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とくべつ4

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 部屋に入ると話もそこそこにベッドに座らされ、ラシェルの唇が大事な宝物に触れるように、ルーシーの髪、そして額、眦へと労るように落ちてくる。

「ルー。好きだよ」
「私も好きです」

 ちゅっと軽い音を立てて、瞼に唇が落ち離れていくと、ルーシーは閉じていた目を開けた。
 視界の先には、雄くさい欲望を隠さず滴るような色気を醸し出したラシェルがいる。
 撫でるように首に添えられたあからさまなお誘いに、くらくらと眩暈いまでしてきた。

 腰を引き寄せられて深く唇を奪わる。
 そのままベッドのシーツ上に倒されて、覆い被さるようにさらに深まるキスに翻弄された。
 服を一枚ずつ丁寧に脱がされて、なだめるように優しく撫でられながらあっという間に下着だけとなった。

「綺麗だ」

 小さな胸に視線を向けられ、かぁぁっと顔が赤くなるのがわかった。
 だけど、それっきりじっとルーシーの身体を魅入るだけで、ラシェルは手を止めてしまう。

「ラシェル?」

 声をかけると、欲望をちらつかせながらもラシェルは口元に左手を当てて少し眉尻を下げた。
 右手で優しくルーシーの頬を撫でながら、なんだか困ったような悲しげな顔をする。

「ごめん。あまりにもルーが綺麗すぎて、こんな俺が触ってもいいのかと思って」

 しごく真面目な口調で告げられて、ルーシーは恥ずかしいことや緊張が一瞬飛んでいく。

「何を言っているのですか? 胸は小さい自覚ありますし、そんな見惚れられるような身体でもないと思うのですが」
「肌も何もかも、この手にすっぽりと収まりそうな胸も可愛くて食べてしまいたいほど綺麗だよ」

 欲望ダダ漏れな言葉に、ルーシーは苦笑する。
 ラシェルの左手は触るのを止められないと、ずっとルーシーの頬と首元を行き来している。視線は胸へと向けられているので情欲を感じているようだが、なかなか先に進もうとしない。

「なら、どうして……」
「俺の今までとか考えたら汚してしまいそうで。――欲しいのに、もっと触りたいのにルーが、ルーだけが特別で、好きすぎて怖いんだ」

 そうだった。なによりも過去を気にして引きずり、後悔しているのはラシェル本人だった。
 優しくて臆病で可愛い人。それがルーシーの恋人だ。

「私は汚れませんよ? 好きな人と一緒になることが汚れるなんて思いません。精神的なものからそういうことを好まれていたとしても、今は違うのでしょう? さすがに今も遊んでいるとかならドン引きですけど」

 むしろ、現在も遊んでいるなら別れる案件だ。
 過去は過去。たくさんの女性と関係を持っていたことをまったく気にならないわけではないけれど、大事なのは今、そしてこれからである。

「絶対ない。俺が欲しいのはルーだけだよ。ルー以外は触りたくもない」

 言い切る力強い口調に、ルーシーは胸が温かくなって、小さな笑いが喉から漏れた。
 ラシェルが自分のことを好きでいてくれて、欲しいと思ってくれるのなら、ルーシーは彼のものだ。

「なら、お互いがそういう気持ちならいいじゃないですか? というか、私は初めてなのでこの状態でこういう会話はちょっと落ちつかないのですが」

 進めるか退くかどっちかにしてほしい。
 自分の状態を意識するとじっとしていられず身じろぎすると、ラシェルが肩の上に顔を埋めてきた。

 熱い吐息がかかり、ぐりぐりと甘えるように額を押しつけて、きゅうっと抱きしめてくる。
 ぐりぐりとしつこいほど擦り付けられて、甘えるような仕草が可愛らしいと思ったら、そのまま顔をずらして胸の先端をぱくりと口に含まれた。

「んな?」
「これ、俺が触って食べてもいいんだね」

 急な触れ合いに色気のかけらもない声を上げると、ラシェルが垂れた目を細めてはむっと加えながらにやりと笑った。
 その双眸には、獲物を見つけた喜びがじんわりと広がっている。

 我慢に我慢を重ねていたらしいラシェルは、一気に本能を解放したようだ。
 ふにふにと手触りを確かめるように触り、次第にその動作は大きく遠慮がなくなっていく。

「ルー、愛してる。すべて俺にちょうだい」
「はい。優しくしてください」
「もちろん。たくさんとろけさせて、ルーがはまるほど気持ち良くするから」

 ものすごく不安だ。
 本当に手練手管で実行してしまいそうで、恐ろしい。
 だけど、そうしたいと思う気持ちも含めてラシェルである。
 不安は拭えないけれど、私だけだと言うのなら、お互いが求め合えるのならそれでいいかと、全身で欲しいんだと求めてくるラシェルに、ルーシーは身体を預けたのだった。



-FIN



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

お付き合い、お気に入りに感想、エールや誤字報告と本当にありがとうございました(人∀≦+))♪

ラシェルsideのリクエストをいただいたので、せっかくなら王子たちとの絡みやルーシーへの思いや絡み、アリスの断罪のことなどをラシェル視点で数話と思います。
ゆっくり更新となりますが、お付き合いいただけたら幸いです‼︎

想像以上にたくさんの方にお付き合いいただき、ありがとうございます‼︎
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