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アリスの被害者 *sideラシェル②
しおりを挟むそんなトラブルメーカーはオズワルドでなくても、考えるだけで辟易する存在だ。ラシェルはふぅっと疲れた息を吐き出した。
「ああ。オズワルドはシルヴィア嬢に被害がいかないように接触をなるべく避けてきたんだったよね。健気なのか強引なのかよくわからないな」
「大事な人ですからね。必ず守ると同時に誰にも彼女を渡したくありませんので。最優先を考えて動いてきたまでです」
ぶれることのない意思を持って断言したオズワルドの姿を、ラシェルはじっと見つめた。
絶対だと信じて疑わず突き進める気持ちの強さは、ラシェルには眩しくも歪にも、そして重くも感じる。しかもクラスメイトというだけで、よく知りもしない相手をそこまで思えるということが理解できなかった。
胸の辺りがなんだかすうすうする。
「へぇー。それほど大事ってことなのだろうけれど、俺にはわからないな。とにかく、オズワルドが言うようにアリスの言動が最近ひどくなってきてるいのは確かだよね」
「今日も私といると楽しいでしょって、あなたの刺激のない日常は私がいれば大丈夫とかなんとか言ってましたね。確かに悪い意味で邪魔なので刺激にはなりえるのでしょうが」
オズワルドがうっすらと笑みを浮かべ、その時の不愉快な気分を思い出したのかゆっくりと目を細めた。
周囲を凍りつかせるような表情をオズワルドにさせるって、アリスの心臓は鋼でできているのではないかと思うほどずぶとい。
「どこからそんな自信が出てくるのか不思議だよねぇ。身体に触れてこようとするのも露骨だし、なぜかやけに過去を聞きたがろうとするし。その上やたらと上から目線で同情するぞ、私はわかってあげられる感を出されるし。何をしたいのか理解できない行動ばかりでついていけないよ。それにこの前もとばっちりで、女の子にアリスがいいんでしょって振られたし」
ラシェルは右前側だけ長めに伸ばした髪の毛先をくるくる回しながら、軽く口を尖らせ大きく溜め息をついた。
少しでも側近としてアンドリューへの被害を減らしたくてアリスに話かけるようにはしているが、彼女の相手はなかなか気を遣う。
なにせ、言動が理解できないことが多すぎる。常識が通じない。元平民だからと言い訳が通じないレベルで意味がわからない。
男爵の動きや光魔法保持者であることや、彼女が使う妙な魔法の正体が最近わかった魅了魔法のこともあり、様々なことを配慮しながら機嫌を取らないといけないからだ。
むしろ、異性として意識するよりはおかしな生物として映っているので、その辺は過去のトラウマを思うとありがたいのだが、精神的にはかなりしんどい相手だ。
「ラシェルが女性との付き合いをどうするかは相手も同意している関係なのだから多くは言わないが、後悔するようなことだけはするな」
「やだなぁ。俺は楽しんでいるし相手も同じだよ? それに彼女たちから出る情報は結構役立つこともあるしね」
「……はぁ。無茶はするなよ」
アンドリューは懐に入れた者は大切にするタイプで、あの件のこともあり気を配ってくれているのは感じる。
女性好きと公言しているのを、まったく信じてくれていない。女性と遊ぶことを快く思っているわけではないようでこうしてときおり触れてくるが、否定も肯定もせずにそっとしておいてくれている。
汚したいと思う衝動が抑えきれないとき、相手が寄ってくるのならもういいだろうと、あっさりと楽なほうに流されている自覚はあった。
相手から寄ってくるのなら、少しでも殿下たちの役に立ちたい。女性に対して隙のない者がちばかりなので、自分が隙を作って情報をと思う気持ちもあった。
それがあの時に助けてくれた彼らに報いること、自分にはこういう生き方が合っていると思っていた。
それに後悔する日がくるとは考えていなかったし、オズワルドの言う、守りたいけれど強引な手を使ってでもどうしても手に入れたいと思う気持ちを理解する日が自分にも訪れるとは考えもしなかった。
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