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密やかな熱愛③
しおりを挟む「こんなに話す方だとは知りませんでした」
「確かに普段から話すほうではないな。もう解禁になったしさっきも言ったが、フローラを見ていたら制御できず手を出してしまいそうだったし、感情がダダ漏れになるようだからさすがにまずいだろうって周囲もな」
軽く横に流した金の髪が私を覗き込むときにさらりと落ち、ゆっくりと瞬きするたびに現れるエメラルドの瞳に緊張した面持ちの私が映り込む。
何もかも急で結婚を望むほど好かれている理由も気になるところだけど、しっかり根回ししているらしい押しの強そうな義兄にこのまま話が進む前にまず伝えておきたいと口を開く。
「私との結婚をということですが、私は貴族のしかも次期侯爵の妻として知識や教養は足りないと思います」
まだわからないけれど、気持ちが傾いた後でこんなはずじゃなかったとか絶対嫌だ。
好きだけでは成り立たないものがあるし、傷ついていた二年もあるので先にその辺ははっきりさせておきたい。
「確かにまだまだ未熟な部分はあるがもともと基礎はなっていた。義母が今後のためにとフローラに教育を施していたのだろう。あとは場数を詰んでいけば大丈夫だ」
確かに母はどれだけ忙しくてもマナーには厳しく、勉学もできることはといろいろ教えてもらった。
なので、字も読めるし計算もできる。母が働いていたのは貿易を営む大きな店であったことも良かったのだろう。周囲に教養がある人が多くて知識も得る場も多かった。
そのおかげでフローラ自身も小さな頃から手伝いもできたし、一緒に食事をする人には食べ方綺麗だねとは褒められていた。子どもながらに誇らしく、今もその部分は自分の自信に繋がっている。
「そう、なんですか」
少しほっとする。まだ気持ちはついていけていないので具体的に結婚を思ってというわけではないけれど、通用する、恥をかかないものだと言われれば嬉しい。
それに母を褒められたようで気持ちがくすぐったい。
「それに、フローラは何事も一生懸命だ。侯爵家に来てから、義母に迷惑をかけないようにと気を配っていたし頑張っていた」
「それは当然です」
苦労してきた母には幸せになってもらいたい。
だから、侯爵が母を見初め、侯爵と一緒にいる時の母の幸せそうな顔にこの人ならと思った。
「ここにいるのは二年だけといいながら、勉強も手を抜かなかった」
「知識は裏切らないので」
「そういうところがとても好ましいと思っている」
ストレートな言葉にぼぼぼっと顔が赤くなった。気づかないところでちゃんと見て認めてくれていたのだとわかり嬉しい。
そんな会話をしながら、あっという間にタイラーの商家に着いた。
「アルヴァートソン様。よくお越し下さいました」
「急な連絡にも関わらず対応に感謝する」
「おじさん。迷惑をかけてごめんなさい」
「いえ。もともとフローラのために開けていた時間です。それにこうなる予想はしておりましたから」
タイラーの父親がそう言って、私に子を見守るような顔で微笑んだ。
それから着々と私が働く予定だった穴埋めや、住居のことについて補填の話し合いを二人はしていく。
働き手がいるなら人を斡旋しようという話になって、もともと人手に困っているわけではないので結構ですとタイラーの父親が告げると、では何か購入しようということになった。
今回お世話になったこと、私たち親子のこともあり、ぽんっと私の目の前で大きな契約をされる。
おじさんも私が働くよりもこれからの商売にいいだろうし、これで私の働く必要はなくなった。もともとお願いして雇ってもらう立場なので強く言えない。
本当に困っていたら助けてはくれるだろうけれど、先ほども予感はしていたと言ったし以前から交流はあったのだろう。
一応、私の意思も確認されたが、おじさんも商売としては私が残るほうが負担も多そうであるし、商売人として侯爵家との繋がりは非常にありがたいことだろうと判断し頷いた。
細かな詳細は私が目にしていい内容ではなさそうなので、席を立つ断りを入れ少し離れたところでかしこまりながらも困ったように苦笑していたタイラーのもとへ移動した。
「タイラー、これどういうことか知ってる?」
「以前から父個人が取引しているお一人なのだろう。守秘義務がある大事な相手は知らされないものもあるから、俺も今回のことで初めて知った。フローラには伝えなかったけど、今回のことはほぼ話がなくなると思って動いておけと事前に言われていた」
「……そうなんだ」
避けられているわりに結構行動を見られていたようなので、私がこそこそしていたことも含め、全て把握されていたのだろう。
なんなら、本日視察という情報もわざと流されたのかもしれない。
「正直、ここに来たときのアルヴァートソン様の圧が怖くて、フローラが余計なことを言わないか不安だった」
「視線で訴えていたもんね。お世話になったおじさんやタイラーに悪くない話だと思ったし、我が儘は言うつもりはないよ」
「でも、出て行きたいと思ったんだよな」
「まあ、そうなのだけど。勘違いというかすれ違いというか、今すぐ出て行きたいわけでもなくなったしちゃんと話し合いをしようと思う」
「そのほうがいい。また何かあれば頼ればいい。親父もその時は動くだろう」
「うん。ありがとう」
こそこそと話していると、話し合いが終わったクリフォードに呼ばれ再度隣に座るように促される。
眉間にしわが寄って機嫌が悪いように思えるが、おじさんのほうはにこにこと笑って気にした様子はない。
まだクリフォードとまともに話すのに慣れていないので、何が彼の通常なのかわからない。
おじさんが気にしていないのなら気にするようなことでもないのかなとその後談笑し、雑談のなか驚くような情報もあったりと、クリフォードの陰で動いていてくれた行動を知り私は気持ちが随分と軽くなりこの場を後にした。
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