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【3】聖女 『天使』と出会う
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百年前、わたし達が魔王と対峙したのはファイドウッドという町の外れだった。
それが今は一面に広がる樹ばかりで、牧場も畑もない。
頭上を見上げれば、木の葉のレース模様の隙間を小鳥が飛んで行く所だった。
「あー……、そっか。ここがどこかとかも分からないよね……。
えーっと、今いたのは『ファイドウッドの勇者』の聖女サマを奉ってる聖堂ね。
『ファイドウッドの勇者』は知ってる?」
頷くわたしとゴーシェ。
当事者ですから……。
「聖女サマが魔王を封印したあとも、瘴気が漏れ出てたらしくてさ。それで残った勇者達が聖堂を作って、さらに世界樹の苗を植えたんだって」
瘴気が漏れ出る封印って……それはもう封印の意味がないのでは……。
「確かに世界樹は瘴気を吸い取ってくれた。でもそのせいで異常増殖したんだよ」
そう言って団長さんは背後を手で指した。
聖堂のその後ろ――いや聖堂を半分飲み込む形で崖がそそり立っていた。
彼の手につられて、視線を上げる。
岩壁に蔦と枝が生えている。てっぺんは雲にかかるほど高く霞んでよく見えない。
……あれ……これ崖じゃない?
「――樹だ」
思わず呟けば、肩でゴーシェも頷く。
信じられない……。
「山に見えるほど巨大な樹ですね……」
「そ。ちなみにこの森もぜーんぶ、地下茎であのでっかいのと繋がってるらしいよ。
本体の内部はダンジョンになってるし――……」
話しを聞きつつ辺りを見回していたわたしは、
「あ!」
小さな声を上げてジェイドさんから離れ、森の中へ一歩踏み出そうとした。
青くて小さな星形の花が、近くの木の根元に群生していたからだ。
蒼天花だぁ!
めちゃくちゃ珍しいハーブである。それがあんなに沢山……!
「ちょっ! ルチルっちダメ!」
その腕をがしっと掴まれて、ジェイドさんに引き戻される。
「この森『惑いの森』って言われてるんだよ! 世界樹のせいで空間が歪んでて、入るたんびに道が変わんの! おまけに、ダンジョン程じゃないにしろ魔獣も出るし――……」
そう言って彼は自分の腰のベルトにぶら下げたランタンを指した。
「このランタンの中に入ってる『星の欠片』ってアイテムがないと、戻って来れなくなっちゃうよ!」
その剣幕に、わたしは顔を青ざめさせてこくこくと頷いた。
それだけマズイことをしてしまったという事なのだろう。もうしませんの気持ちを表わしてわたしは両手を挙げて謝った。
「ご、ごめんなさいっ」
「あ、オレこそごめんね? 腕痛くなかった?」
「だいじょうぶ、」
「……ッチ!」
「です」
だから舌打ちはやめなさいってば、ゴーシェよ……。
それが今は一面に広がる樹ばかりで、牧場も畑もない。
頭上を見上げれば、木の葉のレース模様の隙間を小鳥が飛んで行く所だった。
「あー……、そっか。ここがどこかとかも分からないよね……。
えーっと、今いたのは『ファイドウッドの勇者』の聖女サマを奉ってる聖堂ね。
『ファイドウッドの勇者』は知ってる?」
頷くわたしとゴーシェ。
当事者ですから……。
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「ご、ごめんなさいっ」
「あ、オレこそごめんね? 腕痛くなかった?」
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「……ッチ!」
「です」
だから舌打ちはやめなさいってば、ゴーシェよ……。
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