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【3】聖女 『天使』と出会う

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「その『愛のしもべ』はご主人さまについて何か知らないの?」
「さっぱりですね!」
「そ、そっか……」

 胸を張るぬいぐるみに、ジェイドさんはがっかりしたように眉を下げる。

「うーん。服のデザインとかこの辺じゃ見ない感じだなぁ。そもそも宝珠オーブもロング・マントも、最近じゃあ誰も着けないし……。新米冒険者だったのかなぁ」
「え!? 宝珠オーブ着けないの!? 魔力増幅どうするの!? マントが無くて夜寒くないの!?」

 あ、思わず聞いちゃった。

「魔力増幅文様があるから、それ服の裏とかに縫い付けてるんだよ。
 防寒は超暖刺繍ヒート・ステッチがあるし……」

「なんだか田舎のばあちゃんと会話してる気分だな……」とジェイドさん。

 こ、これが、じぇねれーしょん・ぎゃっぷ……。

「色々と進化しているんですねぇ。興味深いです」

 ゴーシェはほくほくした顔をしている。元々魔法道具マジック・アイテムの研究開発をしていた人だから、こういうのも好きなんだろう。

「鞄とか見当たらないけど何か持ってる?」

 ジェイドさんに聞かれて、わたしは首を振った。

「一文無しです」
「そっかぁ……。
 とりあえずに冒険者協会に一緒に行こうか。そこに自警団事務所が入ってるんだ。棺も無くなっちゃってるしミステリーだねぇ」
「じけいだんじむしょ……」

 棺が消えたから、窃盗とか器物破損とかで取り調べられるんだろうか。

 すると、そんなに不安そうに見えたのだろうか、ジェイドさんがくしゃっと笑顔を作って見せた。眼が細くなって、犬歯が見えた。笑顔だと歳よりずっと幼く見える。

「心配しないで。ここはちょっと物騒だからね。もっと安全な場所に移動するだけだよ」

 そう言って団長さんはこちらに手を差し出した。

「立てる? どっか痛いところとかない?」
「だいじょうぶです。ありがとう、」
「……ッチ!」
「ございます」

 耳元で舌打ちが聞こえて、わたしは顔をしかめた。
 団長さんにガン飛ばすのはやめなさい、ぬいぐるみよ……。

 立ち上がった時に、つま先がドライフラワーの花束に当たった。

 百年前に誰かが供えてくれたんだろう。このまま捨てて行ってしまうのも偲び無くて、わたしは持って行くことにした。

 ジェイドさんは、先に立って聖堂の外へと歩き出す。

 扉を出てまっすぐに伸びた廊下を進む。突き当たりにはアーチ形の天井と玄関ポーチ。そこを抜けると、周りはうっそうと茂った森だった。

「え……。あれ……!? 町は!?」
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