婚約破棄を目指して

haruhana

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ふたりの目指すもの

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 翌日。

 私の馬車が王立学園の門をくぐると、アレン様が誰かを待っているようでした。

 まさか、私を待つわけがないわね。 きっと他の方を待っているのよ。

 長年冷たくされてきた私はアプローチで馬車を降りると、彼を見なかったことにして歩き出しました。

 すると、完全スルーの私に驚いた様子のアレン様が慌てて追いかけてきたのでした。

「リーナ、おはよう! 君を待ってたんだよ。 僕たち、ちょっと心がすれ違っていたみたいだけど、僕も反省したんだ。 これからは仲の良い婚約者として、甘い時間を過ごそうじゃないか!」

 明るく揉み手擦り手で媚びへつらうアレン様。

 目が泳いでますわよ。 あなたって嘘をつく時、瞬きの回数がすごく多くなること、気付いていらっしゃらないのね。

「何を企んでいるのです。 アレン様は胡散臭すぎて信用できませんわ」

 私の言葉に、ギクッ!と顔を引きつらせるアレン様。 やはり怪しいですわ。

「うっ、うさん、くっさいっ、どぁっ、なんとぇっ、心外なぁぁっ!」

 動揺すると噛む癖もありましたわね。 噛み過ぎて舌が相当痛そうですわ。

「今日のランチ、一緒に食べよう!」

 気を取り直し、アレン様は明るく誘いました。

「結構ですわ。 妹さんとのイチャイチャを至近距離で見る趣味はございませんの」

「・・いや。 君とふたり・・だと思う・・多分」

 多分て・・。

「では、遠慮させていただきます」

「そんなっ・・では、今週の週末、君の屋敷に行くよ! 一緒に庭の散策をしよう!」

 必死に食い下がろうとするアレン様。

 乗り気じゃないけど頑張らなければ、と顔に書いてあるみたい。

 被害に遭う前に、騙されやすい両親を私が守らなければいけませんわ!

「週末は会えません。これからもずっと、アレン様と会う約束は致しません」

 不穏なオーラを纏うアレン様を振り切り教室へと向かいます。 そっと振り返ると、彼は怖い顔で舌打ちをしていました。






 週末。

 私は早朝から別荘へ向かっていました。

 侍女に2泊分の着替えをカバンに詰めてもらい、わんちゃんも連れて別荘に避難です。

 アレン様のことだから、強引に屋敷に訪ねてきて、父母を味方に付け、婚約破棄させないように私を説得するつもりかもしれません。

 でも私が外出していれば、その計画はおじゃんですわよ。

 婚約破棄を目指して、逃げ切りますわ~。 ほほほのほ~♪

「お嬢様、ご機嫌ですわね~」
『わんっ!』

 侍女とわんちゃんと私は、軽快に走る馬車の中で楽しく浮かれておりました。







 真っ青な空の下に広がる、キラキラ輝く夏の海。

 白い砂に緩やかな波が打ち寄せる、美しい海岸から少し離れた別荘地に到着しました。

 早朝に出発したので、馬車休憩を何度か入れても、まだ昼過ぎ。

 別荘の管理人のおじさんがにこやかに出迎えてくれて、部屋に荷物を置き軽装に着替えたら、侍女とわんちゃんを連れて夏の浜辺へ。



 リーナたちが波打ち際で追いかけっこをして、屋台の貝焼きに舌鼓を打っている頃。

 予想通り、強引にリーナの屋敷を訪れていたアレンは、計画が狂って慌てていました。

「くそぅ! 僕の考えてる事なんてお見通しというわけか!」

 リーナの不在を侍女長から聞き、地団太を踏むアレン。

「ふふ・・。しか~し! 僕のスッポンのようなしつこさをなめてもらっては困るな」

 不敵な笑みを浮かべると、侍女長にリーナが滞在する別荘の所在地を聞き、馬車を走らせるアレン。

「目指せ、借金返済! 逃がすものか~!」

 リーナを説得できる自信もないけど、行けばなんとかなるだろ!というポジティブ思考だけで追いかけるアレンなのでした。

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