51 / 63
気になって仕方がない *sideラシェル③
しおりを挟む――なんだよ、それっ!!
ルーシーから、絡められた男の腕から、視線が離せない。
自分たちの関係は互いに事情があることを知っているだけで、あの日以来、特にそのことについて深く話し合い、わかりあったたわけもないただのクラスメイトである。
怒りを覚える権利なんてないのに、どうしても強い怒りがこみ上げてくる。
「こんにちは。ラシェル様」
「意外なところで会ったね」
居心地が悪そうに、ルーシーが会釈をしてくる。その間も男から離れようとしない。
こちらもエスコートしている最中だから女性と腕を組んではいるが、あくまで貴族のマナーとしてだ。
自分のことは棚に上げているとはわかりながらも、そんなにくっついてどういう仲なのかと詰め寄りたい気持ちが膨れ上がる。
ラシェルは曇る心とは裏腹に無理矢理笑みを浮かべながら、男とルーシーをじっと見つめた。
「……えっと、今日はデート日和ですね。その、この後用事がありますので失礼しますね。行こ。ブライアン」
たじたじになりながら、ルーシーは逃げるように男の腕を引っ張りさっさと離れていく。
その最中、男が親しげに顔をルーシーに寄せ何かを話し、ルーシーもさらに男のほうに顔を寄せるとこそこそと二人で話し合った。自然と顔を寄せ合うその距離感は、ずいぶんと互いに心を許しているように見えた。
自分にはひどく素っ気ないのに、男の存在なんてまったく匂わせなかったのに、その男のためにそこまでおめかしをしたのかと思うと、気持ちが今までにないほど荒れてささくれていく。
どうして、なんで、とひどく胸が苦しくなる。
ぱっと見だが、まっすぐなルーシーに似合う、爽やかないい男だとは思う。互いに信頼し合っているとわかるやり取りに、自分との関係を比べてしまう。
婚約者や恋人はいないと言っていたが、ちゃんと大事にしてくれる男がいるじゃないかと、苦々しい思いが止められない。
キスする前に、お互いに好きだと言い合っていた。
やっぱり恋人なんじゃ? いや、でも、いないと言っていた。
でも、好きだって……。ラシェルは見かけた時の衝撃現場を今更のように思い出す。
ルーシーが嘘をつく必要もないから、あの時はいなくても、もしかしたら最近できた可能性もある。
でも、ほぼ学園にいていつの間に作れるのか。
男に好かれようとあんなにおめかしするほど、あの男がいいのだろうか。ああいう男がタイプなんだろうか。
胸が痛い。
息が苦しい。
たくさん汚れた自分が触っていいような子ではないのだ。
関わらないほうがいい。
彼のような男がルーシーを守ってくれるし、学園でもルーシーは悲壮感もなくそれなりにクラスに溶け込み始めているから、ラシェルの助けなど特に必要としていなくて、いてもいなくてもどっちでもいいのだろう。
現に、ルーシーはラシェルに興味がないのは明白だった。さっきも女性といたのに、いつものこととばかりに対して気にせず去っていった。
むしろ、気遣われ、そして邪魔をするなと言われたような気がした。
自業自得。
学園でそうすることを選んだのはラシェルだ。
だけど、ルーシーという眩しい存在を知った今は、もっとほかに方法があったのではないか、逃げずに考えていれば、もう少しマシな自分にいられたのではないかと思わずにはいられない。
姿が完全に見えなくなっても、ルーシーのことが頭から離れない。
しまいには考えすぎて気分が悪くなって、連れの女性に心配させるほどラシェルは顔を青くさせ、用事を終えるとふらふらと倒れそうになりながら帰宅した。
98
お気に入りに追加
3,431
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる