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遊び人の気まぐれ2
しおりを挟む別れ話?
身体の関係のみで付き合っていないようだから別れ話ではないのだろうけど、もうこれからは関係しませんよと言っているのだから、別れ話なのかな。
繰り広げられたやり取りに思わずどうなるのかと見てしまったが、どうでもいいかとルーシーは掃除を再開させた。
彼らがこの後どうするかはこの部屋を使わない限りルーシーには関係のないことだし、言い合いしている間に片付けを終えたら、後は仲直りするのかそのまま別れるかも彼ら次第だ。
ラシェルたちのことを思考から追い出し、言い合っているのを聞き流しながらごしごしとモップで水を拭き取っていると、パシッと肌と肌がぶつかった音にルーシーは再び彼らを見る。
叩いたような音を聞いては、さすがに知らない振りもできない。
「ラシェル様。どうしてっ」
背伸びして顔を近づけている美女はラシェルにキスを迫ったようで、ラシェルはその彼女の手を払い顔を背けていた。
キスを拒否された美女の悲痛な声に、ラシェルはわずかに浮かべていた笑みさえも引っ込めてすぅっと表情をなくした。
普段はふらふらと細かいことは気にしないとばかりのラシェルに鋭い視線で見下ろされ、美女はかたかたと震えだした。
ラシェルの彼女を見る双眸は、あまりにも無機質で冷たいものだった。侮蔑を込めたような、存在さえも拒否するような鋭く凍ったもの。
女性に向けるような視線ではないし、普段怒ることがない人が怒るのって怖いよね。わかるよーとは思うけれど、居心地が悪いのでよそでやってほしい。
自分に向けられたものではないとわかるけど、少し離れたところにいる自分のところまでぴりついた空気が漂ってきて落ちつかなくなる。
なんか、掃除しづらい。
「そういうのはしないと言ったよね?」
「ごめんなさい」
「本当、もういいよ。最初に言ったよね? 俺は縛られるような関係は嫌だと。君といるよりマレット嬢といるほうが楽しそうだ。だから、どっかに行ってくれる?」
うわっ、女性を追い払うためのダシにされた。
ルーシーがこっそり顔をしかめると、それを見ていたらしいラシェルが自分に向かってわざとらしくにっこりと笑う。
落差がひどい。
言葉通りお前には興味ないと見せつけるために、わかっていて美女に見せつけてるよね?
――うわぁー、やめて!!
そんな見え透いた安売り笑顔で面倒押しつけないでほしい。
利用できることはすかさず状況を利用するところを見ると、ただの遊び人ではなく上に立つ人って感じだ。
語彙力が乏しくて言葉が見つからないけれど、雰囲気がいつもと違うし妙な圧も感じる。
王子の側近がただの遊び人なわけがないかと、感心するとともにやっぱり関わりたくないなと一抹の不安を覚えつつ、ちょっと恨めしくなる。
ダシにされてやっていられないと、ルーシーが感情を隠さず顰め面をすると、そこでラシェルは目を見張りぶはっと吹き出した。
「マレット嬢って」
――私が何?
もう厄介ごとは勘弁してほしい。
巻き込まれて面倒だなと眺めるしか出来なかったルーシーは、美女にきっと睨み付けられて嘆息する。
その後、美女は再度ラシェルへと視線を向けたが、彼は話すことはないと頑なに彼女を見ないので諦めて美女は去っていった。
ええー。本当、私は関係ないと思うのだけど。
完全に巻き込まれてしまった。しかも、美女に睨まれてしまった。
この教室を選んだのはラシェルたちだし、しかも使用用途は褒められたものじゃないし、完全に八つ当たりだ。
ぱたぱたと走り去る足音が聞こえるなか、涼しげな顔で立っているラシェルの姿に腹が立って思わず声をかけた。
「行ってしまわれましたが?」
「いいんだ」
美女を体よく追い払えたのだから追いかけるとは思ってはいなかったけれど、にっこりと笑顔で返される。
しかも、まじまじと観察するように見られており、ルーシーはそわっと視線を彷徨わせた。
「そうですか」
普段から何を考えているかわからない人物相手に行動の意味を考えても仕方がないし、ルーシー自身もやっといろいろ考えることができたばかりだ。
人のことより、まず自分のこと。いろいろ面倒くさくなったルーシーはモップを動かした。
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