上 下
126 / 127

エピローグ②

しおりを挟む
 
「私はこれまで女性に何かをしてあげたいと思ったこともなかった。何がいいかと思案した結果、ドラゴンしかないと考えた」

 なぜ、そこでドラゴン一択になるのだろう。
 誰かこの規格外の恋人をどうしたらいいのか教えてください!
 ディートハンス様の過保護ぶりが日に日に増している気がする。

「危険なことはしてほしくないのですが」
「このたびの騒動で騎士団をさらに強化する必要があった。皆、張り切っていたしいい訓練になった。素材は今後騎士団の設備強化に使われるから国としても問題ない」

 ああ言えばこういう。
 ドラゴン討伐を訓練と言い切ってしまうなんて、この王国は最強ではないだろうか。

 言いたいことはいろいろあるけれど、私のことを思って作ってくれたプレゼントだ。受け取らないわけにはいかないだろう。
 討伐に付き合わされたアーノルド団長たちにも見守られているとあって、余計に固辞しにくい。

「ありがたくちょうだいいたします。ですが、危険なことはできるだけ避けていただきたいです」

 再度、同じ事を告げる。
 ディートハンス様が私を心配してくれるように、私も心配なのだ。

「せっかくなら最高のものをと考えたまでだ」
「最高のお守りですね。大事にします」

 そこまで言われれば、苦言ばかりは言っていられない。
 促されるまま手を差し出すと、左腕にするりと通される。

 細めに作られたブレスレットには小さな宝石もはめ込まれていた。
 それはまるで妖精の羽ばたきの際に見える、美しくも優しい気持ちになる煌びやかな光のように綺麗だった。

 すると、何を思ったのかそこでディートハンス様が私の前でひざまずく。

 ――えっ!?

 恭しく私の手を取ると、じっと見つめながら彼の口元まで持っていった。
 主君に忠誠を誓う騎士のような姿勢にぴしりと固まる。
 吐息がかかり、その感触にふるりと肩を震わせると、ふっとわずかにディートハンス様が笑みを浮かべた。

 自然と浮かべられた笑みにほぅっと見惚れてしまったが、続いてその衝撃に目を見開く。
 驚きで脳の指令が伝達せずに固まっていると、手の甲に唇が触れるか触れないところで止まり、ディートハンス様がじぃっと私を見つめる。

「リアに私の初めてをすべて捧げたい」

 決意を秘めた宣言にものすごく真剣に告げられ、破壊力のすごさに私はぼぼぼぼっと顔を熱くさせた。
 文字通り、全て。

 環境や事情のせいで、人肌を感じることからほとんどのことが私たちにとっては初めてのこと。
 捧げるということは、これからもずっと一緒にいようということ。

 普段は寡黙で表情の変化に乏しいディートハンス様の瞳に明らかな熱がこもる。
 全てを捧げるから、全てをよこせと私を見つめてくる。

「はい。大事な初めてをこれからも」

 揺るがない信頼とこれからもそばにと互いに思う安心感に、笑顔が漏れる。

「ぶほっ」
「ぐっ」
「……げほっ、げほっ」
「えっ?」

 見つめ合っていると、周囲の騎士たちがなぜか盛大に噴いた。
 おかしなところなどあったかと首を傾げ視線を送ると、周囲が気まずそうに視線を逸らす。

「ああ、気にしないで。真剣なのはわかってるから」
「そうだよ。気にしないで。うん。何でも初めてはある。何も間違いではないよね」

 フェリクス様とシミオン様が微妙な顔でひらひらと手を振ると、ディートハンス様が深く頷き私を抱き上げた。

「ああ。大事な初めてをリアとともにできることに喜びを感じる」
「ひゃっ」

 視界の位置が高くなり、さらに周囲の視線を感じることになる。

「ディース様が言うと妙な感じになるんですよね。捧げるとか大事なとか言葉がいけない。二人の純粋さに汚れた大人だってことを感じるよ」

 ぶつぶつ言っていたフェリクス様だが、そこでちょっぴり哀れむような視線で私を見た。

「ディース様は過保護で超甘くて構いたがりで、俺たちはそれを止めることはできないだろう。俺たちは羞恥を我慢するから、ミザリアはそのまま受け止めてくれたらまるく収まるから遠慮しないでいいよ」

 何気に失礼な発言だが、そんなこと歯牙にもかけていないディートハンス様が私の頬に唇を寄せた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

隣の芝は青く見える、というけれど

瀬織董李
恋愛
よくある婚約破棄物。 王立学園の卒業パーティーで、突然婚約破棄を宣言されたカルラ。 婚約者の腕にぶらさがっているのは異母妹のルーチェだった。 意気揚々と破棄を告げる婚約者だったが、彼は気付いていなかった。この騒ぎが仕組まれていたことに…… 途中から視点が変わります。 モノローグ多め。スカッと……できるかなぁ?(汗) 9/17 HOTランキング5位に入りました。目を疑いましたw ありがとうございます(ぺこり) 9/23完結です。ありがとうございました

美春と亜樹

巴月のん
恋愛
付き合っていた二人の攻防による復縁話 美春は先輩である亜樹と付き合っていたが、度重なる浮気に限界を感じて別れた。 しかし、別れてから積極的になった彼に対して複雑な思いを抱く。 なろうにも出していた話を少し修正したものです。

追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと
恋愛
婚約者闘争に敗北した悪役令嬢パトリシア。 彼女に与えられた未来は死か残念領主との婚約か。 選び難きを選び、屈辱と後悔にまみれつつの生を選択。 だが、その残念領主が噂以上の残念な男でーー 虐げられた悪役令嬢が、自身の知謀知略で泥臭く敵対者を叩きのめす。 ざまぁの嵐が舞い踊る、痛快恋愛物語。 20.07.26始動

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

処理中です...