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アリスの暴走2
しおりを挟む「挙げ句にはルーシーにもう関わるなですって。何でなのよ。みんな私のことを好きになるはずなのに!」
大きな瞳でぎろりと睨まれるが、まったく可愛いと思えないし怖くもない。
――意味がわからない。それを聞いてどうしろと?
ルーシーは短い溜め息を漏らした。
魅了魔法についてアリスは自覚ないようだと王子には聞いていたが、この発言の根拠はいったいどこからくるのだろうか。
「アリスが何を焦っているのかわからないけれど、好かれたかったらそれ相応の態度は必要だと思うけど」
「お助けキャラがえらそうに何を言ってるのよ。私のことを助けていたらいいのに、本当に役立たず」
やっぱり話が通じないようだ。
アリスの言葉に今更揺さぶられない。アリスのよくわからない要望に応えたいわけではないから、別に役立たずでもいい。
なぜ、同性であるルーシーがあんなにもアリスの魅了に惑わされたのかわからないが、今は彼女の影響下にないので、自滅していくアリスが哀れにも感じる。
自分がされてきたことを思うと手を差し伸べたいとまでは思わないけれど、一年以上彼女のそばにいた。
もう関わりたくはないけれどわずかに情みたいなものはあって、完全に突き放すことはできそうになかった。声が届くのなら届いてほしい。
「もう誰もアリスを助けてくれないよ。思い込みで動くのは自分の首を絞めてると思う」
「モブなんかに意見を言われたくないわ。なによ、その視線。ラシェル様に声をかけられてるからっていい気になって。誰も彼もムカつく!」
感情を爆発させたアリスにまた『モブ』だと言われ、ドンッと思いっきり肩を押される。
「あっ!」
「えっ?」
押された拍子につるりと足を滑らせて、ルーシーの身体ががくんと傾いた。身体が放り出される感覚にとっさに掴めるところを探した手は宙をかき、そのまま落下していく。
人目に付かないように、階段の隅で話していたのが悪かったと後悔しても遅い。
――これ、やばいかも。
魔法でどうにかできるとも思わないし、そもそも身体を浮かすほどの魔力は自分にはない。
傾いていく視線の先には驚いた様子のアリスの顔があり、故意ではなかったのだとちょっとほっとした。
散々巻き込まれてきたけれど、怪我をさせたいほどの悪意を向けられていたのだとしたら悲しい。
いや、暴力は許せないし、このことを許すつもりはないけれどと、考えられたのはそこまでだった。
衝撃に備えてぎゅっと目をつぶると、階段の上で、「何しているんだ」と怒鳴るような声がして、キャーとアリスが叫ぶ声がすると同時にぐいっと力強く腰を引かれ長い腕に抱き込まれた。
そのまま相手と一緒に落ちる浮遊感のなか、ふわりと複雑な甘い匂いを感じた。決して甘すぎることはないこの匂いをルーシーは知っている。
ドンと上下に身体が揺れ地面に着地する気配がし恐る恐る瞼を開けると、顔色を青くしたラシェルの険しい顔がそこにあった。
「……心臓縮むかと思った」
言葉とともに焦った低い声が頭上から落ちてくる。
ルーシーはぱちぱちと瞬き、階上にアリスがいることを確認し、ラシェルが持ち前の身体能力と魔法駆使して助けてくれたのを知る。
抱かれたままなのでルーシーの足は浮いているが、無事、足下からの着地が成功したしたようだ。
着地前に下から浮き上がる風を感じたので、ラシェルが魔法を使って衝撃を和らげてくれたらしい。
結構な高さから落ちるところだったと、下から見ると今更ながらに心臓がどくどくと忙しなくなった。
ラシェルが助けてくれなかったら、酷い怪我をしていたかもしれない。その事実に遅ればせながら身体が震え出す。
「ルーシー。もう大丈夫だから」
「はい」
とんとんと背をなだめるように叩かれて、ルーシーは震える手で彼のジャケットを掴み顔を埋める。
彼の心臓もルーシーに負けないほどうるさく、飛び出てしまいそうなほど大きな音にびっくりして思わず見上げると、ラシェルはなぜか思いっきり眉をしかめた。
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