて、なんとか逃がすまいとルーシーの袖を掴む。

 異性、――何より特別な女性に対して、当たり前のようにしてきた自分の行動を拒否されてしまえば、どうしていいのかわからない。情けないことに、距離の詰め方がわからない。
 嫌われないように、それでいて逃げられないように、ぎゅっと掴む手に力が入る。

 結局、ラシェルが差し出せるものといえば、ルーシーに指摘された右目に関わる母親のこと、それに伴う義母たちにされてきたことからくる女性不信。
 ろくな話でもなく、知られなくていいのなら知られたくない。

 だけど、ルーシーの中で意味のわからない男になっている自分には、それを話さずして先に進めるとは思えなかった。
 指摘されたこと。ルーシーは気にしていなくても、そこを曝け出す以外に、今はどうだとか言ったところで信用なんてしてもらえない。
 今までの自分が自分だったから、何をどうすればルーシーの信頼を勝ち取れるのかもわからない。

「……それで、お話というのは」
「ああー。まだ心の準備中。もうちょっとルーシーを見ていたい」

 話を振ってくれたのに、やっと機会がやってきてルーシーと二人きりだという事実を噛み締めながら、気持ちを落ちつかせる。

 これで嫌われてしまうかもしれない。
 関わりたくないと思われるかもしれない。

 そう考えると、少しでも長く見つめていたかった。
 口に出すのはとても怖くて、心臓が壊れるかと思うくらい早鐘を打って締め付けてくる。

 今のままでは、何をしてもそうかと軽く流され終わりである。卒業してあっけなく関係がなくなってしまうのは目に見えていて、それを考えるとさらに胸が締め付けられた。
 この日が来るまでいろいろ考えたことを思い出して、自分を叱咤する。

「手、繋いでもいい?」

 縋るような気持ちでルーシーの顔を覗き込み手を差し出すと、ルーシーはおずおずと手を重ねてくれる。
 自分より柔らかくて小さな手。
 やっぱりルーシーは優しくて、ラシェルにとってかけがえのない温もりをくれる人だ。

「これでいいでしょうか?」
「ありがと」

 少なくとも、手を握るのを厭われる存在ではないのだと勇気づけられる。
 それとともに、触れたらもっと繋がっていたくて、解けにくいように素早く恋人繋ぎのように指を重ねた。

「いえ」

 ルーシーは戸惑いがちに手を見つめたが結局何も言わずに、そのままラシェルのしたいようにさせてくれる。
 好きだと気持ちが溢れて止まらない。それと同時にさらに怖くなる。
 さっきから感情の浮き沈みが激しくしんどいけれど、手を繋いでいる喜びが一番上にくる。

 初めて知ったルーシーの柔らかな手のひらの感触。小さな手。
 こうやって女性と手を繋ぐのは初めてで、そのすっぽりと収まる小ささや柔らかさが愛おしく、しばらく握る強さや角度を変えたり、指を這わせたりしてルーシーの手の形を覚えるように動かす。

 こんなにも話すことが怖いと思うのは相手がルーシーだから。
 こんなにも安心を覚えるのもルーシーだから。

 どうしたら軽蔑されずに、信用してもらえるかのだろうか。
 そういった不安もあるけれど、当時のことを自ら語るのは初めてで震えが止まらず、ラシェルは気づかれないように深呼吸を繰り返した。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...