巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
上 下
34 / 63

はじめての恋3

しおりを挟む
 
「ええ。でも、私はその優しさに救われました。手を差し伸べて身体を張って助けてくれたのは他でもないラシェル様です。想いを告げられて、応えたいって思う気持ちのほうが強いんです。そんな状態でも良ければお付き合いから。その先のことは二人で話し合っていけばいいのかなって思いました」
「ああ、ルーシー。その潔さ。俺はどうしたらいいんだ……」

 どうしたらいいんだって。

「ラシェル様の思うようにされてはどうでしょうか」
「男にそんなことを言ってはダメだよ」

 無理強いをしてくることはないと信じているし、彼が望むことを受け入れたいと思う範囲で応えていけば、この気持ちも育っていくのではないかと思っている。
 そう告げると、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜて、目尻を赤くさせたラシェルにきっと睨まれた。

「ルーシーは俺を喜ばす天才だね」
「それは良かったです」

 そういうところがと、ブツブツと文句のようなことを言い出すラシェルに、ルーシーは苦笑する。
 平凡な見た目と普段は地味な服装をしているので大人しく見られているから、ぽんっと発言するとこういうやつだと思わなかったと、生意気だと受け取られることがあると自覚している。
 領地ではそれで距離が出来てしまう人もいれば、仲良くなることもあったので、礼儀さえ欠かなければ自分らしくいようと決めていた。

 ラシェルは好意的に受け取ってくれているらしく、端整な顔を手で覆ったあと、目元を出すと上目遣いで見つめてくる。
 その瞳には右目は赤みが、左目は金の輝きが細やかに散っていた。

「したいこと……、学園でできる限り一緒にいたいし、デートをたくさんしたい」
「いっぱい出かけたいですね」

 ルーシーがうんうんと頷くと、ラシェルは幼い子がお菓子を目の前にして喜ぶかのように、ぱぁっと喜色を全面に押し出して笑った。
 ルーシーが先のことを語ったのがよほど嬉しかったようだ。

 素直な反応に口元を綻ばせると、ラシェルはさらににこにこと笑みを浮かべた。
 ルーシーをぎゅうっと抱きしめると、ぱっと力を緩めて、くぅんと子犬がご機嫌うかがうようにじっと見つめてくる。

「今はくっついて、ルーシーの存在を確かめていたい。あと、…………もっと触れたい。キスしたい」

 こてんとおでこをくっつけて、鼻を擦り付けてくる。
 手慣れた動作ではあるが、声や見つめてくる眼差しがこちらが引きそうになるほど真剣で、それらの行為が嫌だとは思えない。キスをすることも、嫌だとは思わなかった。

 ただ、ルーシーはキスをしたことがないし、したいと言われてどう反応すればいいのかわからない。
 困ったように瞼をわずかに伏せると、こそこそっと秘密を告げるような小声で、ラシェルが爆弾発言をしてくる。

「俺、キスは初めてなんだ」

 びっくりして顔を凝視すると、ラシェルの顔が真っ赤になった。触れたおでこからも熱が伝わってくる。

 こんな時に嘘を吐くような人ではないとわかっているが、あれだけ女性と戯れていてのそれは信じられなかった。
 キスをしたいと言われたことより、そちらのほうが衝撃でぽかんと口が開く。
 困ったように微笑を浮かべたラシェルが、躊躇いながら続けた。

「キスだけは誰にも許してないし、してこなかったから。ルーシーにもらってほしい。ここだけは汚くないから」

 ルーシーは瞑目し、長い、長い溜め息をついた。

 ――やっぱり過去を気にしている。

 ルーシーのことを思うからこそ、そういうことを気にしてくれているのはわかるのだけど、なんだか悔しかった。
 もじもじと身体を捩らせラシェルから距離を取ると、拒否されたのかと思ったのかラシェルは傷ついたように表情を曇らせた。

 ルーシーは動かしやすくなった両手でラシェルの頬を挟み、今度は自分から彼のおでこに額をくっつけた。
 微苦笑を浮かべながら、言い聞かせるように一言一言丁寧に言葉を発する。

「ラシェル様は何も汚くなんてないです。なので、ラシェル様が私に触れたいと思うのなら、そのように触れてください。嫌なときははっきり言いますから」

 彼と一緒にいたいと思う気持ちに突き動かされる。
 これが好きという気持ちからなのかはやっぱりわからないけれど、嫌いならこんな気持ちを抱かない。
 少なくとも異性として一番気になる人に違いはないので、ルーシーにとってもラシェルは特別。
 それを自覚してしまうと、すべてが愛しくなった。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...