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【1】聖女 目覚める

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 ――――はっとして、目を開いた。

 同時に、大きく息を吸い込む。
 ……おかしな夢を見た気がする。
 額にじんわりかいた嫌な汗を、手の甲で拭った。

 っていうか、背中痛っ!
 あと、頭と肩と腰とおしりと――ああもう、体中全部痛い。

 上半身を起こそうと右手をついて、

「……あれ?」

 自分が寝ているのがベットの上じゃないことに気がついた。

 ゆうべどこで寝たっけ……?
 てか、何してたっけ……?

 二日酔いの時のように、ゆっくりと体を起こしこめかみを押さえる。
 胸の上からパサリと音がして、目を向けると何故かドライフラワーの花束が膝に落ちていた。

 なにこれ……?

 たしか…………魔王に蹴りを入れたら、勇者に後ろからフレンドリー・ファイアされて――……。

「っ!!」

 慌てて辺りを見回す。
 冷たく無機質な石造りのドーム。
 天井のシャンデリアや、壁の要所要所に置かれた魔法のろうそくマジック・キャンドルが、ほの明るく辺りを照らしている。
 窓は一切無い。
 前方には、祭壇と三メートル程の石像。長い髪とたなびくスカートから、誰かは分からないが女性を模したものであるらしい。

 座っていたおしりの下がゆっくりと暗くなっていく。そちらを見れば、白い光を放つ魔方陣が消えて行くところだった。

「――おやおや、ようやくお目覚めですか」

 唐突に男の声がして、わたしは身をこわばらせた。
 その響きに聞き覚えがあったからだ。

「魔王!」

 声がしたのは祭壇の方。石像の後ろに隠れているのだろう。
 立ち上がろうとして、目眩で膝をつく。
 その様子を覗いていたのか、魔王はクスクスと笑った。

 腹立つ……!

「そんな、他人行儀な」

 他人だよ。

「『ゴーシェ』と、名前で呼んではくれないのですね」

 祭壇の後ろから、何かが動く気配がする。ぽにゅっぽにゅっと足音がして――……。

 ――ぽにゅ?

「おはようございます、ルチルさん」

 物陰から出て来たのは、二十センチほどの小さなぬいぐるみだった。

 片眼鏡モノクルを掛けた紅い眼と、ポニーテールにした長い黒髪。身につけた漆黒の法衣ローブには、魔法銀ミスリルの刺繍が施してある。

 ――――全部フェルト製だけど。

 ぬいぐるみは、ペラペラの前髪をかき上げる仕草をしてにっこり微笑む。

「あの時封印された魔王です」
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