ガサツ聖女はヌイグルミ魔王に溺愛されても絶対に真実の愛のキスをあげたくない!〜伝説の聖女は身分を隠して森の中でポーション作りのスローライフ〜

馳倉ななみ/でこぽん

文字の大きさ
上 下
12 / 54
【3】聖女 『天使』と出会う

1

しおりを挟む
俺の状態を敢えて気にせず走るヤマ。
身も心も繋がりたくて堪らない俺は、意地悪なヤマにポロポロ涙が溢れてくる。


「ヤマァ、ヤマァ」

「ちょ、その声は反則だって!」


俺を上下左右に激しく揺さぶりながら、どこかに運び込もうとしているらしい。
風を切り、校舎に入ったヤマ。
その足取りに迷いはなく、初めから目的地を決めていたようだ。
真っ直ぐ前だけ見ているから、目も合わない。
あぁ、涙が止まらない。
イヤだ、イヤだ、ヤマに見つめられたい。
その目に映すのは俺だけにして欲しい。

熱に浮かされた俺の耳に、両手の塞がっているヤマが足で扉を蹴飛ばす派手な音が響く。
そのまま中へと駆け込んだ先にいたのは。


「ん?
なんかあった・・・って、聞きたくねぇなぁ。
去年に続いて、今年は桜宮か?」


ヤマと俺の乱入に、早速職務放棄したがる田栗養護教諭だった。
このまま生徒会室へ向かえば、誰にも邪魔される心配もないのに。
わざとそこを避け、保健室に向かっていたらしい。

田栗養護教諭は、学園祭の負傷者対応のために教師の誰よりも先に出勤しているからな。
ヤマのことしか考えられない俺に比べ、ヤマは冷静に判断していたようだ。

それを示すように、走っている間に少しはヤマの発情が治まったらしい。
切ないと痙攣していた身体の震えは止まっていた。
でも、熱はまだ引いていない。
ここが保健室で、机の奥には田栗養護教諭が座っていて、学園祭の準備の途中で、俺達は生徒会役員で。
通常なら見ただけでわかること、状況から考えつくことが俺の頭をすり抜けていく。

重要なのは、ヤマの発情を受け止めることだ。
そのために必要なものはそこにあるじゃないか。
緩い頭で判断出来たのは、この場にヤマとベットがあるということ。
あぁ、ヤマ、なんでこんなところで立ち止まっているんだ?
早くそのベットに俺を連れて行ってくれ。

ギュッとヤマの服を掴み、心配そうに見下ろしてくるヤマへとろりと蕩けた瞳と唇で甘くねだる。


「ヤマ、早くぅ」

「うわぁ、もぉ、俺のせいでカナがこんなに可愛いなんて・・・」


俺を抱えたまま天を仰ぐヤマと、番の発情に引っ張られたままの俺。
田栗養護教諭は、乱入者達が自分の問いに応える余裕が微塵も無いとわかったらしい。
ボリボリ首の後ろや付け根を掻きながら、呆れた顔で椅子から立ち上がり、開け放たれたままの扉を閉めに動いた。


「はぁ~、避けてたってぇのに、こんな青臭い未完成なところをわざわざ俺に晒しに来るなよなぁ。
力をつける前に、へし折りたくなるだろうが」


そのボヤキも、ヤマと俺には届かない。
校門前では我慢していたヤマの愛情たっぷりなフェロモンが、瞬く間に保健室を占領。


「胸焼けするから止めろ!」


田栗養護教諭が、慌ててヤマに叫んだがもう遅い。
とろとろに蕩けた俺を抱いたヤマは、「にゃあにゃあカナが可愛くて抑えられない」とうっとり惚気けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...