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エピローグ②
しおりを挟む「私はこれまで女性に何かをしてあげたいと思ったこともなかった。何がいいかと思案した結果、ドラゴンしかないと考えた」
なぜ、そこでドラゴン一択になるのだろう。
誰かこの規格外の恋人をどうしたらいいのか教えてください!
ディートハンス様の過保護ぶりが日に日に増している気がする。
「危険なことはしてほしくないのですが」
「このたびの騒動で騎士団をさらに強化する必要があった。皆、張り切っていたしいい訓練になった。素材は今後騎士団の設備強化に使われるから国としても問題ない」
ああ言えばこういう。
ドラゴン討伐を訓練と言い切ってしまうなんて、この王国は最強ではないだろうか。
言いたいことはいろいろあるけれど、私のことを思って作ってくれたプレゼントだ。受け取らないわけにはいかないだろう。
討伐に付き合わされたアーノルド団長たちにも見守られているとあって、余計に固辞しにくい。
「ありがたくちょうだいいたします。ですが、危険なことはできるだけ避けていただきたいです」
再度、同じ事を告げる。
ディートハンス様が私を心配してくれるように、私も心配なのだ。
「せっかくなら最高のものをと考えたまでだ」
「最高のお守りですね。大事にします」
そこまで言われれば、苦言ばかりは言っていられない。
促されるまま手を差し出すと、左腕にするりと通される。
細めに作られたブレスレットには小さな宝石もはめ込まれていた。
それはまるで妖精の羽ばたきの際に見える、美しくも優しい気持ちになる煌びやかな光のように綺麗だった。
すると、何を思ったのかそこでディートハンス様が私の前で跪く。
――えっ!?
恭しく私の手を取ると、じっと見つめながら彼の口元まで持っていった。
主君に忠誠を誓う騎士のような姿勢にぴしりと固まる。
吐息がかかり、その感触にふるりと肩を震わせると、ふっとわずかにディートハンス様が笑みを浮かべた。
自然と浮かべられた笑みにほぅっと見惚れてしまったが、続いてその衝撃に目を見開く。
驚きで脳の指令が伝達せずに固まっていると、手の甲に唇が触れるか触れないところで止まり、ディートハンス様がじぃっと私を見つめる。
「リアに私の初めてをすべて捧げたい」
決意を秘めた宣言にものすごく真剣に告げられ、破壊力のすごさに私はぼぼぼぼっと顔を熱くさせた。
文字通り、全て。
環境や事情のせいで、人肌を感じることからほとんどのことが私たちにとっては初めてのこと。
捧げるということは、これからもずっと一緒にいようということ。
普段は寡黙で表情の変化に乏しいディートハンス様の瞳に明らかな熱がこもる。
全てを捧げるから、全てをよこせと私を見つめてくる。
「はい。大事な初めてをこれからも」
揺るがない信頼とこれからもそばにと互いに思う安心感に、笑顔が漏れる。
「ぶほっ」
「ぐっ」
「……げほっ、げほっ」
「えっ?」
見つめ合っていると、周囲の騎士たちがなぜか盛大に噴いた。
おかしなところなどあったかと首を傾げ視線を送ると、周囲が気まずそうに視線を逸らす。
「ああ、気にしないで。真剣なのはわかってるから」
「そうだよ。気にしないで。うん。何でも初めてはある。何も間違いではないよね」
フェリクス様とシミオン様が微妙な顔でひらひらと手を振ると、ディートハンス様が深く頷き私を抱き上げた。
「ああ。大事な初めてをリアとともにできることに喜びを感じる」
「ひゃっ」
視界の位置が高くなり、さらに周囲の視線を感じることになる。
「ディース様が言うと妙な感じになるんですよね。捧げるとか大事なとか言葉がいけない。二人の純粋さに汚れた大人だってことを感じるよ」
ぶつぶつ言っていたフェリクス様だが、そこでちょっぴり哀れむような視線で私を見た。
「ディース様は過保護で超甘くて構いたがりで、俺たちはそれを止めることはできないだろう。俺たちは羞恥を我慢するから、ミザリアはそのまま受け止めてくれたらまるく収まるから遠慮しないでいいよ」
何気に失礼な発言だが、そんなこと歯牙にもかけていないディートハンス様が私の頬に唇を寄せた。
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