勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第四章(下)

天界の様子

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前回のあらすじ、メイが人質に取られる。


ゆっくりと目を開くと、俺の視界を埋め尽くすのは露出の際どいおっぱいのみだということが分かる。

見上げると、そこにはニヤけ面の白髪ロングの女性がおり、地面に座り込んでいる俺を見下ろしていた。

彼女は大層豪華な椅子に足を組んで座り、手に持っている書類に目をやったかと思うと、口をゆっくり開く。


「ナイフが心臓を貫通~ですって。運が良いのか悪いのか、骨の合間を縫うようにして体を貫通、そして地面にナイフが刺さったんだって~」


ここは... 天界?つまり俺は死んで... 

ていうか... 


「ナイフ... ?ということは... リリーが?」

「そんなことより~」


すると女神は前のめりになり、ピンと立てた人差し指を見せる。


「なにか聞きたい事があったんじゃないの?」

「っ!?そうだ、俺の能力!... の... 発動条件を教えてくれ... 」

「... はあああ~~~」


その言葉に、女神は背もたれに身を任せ、だらしなくため息をつく。

なんだろう... 呆れたというよりかは、安堵の感情を浮かべているというべきか... 


「地球の住人がここまで弱いとは思わなかったわ~... あなたの味方も、あなたの敵も、しっかりとした知識に基づいて能力を使っているのよ~... そうでもなくても、強い精神力で能力と向き合い、能力に使い方を教えてもらうの」


能力に... 使い方を教えてもらう?


「魔物というのは、生前に強い負の感情を抱いていた人間の魂が、まるで万物が質量によって惹かれあうように連なって生まれる者。それを破壊するためには、あなた自身の脳内で強い負の感情をぶつける事だけよ~」

「ま、魔物?俺の能力は最強になる能力じゃ... 」

「... あなたが自分で言ったのよ、魔物を塵にする能力だって」


そ、そういえば言ったような?つまり俺の能力は魔物限定という事なのか?


「一番分かりやすいのは殺意よね~思い切り自分の感情を対象にぶつけると良いわ」

「それはつまり... 相手に消滅して欲しいと強く念じれば良いってこと... なのか?」

「ええそうよ、ぜひ四人目の四天王に試してちょうだ~い。ブラインドは魔物だからね。二、三メートルほどませ近づけば確実よ」


なんてこった... 魔物に対して強く念じるだけで良いだなんて... 


「そ、そのブラインドって奴の能力はなんなんだ?メイは体を操られていたみたいだったが... 」

「ダメダメ~戦いに直接関係のある事は教えられないわ~公平じゃないもの。今はただあなたの能力が使えないのが不公平だから教えてあげているだけよ」

「... じゃあこれだけ。どうやって俺は死んだんだ?後ろの建物の屋根にリリーがいるのは見えたけど、リリーがナイフを投げる方向を間違えるわけが無いし... 」

「そんな事聞いたってしょうがないでしょう?ここで時間食ってないで、早く戦いに戻りなさ~い」


ナイフという事はリリーで間違いない... いや、今はそれよりも俺の能力の発動条件が分かった事に喜ぶべきだ。早く生き返ってあの魔物を消滅させないと... 

いや、だが... 


「お、俺の身体能力もついでに上げられないか?その... せめて異世界の一般人並みに」

「... 」


すると女神は表情を変えぬまま俺の顔を見つめ、上体を起こすと... 


「早く行きなさい」

「す、すみません」


俺のおでこを指でつつく。

次の瞬間、辺りは眩しすぎる真っ白な光に包まれる。



**********


騒ぎを聞きつけたちんちくりんな少女は、市場に面した四階建ての建物の屋根の上に身を潜めていた。

周囲の声から状況を判断したちんちくりんな少女は、それぞれの正確な位置を把握しようと屋根から顔だけを出し、市場で起こっている様子を目視する。


『まるでヒーロー物語のヒロインのように、助けてヒーロー!なんて思っているんだ』


そこには自身の胸に剣を突き刺したメイド服の少女がおり、そばにはフード姿の男、こちらに背を向け地面に落ちた短剣を見つめる男、そして十数人の野次馬が薄く彼らを取り囲んでいる。

フード姿の男の進行方向、市場の道の先の方に目をやると... そこには同じようにフードを被り、地面に座りこんだ杖持ちの少女がいるのが分かる。


「スズは位置に着きましたね。奇襲を成功させるためには奴を私に集中させなければいけません。メイを人質に取っているのは逆に良いと言えるでしょう、奴は確実に油断します。私とへっぽこに意識を集中させ、進行方向にいるスズに気づかせないようにしましょう」


そのまま視線を市場の騒動の場に移すと... 再び状況を整理し始める。


「メイの傷は... 致命傷ではありませんね。何分か経った後でもスズに治療してもらえば問題は無いでしょう。ですがそれよりも不可解なのは... へっぽこ」


ちんちくりんな少女は屋根の上に立ち、素早くナイフを抜く。


「へっぽこは男の意識を自身に逸らそうとしているのか... それともへっぽこも操られているのか... ここからでは感情が読み取れませんね。どちらにしてもへっぽこが危ないです」


そしてナイフを持つ腕を上げ... 男のそばの地面に投げつける。

だがその瞬間、ちんちくりんな少女は決定的で、致命的な何かを感じ取る。

どのように考えてもナイフを投げる方向が低すぎる。

人生の中でナイフは何百本と投げており、彼女が至極冷静なこの状況で攻撃を誤る事はとても不自然だ。


「ナイフが... !?」


大きく見開いた目でナイフの向きを確認すると... ナイフは一直線にとある人物の方向へと向かっており、その者の胸部を貫通させる。


「なっ!?」


そしてもう一つ、彼女はとても奇妙な事に気づく。市場に立っているフード姿の男がこちらを見ていることに。

気づいた瞬間、彼女のもう一方の手がナイフを抜き... それはこめかみと同じ高さまで持ち上げられる。


「な... 私と男の影は交わっていません... なのになぜ... っ!?」


慌てて自分の影を確認しようと目線を下に落とすと... 彼女は何かを見つける。

自身のブーツのバックルに挟まっている何か... それはとても小さな、ゴミとも思える、赤黒く変色した肉片のようだった。


「肉... 赤黒い肌... 爪... これは指先!?奴は影に触れて自身の肉体である魂で影を操ると言っていましたね... この指先から魂を!?」


彼女が再び男の方を見ると、男がニヤニヤとした笑顔を浮かべ、彼女を見ているのが分かる。

その姿に奥歯を噛み締め... 


「メイを人質に取って勝った気でいますね!ですがあなたはタイランに火をつけさせたのですよ!」


声を振り絞り、市場に響くような大声で叫ぶ。


「言ってろ」


男が吐き捨てると同時、こめかみ目掛けてナイフは振るわれる。

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