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取り戻した日常2
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学園からそれほど遠くないメイン通りには、若者に人気の飲食店や雑貨店が建ち並ぶ。
ルーシーは、外出用のおめかしをしてそのうちの白い建物の前に立っていた。
「ね、一緒にそこのお店に入らない? おごるよ」
「ごめんなさい。人と待ち合わせをしているので」
先ほどから、ちらちらとルーシーを眺めていた男性に声をかけられ、広場にある時計を見る振りをして待ち合わせであることをアピールする。
すでに三人目となる相手を断ったところで、男の人って外見に左右されすぎないだろうかと、こそっと溜め息をつくと同時にちょっと嬉しく弾む気持ちを押し込める。
おめかしをした時に、注目を浴びることは嫌いではない。
それだけ自分がうまく変身できたということだから、自分の技術が認められたようで嬉しいのだ。
今のルーシーは誰が見てもとまでは言わないが、平均的な美人に見られているはずだ。
実年齢より三つ上の二十歳くらいに見られているのではないだろうか。
地毛より明るい茶色の腰まであるウイッグをかぶり、赤い口紅を引いて目元はぱっちりと仕上げている。胸のほうは派手目に仕上げた今の顔に似合うようにもっているし、ヒールも七センチのものを履いているのでスタイルも良く映っているはずだ。
身内ならルーシーだとわかるだろうが、学園の者は自分が地味で目立たないルーシー・マレットだとは誰も気づかないだろう。
ルーシーの実家は小さな領地を管理しているのだが、漁港に近く、そして陸路でも王都には必ず通ることになる場所で、業者などは通り過ぎていくが旅一座などが休憩に寄っていくことも多かった。
そこで毎年やってくる一座のお姉さんたちと仲良くなり、着飾ること、自分と違った人を演じることの魅力にはまった。
全体的に地味であるからこそ化粧映えする顔立ち。普段地味で目立たないことも誇りにさえ思うほど、自分の手で自分とはまったくイメージの異なる姿になるのは楽しかった。
「おっ、いたいた。ルー」
懐かしい低い声で愛称を呼ばれ、ルーシーは顔を上げた。
がっちりした体型の赤茶の短髪の青年がルーシーを見て手を振っている。本日の約束の相手、従兄弟のブライアンだ。
「ブライアン!」
今はヒール込みで百七十センチはあると思うのだが、百九十センチを超えているブライアンはそれでも見上げなければならなかった。
高いヒールを履いてきたのも彼の身長に合わせてなので、並ぶとバランスがいい。ヒールは疲れるのだが、今日はデートという名目なので二人で対に見えないと意味がない。
「今日も美人だな」
ブライアンは自分の前までやってくるとにかっと笑い、ルーシーの頬にふわりと触れるだけの親愛のキスをした。
「そうでしょ? 渾身の出来だからもっと褒めてくれてもいいよ」
「ああ。いつ見ても可愛いよ。このまま連れ去りたいくらいだ」
「ふふっ。口が上手いよね。じゃあ、素敵なエスコートをよろしく」
「任せとけ」
五つ上のブライアンから、同僚の女性につきまとわれており現在付き合っている恋人もいないからと臨時彼女をお願いされた。
報酬は、高くて買えなかったずっと欲しかったメイク道具。もちろん二つ返事でオッケーした。
今週は仕事でその女性を含め王都に来ているため、休日の自由行動の間は可愛い子に会うからとそれとなく匂わして出てきたようだ。
どこで見ているかわからないから、しっかりなりきってこの日は恋人設定で一日王都デートをする予定だ。
嘘は露見したときに面倒だから彼女とまでは言及していないし、気を楽にしてそう思わせる振りをしてくれたら助かると言われている。
男性といっても小さな頃から兄のように慕っている従兄なので、それっぽく振る舞うことは特に難しいことではない。
それに、あのよくわからない状態から脱出しアリスから逃れて初めての王都散策は、ルーシーも心躍るものだった。
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