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二人の魔力②
しおりを挟む「そうか。気分とかは悪くはない?」
「それは大丈夫です」
「俺から見ても特別変わりないように見えるけど、本当に無理していない?」
「はい」
こくりと頷くと、フェリクス様が心底安堵した表情を浮かべた。
「なら良かった。だけど、心配だからユージーンが復活したらしっかり見てもらおう。それで話を戻すけれど、すでに総長と五メートルの距離でも平然と生活できているミザリアが、さらに器に余裕があるから魔力に干渉されにくくディース様の影響を受けにくいのではないかということだ」
「器が小さいとやはり影響が出るのでしょうか?」
話が繋がってきた。枯渇状態というのは気になるけれど魔力があまりないこと以外の支障はないし、対総長に関しては悪い話ではなさそうなことにほっとする。
魔力なしであることで必要される場面があるとは考えもしなかったけれど、罵倒されるだけの在り方に初めて意識が向く。
わずかにもたげそうになる期待をぐっと押し殺し、質問を重ねた。
「器が小さければ魔力もその分少なくなるからね。魔力酔いのような症状を起こす」
「魔力酔い」
「そう。ミザリアにはこの部分をとても心配していたけれど反応しない可能性も大きかったから連れてきた。まさか器自体が大きかったとは」
そういうことだったのか。
フェリクス様がさらに説明を続ける。
「逆にそこそこの魔力がある者が近づき、それを総長が不快に思うと反発を起こし相手は気分が悪くなる。戦場では敵対する者、そして邪な考えで近づく人物には敏感になる」
「不快に思うと反発ですか」
そこで総長を見るとゆっくりと頷いた。
説明をフェリクス様に任せているのか、寡黙だからなのかわからない。ただ、さっきからじっと私を見ている。
「このように本人があまり語る人ではないから具体的にどう感じているとかはわからないが、魔力に混じってそういうものがわかり無意識に反発してしまうそうだ」
魔力が弱いと総長の魔力に当てられて魔力酔いを起こし、それなりに耐性があると今度は総長独自のセンサーが働き弾かれる。
しかも、本人は意図せずに次から次へと倒れられれば、簡単に人を近づけたくなるわけだ。
「だから徹底的に距離を取るとおっしゃっていたんですね」
「女性を攻撃するわけにはいかないからね。ある程度先に距離を取っておけば互いに不快になることもない」
立場的にとても便利だとは思うけれど、日常的には便利なのか不便なのかわからない能力だ。
ひとまず、魔力なしと蔑まれてきた私でも思うことがある。
「大変そうですね」
フェリクス様たちのように理解してくれる人がいるとはいえ、そこにいるだけで影響を与えてしまうのは生活するにあたって窮屈そうだ。
総長を見るけどやはり表情は変わらない。
騎士団に関わるとなるとそれ相応の信頼、つまり身分か実績どちらかは必ず必要だ。
そのため実績がある者はすでに職に就いている可能性のほうが高く、身分のほう、お相手捜しをしている貴族の令嬢の多くが応募してきて、適性をクリアして雇ってものぼせ上がって続かなかったのだろう。
「そもそも今までの女性もギリギリだったからなるべく総長に近寄らない業務をお願いしていたのだけどね。その多くは被害に遭わないと自分は特別だと過信して総長に近づこうとしてやらかして終わり。まあ、のぼせ上がらなくても彼女たちは長く続かなかったとは思うけど」
「それは……、本当に大変ですね」
魔力量が多かったら苦労することもなく過ごせたのかなと、私が伯爵に認められていたら母もつらい思いをせず命を落とすことはなかったかもしれないと考えることは何度もあった。
魔力量が多すぎて苦労することもあると知り、全く立場も違うけれどなんだか勝手に仲間意識みたいなのが生まれる。
だから、ディートハンス総長は常に距離を取っていたと、むしろこちらのことを思ってくれていたのだと、そっけないほどの態度も不器用な優しさのように思える。
「そうなんだよ。そういう女性はほぼ男目当てで家事などできないし、ある程度心得があった女性も結局のぼせ上がって仕事にならない。のぼせ上がれば上がるほど、総長の冷たさに打ちのめされる者も多くてそれで辞めていく人も多かった」
フェリクス様は深々と溜め息を吐いた。何度も同じような場面を繰り返してきたようだ。
反発するほどの魔力がないならば、確かにこれまでの人よりはそういった点では見込みがあると考えるだろう。
複雑な思いに眉尻を下げると、ミザリアと強く名を呼ばれた。
「魔力なしは実際魔力がないわけではないから、俺はその言い方は不適切だと思っている。だから、それに引け目を感じる必要はないよ。それに俺自身がミザリアを放っておけなかったんだ。伯爵の目に入らないようにというなら騎士団はもってこいだし、何かあってもどちらの意味でも守ってあげられる」
「フェリクス様はお優しいのですね」
フェリクス様と出会って運が良かったというレベルではないくらい気にかけてもらい、ただのミザリアになって最初に運を使い果たしてしまったのではないかと心配になるほどフェリクス様は人がいい。
「んー。さっきも話したけれど俺もいろいろ打算はあったから」
「それでも何かあれば動いてくれようとしてくれていたんでしょう?」
あの時、とても優しく嬉しそうに笑っていたのはそういった感情からなのだろう。
「そうだけど、こうなったら期待のほうが大きいよ。だからさ、この話を聞いてもミザリアがここに残ろうと思えるなら、総長と距離を縮めてみてほしい。もし、しんどさを感じたりしたらしっかりした就職先は紹介するから安心して」
無償の優しさではなく、フェリクス様にとっての計算もあったと教えてもらえてなぜか安心した。
自分の特殊さが忌避されることなく興味の対象となるのは不思議な感じではあったけれど、悪い気分にはならない。
ならないけれど、じゃあこれからディートハンス総長と距離を縮めるとなるとやはり緊張して、私は倒れていいのなら倒れてしまいたくなった。
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