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◆伯爵家の崩壊 焦り③
しおりを挟むベンジャミンの仕事は、ブリジットの機嫌を損ねず好かれることだ。そのために周辺を身綺麗にし、いつもよりも何倍も紳士的に接してきた。
だが、それも魔石があることが前提だ。
――どうしてこうも上手くいかない!
いつもいつも上手くいきそうになったらくじかれる。幼い頃もミザリアが生まれるまでは自分の天下だったのに、生まれた途端影が射した。
今もミザリアが出て行き全てが上手くいくといった途端、これである。
いてもいなくても、自分にとって疫病神のような存在だ。
「あいつが……」
「ベンジャミン!」
ぴしゃりと母の声がベンジャミンの独り言を遮る。
だが、そのやり取りを父は見逃さなかった。
「何だ?」
「いえ。何も」
「ベンジャミン。何かあるのなら話せ。ことは伯爵家の未来、つまりお前の将来にも関わっているのだ。魔石が採れなくなったら我々はこの先がない。もしかしたら命も……」
指でひゅいっと首を切るような動作をし、憤怒の形相になった。
なぜ実の父に殺気まがいの怒りをぶつけられなければならないのかという怒りと恐怖で、ベンジャミンは顔色をめまぐるしく赤や青に変えて両親を交互に見る。
そもそも、ベンジャミンは父に文句を言おうとここにやってきたのだ。
順調に行っていたはずの見合いがこのたび白紙にされ、しかも最後に高価な飾りを受け取ったあとでだ。
非常に喜んで熱っぽい瞳を自分に向け好感触だったはずなのに、急な手のひら返しにベンジャミンは納得がいかなかった。
北部で力のある公爵家の娘。自分に相応しい最高に価値のある妻を持つことができるはずだった。
出るところの出た魅惑的なボディーも好みで、男としての欲も満たせると楽しみにしていた。
――それなのに……。ミザリアが採掘をやめてから魔石が採れなくなっただと?
ただの偶然だ。そう思おうとしても、時期を考えるとそう思えてイライラと苛立ちが止まらない。
家の大事な魔石に関わらせたことが間違いだったのではないか。
己が抱えた怒りや向けられるもの、思う通りに進まない苛立ちに半分血の繋がった者の名前を出す。
「…………あいつ、ミザリアが採掘に関わっていたんです」
「なんだと?」
「見つけるのが上手いとは聞いていたけど、まさかこんなに急に変わるなんて」
その瞬間、ガタンと大きな音をともに椅子を倒し父が立ち上がった。
「ネイサン!」
「はい」
「どういうことだ?」
ずっとそばに控えていた執事長の名を呼び、自分たちそっちのけで話を進める。
大事なことは、次期伯爵となる自分ではなく執事長。それも面白くないことの一つであったが、今は伯爵である父の機嫌が最悪なので余計なことは言わない。
「チェスター様には魔力がどうかだけを確認するように言われていましたので、管理は奥様とベンジャミン様に任せておりました」
「くそっ。とにかく実際に関わった頻度や内容を調べ、今すぐミザリアの行方を確認しろ。どちらにしろ見つけ次第一度連れ戻せ」
「わかりました」
執事長が部屋を後にし、はぁぁっと大きく息をついた父は椅子を戻すとゆったりと腰掛けた。
「お前たちは一度下がっていろ。さっきの件は魔石のことが片付いてからだ」
あっちに行けと手を振られ、ベンジャミンは母の肩に手をやり押すように部屋を後にした。
グレタは息子のベンジャミンに肩を押されながら唇をかんだ。
やっと排除できたと思ったのに、またしても忌々しい女の娘の名前が挙がる。
――どこまでも邪魔をする存在。
あの女のせいで順風満帆であったはずの伯爵夫人としての生活に影を落とした。
娘までもまた邪魔をする。いらないはずの存在がどうしてここまで出しゃばってくるのか。
「あいつ、戻ってくるのでしょうか?」
「さあ、どうかしら? それよりもまず生きているかしらね」
憎々しげにベンジャミンがあいつと言う存在。
とっとと消えてくれたらいいのに。
グレタは眉をひそめ、執事長が指示を出している後ろ姿に笑みを深くした。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
ここで第二章終わりです。
そしてやっとディースが触れました! ここまで長かった!!
それもこれも慎重すぎるディースのせい。何度心配するなと背中押しても拒まれようやくです泣
触れなければできることできないってことで、やっといろいろ進み出せます。
じりじりを見守っていただき、さらにたくさんのお付き合い、お気に入り、エールと本当にありがとうございます(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡❀.
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