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ラシェルの本気3
しおりを挟む「ルーシーから目が離せないんだ。大人しく流されるタイプだと思っていたらそうでもないし、今も意思表示をはっきりさせて睨んでくるし」
「悪いですか?」
「いや。そういうところもいいなと思うよ」
心なしかいつもより声が低い。どこまで本気なのかとまじまじと見れば、少し身を屈めたラシェルが金茶の瞳でじっと見つめてくる。
「うっ、それはありがとうございます」
戸惑いながら頼りなくお礼を告げると、そっと羽毛を触るように頬に手を添えられた。
「ルーシーのことを考えると、温かいのに苦しくなるんだ。あの日だって、化粧っ気ないからそういうのに興味がないのかと思ったら、あんなに身体のラインが見えるようなセクシーな格好していたし」
「それは…………」
「ね、なんであんな魅力的な格好していたの? 誰のために? かなり男の目を引いてたよ」
するりと顔を撫でられ、珍しくもない茶色の髪を壊れ物を扱うかのよう優しく梳かれる。
髪にも神経が通っているのではないかと思うほど、ラシェルのすることに全神経が集中するのがわかった。
「ラシェル様……」
「あの日、横にいた男は誰?」
「男……」
それはブライアンのことだろう。
誰のためと言われれば、ブライアンのストーカー対策で選んだ格好だからブライアンのためなのだけど、火に油を注いでしまうことがわかっていて、ここでその名前を出す訳にはいかない。
「通りでとても仲良さそうにしていたよね?」
「ずっと仲は良いので」
小さな頃から可愛がってもらっていた。歳も五つも上で、何をやるにも一足先にこなしてしまうブライアンは身近なヒーローである。
小さな頃から頼れるお兄ちゃん的存在で、お世話になっていた。
なので、そんなブライアンだからルーシーも一肌脱いだのだ。今回の成果のほどを詳しく聞いていないが、ご褒美の化粧道具ぐらいの働きができていたらと思う。
そもそも、ルーシーの近くにはよくも悪くも個性的で自立している人が多く、土地柄さばさばしていて率直で陽気な者が多い。
最近思うことだけど、王都はラシェルのように何を考えているのかわかりにくい人が多すぎる。
それに加えて一年以上まともに思考できていなかったルーシーは、学園での人との距離の取り方、特に積極的に関わろうとしてくるラシェルにどう接していいのかわからず戸惑いのほうが大きい。
「……そう。恋人や婚約者はいないと言っていたから安心していたのだけど、なんであんなに近い距離で好意を寄せるようなことを言っていたのか聞いてもいい?」
最後のほうは呻く低くような声音が落ちる。
まるで不義をしたかのように責められ、ラシェルが急に知らない男の人に変わってしまったようでルーシーは怖くなった。
本気で襲われるとは思っていないけれど、知らない間に身体が震える。どうしても敵わない体格差を目にして、本能的に恐怖を感じてしまった。
「ごめん。怖がらせた」
だが、ルーシーの状態に気づいたラシェルが謝罪しながらすぐさま身体を退けて、ゆっくりと上体を起こすのを手伝ってくれる。
また身体ひとつ分スペースを空けて座ると、ラシェルは大きく息を吐き出して沈痛な面持ちで再度口を開いた。
「ごめんね」
「私こそすみません。ラシェル様にどうこうされると思ったわけではなくて、いろいろ急で驚いてしまって」
「どうこうは許可なくはしないよ。無理矢理ほど嫌なものはないしね。本当怖がらせた。ごめん」
それから、ここに来る時のようにルーシーのブラウスの袖をおずおずと掴み、ルーシーが拒まないとわかるとほっと息を吐いた。
急に異性の一面を強く押し出されるのは困るけれど、こんな風にうかがうように距離を縮めようとされると、憎めなくてふっと肩の力が抜ける。
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