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四章
鍛錬会・準備期間④
しおりを挟む「なら尚更会わせて欲しい!!!!!」
「おぉ………」
こんなにも興奮しているシルヴァンは初めて見る
例えるなら…そう…………いつもはしっかりキャラとして存在しているのに、
興味のあるものが目の前に降臨した瞬間、人格が壊変したのかと疑わずにはいられない程暴れ回る人物を、
普段はふざけ役に徹する人物が、引き気味かつ穏やかにその場を見守る時の気持ち
ゼイン兄上に会いたいと言うならまだ分かる
でもリリアーヌの名前が出た瞬間騒ぎ出すのは理解できない
無名のしがない王女だ
そこまで盛り上がる要素がどこにあるのよ
「わた…………姉上に会いたいのか?」
単純に気になる
「あぁ」
「なんで」
「なんでって…………」
………『そのリリアーヌ王女殿下こそが本物のイアン王子だからだろ!』とか言われたらどうしようかしら
身投げする?
思いっきり飛び出す?
大空羽ばたいちゃう?
……その時はその時よ
躊躇なく笑顔で飛び出すわ
こういうのには勢いが大事なのよ
『あばよ』とか言っちゃったりして
何事にも潔さって必要よね
「リリアーヌ王女はゼイン王子お墨付きだからに決まってるだろ」
「……………………は?」
予想の斜め上どころか真上にいったせいで飛び出す時に必要な合言葉が頭の中から消え去った
「剣術の事だ。ただでさえ王子も強いのに、その更に上を行くなんて………将来正式にジークの護衛騎士になる身として、気になるだろ」
「……………………………………」
(…真面目か)
ただ憧れているんじゃなく、普通に自分の目標として一目置いているとか…
しかも自ら進んであの男に仕えるために努力するだなんて世も末だ
ゼイン兄上とか、外見と内面が他の人より結構マシなくらいならまだ分かるけど
あんな『未来の暴君です』ってプラカードを常に首から下げてる皇子にそもそも近づきたくない
いくら顔が良くても、内面ってやっぱり重要なのよね
「ゼイン王子とリリアーヌ王女が近くにいるなら会いに行かないと」
なんだその使命感みたいなセリフは
一応リリアーヌ本人が拒否してるんだから会いにこなくていいわよ
なんなら兄上も口には出さないとは思うけど、ウザイって絶対思うはずよ
…………………たぶん
……………………………いや…あの人に限ってそれはないか…
「いや、会えないな」
絶対阻止する
「なっ………」
「絶対に会わせない」
「……………おい、今………会わせないって聞こえたんだが」
「空耳に決まってるだろ」
「イアン、頼む。お前は兄弟だからすんなり会えるかもしれないが、俺は住んでる国が違うから………というか同じ王族とか皇族じゃないからさ…こういう機会がないと会えないんだよ」
「手紙でも送ればいいだろ!」
「そもそも付き合いがないのに、どうやって一国の王子の元に手紙を送れって言うんだよ!」
「俺の名前と一緒に送ってやるから!」
「返事が来てもそれまでじゃないか!!俺は話がしたいだけなんだ!」
全く折れない
頑固にも限度ってものがある
一応交渉してる相手が他国の王族だってこと分かってる?
まぁ……………シルヴァンがここまで言うことって中々ないから、本当は会わせてもいいんだけど…
でもイアンはな……………
もし、イアンが私の格好をして来ていたとしても私とは事情が違うから身振り手振りまで真似しようだなんて考えていないはずだ
そんな時にシルヴァンがリリアーヌ(イアン)の所に訪問しても……………
『は?』
ここで終わる
話が発展しない
あと多分だけど機嫌も悪いはずだから、相手にすらしないだろう
そんな時に今のテンションで話しかけられるなんてことになったら、それこそ大惨事だ
「……………………分かった」
苦渋の決断だ
「え」
本当に取り次いで貰えると思っていなかったのか、かなり驚いた表情だ
元々ダメ元だったって言うの?
じゃあ頼まないでちょうだい
「だがゼイン兄上は無理だ。あの人は第1王子だから、恐らく警備が固い。すんなり挨拶に行けるような雰囲気じゃ無いと思うし」
「確かにそうかもな」
「その反面姉上は………まぁ、何とかなる」
場所を指定して、私が着替えて会いに行けばいいのよ
そうすれば平和的に解決する
ちょうどドレスも………レイラの部屋に侵入すればあるはずだわ
いける
「ほ、本当にいいのか…?後から無理だとか言わないよな?」
「会いたいって言ったのはそっちなのに、疑うのか?」
「くっ……………」
幸せ、噛み締めてるな…………
まぁその分………私の危険は増幅するわけだけど
他国の王子が趣味でドレス着てるとかいう噂が出回ったらどうなる事やら……
イアンの王子としての名誉は地に落ちて、挙句の果てには即刻処刑
「ならより一層………………鍛錬会に向けて準備する必要があるな」
なんか気合いまで入ってる………
もう取り消しは不可か…
「イアン!礼として、付き合ってやるよ」
頼もしい笑顔を向けられて頬が引き攣る
「何に?」
「決まってるだろ。鍛錬会の準備だ」
何か特別な準備でも必要なのかしら
「別に必要ない。自分でやるから」
「相手になるって言ってるんだよ」
確かにペアがいない
いつもは素振りだけしか出来なかったのだ
相手がいるというのもいいのかもしれない
エピスィミアでは女性が剣を持つことは特に珍しい訳では無い
ただ………王女ともなれば話は別だった
流行を常に先導し、周りの女性から憧れを向けられる存在でなくてはならない
社交界から離れたところにいる私でも、そういった意識は必要だった
周りからの評価はあまり良くないが、意外にもゴロツキに手を出す姿が一部の女性の中で評判があったりもする
なんでも
『自分たちには絶対に叶わないことを叶えられる素敵な王女様』
という認識らしい
レイラの侍女仲間にも何人かいるそうだ
これが流行であるかどうかは勿論否ではあるが、
少しでも周りの注目を集められてこそ王女として成り立つという(エーテル様の『淑女の心構え』参照)
まぁそういう訳で、表立って剣を握ることは祖国では不可能だった
相手がいても何ら違和感がないというのだから、
ありがたく提案を受け入れるべきだ
ちなみにゼイン兄上が私の剣術のレベルを知っているのは、
以前一緒に街へ出向いた時に貴族の装いをして行ったせいでガラの悪い連中に襲われそうになったところ、
有無も言わず兄上の剣を取り上げ、追撃したことがあるからだ
ちょうどその時兄上の婚約者もいて、将来の義妹がこんなにも野蛮なのかと怖くなったのか泣き出してしまい
次の日に婚約取り消しを向こうから申し込まれたって言う……………
かなり婚約者のことが好きだったのか
笑顔を絶やさず穏やかな空気を常に纏っていた兄上が今まで見たこともないほど落ち込んでしまって、周りがどうしようかとオロオロしていたのはいい思い出だわ
「それはありがたいな」
新鮮な気持ちで剣を持てるだろう
これを機にもっと強くなって兄上を驚かそう
「じゃあ決まりだな」
シルヴァンはさっきまでの興奮具合はどこにいったのかと不思議になるくらい落ち着いた表情だ
とにかく準備は整った
あとは鍛錬会まで剣に慣れるだけだわ
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