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静かに怒る騎士と任命①
しおりを挟むしばらくしてレイカディオン副団長たちは下りてきた。さすがに老人医師、ホレス様は自身の足で歩いてきた。
ディートハンス様の容体は、風邪などの一般的な病気でもなく原因がわからないとのことだった。
先ほどの勢いもなく暗い表情だったが、悲観した様子はない。
総長が倒れること自体が珍しいが、ここにいる全員、ディートハンス様が病に負けることはないと信じている様子だった。
原因究明はひとまず後だと、このままでは体力を消耗しすぎてしまうため熱を下げようとホレス老人が処方した薬が効いたのか、次の日の朝にようやく総長は意識を取り戻した。
ホレス老人はディートハンス様の昔からのかかりつけ医なのだそうだ。
つまり、総長の魔力に耐えられかつ有能な人物で定期的に健診を行っていたが、ここ何年もこのように倒れることなどなかったので周囲は酷く慌てたようだ。
倒れてから数日経ったが、ディートハンス様が体調を崩し倒れたことは箝口令が敷かれ知っている者はごくわずかだ。
私は原因が何かわかるまでは近づくことを許されておらず、非常に心配だけれど専門の人に任せるしかないと早く良くなるようにと祈るしかできなかった。
彼らは総長自身も騎士としての仕事も守ってきたのだなとわかる迅速で隙のない動きはすごかった。
ディートハンス様の容体を気にかけつつ、騎士団総長自身が倒れることによって周囲に与える影響力も考え、彼らは常に総長の意思とともに彼を守ろうとしている。
実際、要となる総長が倒れたら影響はあるだろうけれどそれだけではなく、そこには見えない絆があった。
そういったことを目の当たりにしながら、私は変わらず家政婦業をこなしていた。
騎士たちの生活面のサポートも大事である。仕事を疎かなにしないようにと過ごしているけれど、気が気ではない日々を過ごす。
今日もいつものように夕食に向けて準備をしていると、総長の部屋からフェリクス様とニコラス様が下りてきて休憩を取るとのことで、軽食と飲み物を用意する。
「今回も無理だったか」
「俺たちでもちょっとキツいものがあるからな。耐性のない者にはやはり耐えられないのだろう」
意識は取り戻してもベッドから下りることができない状態が続き、王都にいる名だたる医師や治癒士と呼ばれる人が入れ替わりやってきたが、どの人も顔を青くさせて倒れそうになりながら総長の部屋から出てくる。
それとともに、寮内が以前にも増して緊張感に包まれていった。
ディートハンス様の魔力に耐えられ、かつ腕がいい人物は限られている。
その上で全ての結果が芳しくないとなれば空気も重くなる。
名だたる名医が診ても原因がわからず、実績のある治癒士の人たちでも回復に繋がらず、弱っている時は魔力のコントロールが不安定で周囲への影響力が増すため、ディートハンス様のそばに長時間いることが不可能。
まったく効果がないわけでもないらしいけれど、ほぼ自力での回復。
今は起き上がれるほどまで持ち直し、それと同時にディートハンス様はベッドの上で仕事をしているらしい。
「休むってことを知らない人だ」
倒れていたディートハンス様を見つけものすごく心配していたフェリクス様は、ディートハンス様が意識を戻しベッドの上とはいえ動けるようになって安堵したのもあって、最近は不機嫌そうに苦言を告げることも増えた。
今もむっすぅっと不機嫌さを隠さない。
今回は体調が悪いことには気づいていたが人前で倒れるといけないとずっと我慢し、部屋につくと同時に意識を失ったようだ。
そういったこともあってフェリクス様たちは怒っているようだ。
困った人だよね、と私に同意するようにふふっと笑う姿はちょっと黒さが見え隠れする。
――どうしてやろうか、って心の声が聞こえてくるような……。
それだけ心配したということなのだろうけれど、ちょっと怖いと思って若干引き気味になっている私に気づいたのか、フェリクス様は慌てていつも通りの爽やかな笑みに戻した。
それから深々と息を吐き出すと、頬に苦笑を浮かべる。
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