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【2】聖女 うばわれる

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 う……わぁ……。

 埃と石のかけらがぱらぱらと落ちてくる。シャンデリアがギィギィと軋んだ。

 炎の矢の本数が増えていたのはもちろん、一本一本の威力も桁違いに上がっていた。

 呆然と天井からゴーシェに視線を落せば、

「あ。」

 ぽむっ!

 白い煙を上げて、彼は再びぬいぐるみの姿に戻った。

「あー、さすがにあの程度の魔力供給じゃあ、一度魔法を使うと人形になっちゃうみたいですねぇ」

 手にしていた長杖ロング・ロッドも鏡に戻ったようで、いそいそと背中に仕舞っている。

「ルチルさぁん……」

 ぬいぐるみがぽにゅぽにゅ近づいて来た。

「百年間一緒に封印されている間に、ルチルさんは僕の魔力をあらかた吸い取ったんですよぉ。
 死ぬ寸前の魔女に触ると魔力が受け継がれるって言うでしょ? それと一緒です。
 魔王の魔力ですからね、そりゃああんな事にもなりますよ~」

 どこかのんびりとそう告げる。

 まってまって、頭がついていかない……!

 混乱するわたしのすねに片手を置いて、ぬいぐるみはぽっと頬を染めた。

「僕、ルチルさんに吸い尽くされちゃいました……」

 いっっらあぁぁ……!!

 がしっと片手でやつの顔面を掴む。そのまま無言で目線の高さまで持ち上げた。

「ああああ! ごめんなさいっ! すみませんっ! ほんの冗談のつもりだったんですぅ!」
「笑えない冗談は冗談って言わねーんだよ……!」

 手に力を込めてぎりぎりと締め上げれば、ぬいぐるみはじたばたしつつ謝る。
 かと思ったら、ふいに大人しくなって指の隙間から紅い眼でじっとこちらを見詰めた。

「……このまま僕を殺しましょうか?」

 ひどく静かな冷たい声に、わたしはぎょっとして思わず手を離した。

「な、なんでそんなこと言うの……」

 わたしの膝の上に着地して、ぬいぐるみはこちらの指を自分の胸に押し当てる。

「魔王の魂はまだここに。僕の中で眠っています」
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