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嫌われているようなので出て行きます②

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 ああ、この人は私が気にくわないのだなとわかる視線に私は落胆した。その双眸を前にすぅっと心が冷えていく。
 緊張しながらも、家族が増えるということに、熱心に家族になろうと誘ってくれた侯爵に似た優しい義兄を想像し会えるのを楽しみにしていたのだ。

 ショックを受けながらも、それも仕方がないことかと思った。
 義兄からしたら、二十二歳にもなってできた十六歳の義妹なんて愛着が沸くわけもなく、むしろ煩わしい存在でしかないのだろう。

 資産目当て、贅沢したいがためについてきたと思われても仕方がない。
 私自身が負担になるのは嫌だともともと離れるつもりでいたのだから、そう思われることもある意味当然だ。

 しかもこれだけの美貌だと、言い寄られることが多くて今更身内だなんだと言いながら女性に言い寄られる可能性にげんなりしている可能性もある。
 そんなつもりはなかったけれど呆けて見惚れてしまったし、ドキドキもしてしまった私はとても後悔し後ろめたくなった。

 ちくちくと胸が痛み、ずどーんと気が重くなる。
 家族に憧れもあったし、兄ができることにどこかで家族という無条件で甘えさせてくれる男性を期待はしていたのかも知れない。そのことに、冷たくされて気づくとなんだかいたたまれなかった。
 それを表に出さないように、一度口を引き結び口角を上げ笑顔を作る。

「今日から二年間だけお世話になります。侯爵様ともそういうお約束なので」

 冷ややかな視線を向けられることに耐えられなくて、私はこれ以上傷つかないように先に宣言した。
 この関係は期間限定ですよと宣言することで相手は安心するだろうし、自分自身を奮い立たせる。

「そうか」

 目を眇めその一言だけ告げると、興味はないとばかりにクリフォードは「仕事があるから」と部屋を出て行った。

 それからは顔を合わせても似たような反応の繰り返しだった。
 できることなら母や受け入れてくれた侯爵のためにも義兄と仲良くなりたいと思うけれど、私が距離を詰めようとするとすっと離れて冷ややかな視線を向けられる。
 なので、次第に私は距離を詰めることも諦め、今では義兄の視界になるべく入らないように過ごすことに徹していた。

 今日は私の十八歳の誕生日。そして、一か月後が約束の二年。
 二年だけ。母と義父の優しさに応えたらもう出て行くのだと、そう言い聞かせて過ごしてきた。

 そんななか、最後に義兄の瞳を思わせるエメラルドのネックレスを使用人伝で誕生日プレゼントとして渡された。
 そのことに家族の情は持ってくれていたのかなとなるべく期待しないようにしながらも浮き立ち、逸る気持ちが抑えきれずすぐにお礼を伝えようなんて考えなければ良かった。
 いつものように、出会った時にお礼を告げるだけにしておけばここまで後悔することもなかった。

 この二年間、クリフォードはとても冷たく会えば冷ややかに見据えられながらも、どうしても出なければならない催しの衣装や作法を習う手配などさりげなくフォローしてくれた。
 今日みたいに誕生日に義務的だとしても素敵なプレゼントをもらえば、義兄には複雑な感情を抱くのをやめられない。

 クリフォードにとって期間限定でも家族のマナーがなっていなければ侯爵家としての恥だと思ってのそれでも、家族の義務としての形ばかりのプレゼントだったとしても、無視をされるよりはやはり嬉しかった。
 だから、話しかけてもいいのかなと思ってしまった。期待してしまった。

「ああー、この二年なんだったのかなぁ」

 知らなければ、もう少しいい思い出のままでこの家から出ていけたのにと思う。
 現実を突きつけられ、私のぎりぎりで保たれていた糸がぷつりと切れた。
 ささやかな喜びさえもただの一人よがりだと知らされ、そんな小さなことでも喜びを感じていたことに空しさを感じる。

 ――二年前、意地でもここに来ることを拒んでいたら……。

 そう思わずにはいられない。
 本気で後悔するほど、胸がざらついて今すぐにでも飛び出してしまいたい衝動に駆られる。視界に入らないでほしいらしいので、お望み通り今すぐどろんと消えられればと思う。

「はぁぁぁぁ~。もう、成人したしあと一か月待たなくてもいいよね?」

 わだかまりを思い切り溜め息に乗せ私は身体を起こした。じっとしていられず部屋を見回し、必要なものをピックアップすることにする。
 約束の二年まで後少しだけれど、母も侯爵家に馴染んだし私がいなくてももう大丈夫だろう。

 侯爵には恩はあるし、義兄と仲良くできなかったのは申し訳ないが、合わないものは合わないのだ。
 これ以上私が嫌われて、せっかく侯爵家の一員として頑張っている母の存在を認めてもらえないことのほうが困ると私は屋敷を出て行く決意をした。

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