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四章
鍛錬会・準備期間②
しおりを挟むレイラとのやり取りは忘れていない
誰に見られてるか分からないし、
慎重にいかないとバレたらまた土下座する羽目になるもの
人一倍私のことを心配してくれているのも分かるから、どうしても調子が狂うのよね
レイラから聞いた訪問者の中にはイアンがいなかった
本人ご登場は避けれそうね
…………………本当に来ないのかしら?
よっしゃあ!五月蝿い弟は来ねぇ!!!!って気を抜いていたら、ばったり遭遇するとか。
『あれ、姉上?どうして僕を装って学園にいるんですか?邪魔です。消えてください』
有り得る
めちゃ有り得る
むしろその終わり方の方が自然
………来ないっていう情報は正しいの?
まさか敵陣に乗り込んで来るような真似はしてないわよね?
………………………………………………来ないのよね?
おい、応えろイアン
…………もう考えるのをやめた方がいいわね
キリがない
そうよ、メリハリのある所が私のいい所なんだし
うん
…………………アメリアが来るんだよなぁ…
あの純粋無垢な可愛い妹が……………
本当にどうしましょう?
丁度いい死角を狙って1発で仕留める感じで目に触れさせないように、試合を進めていったら何とかなるものなのかしら?
……………どうなんだろう
直接は見せられないわ……
幼子にはまだ早いし………
一緒に寝る時に暴力の心得について何度か解説したけど、アメリアはその主人公が私だとは言ってないもの……
………………いや……知ってるのかも
……………………知ってるわね…多分
あとは…エーテル様のことも解決してないわ
エピスィミアを出ていく時もかなり心配してくれていたもの
変質者に会った時の心得をまとめた本まで頂いている
私が元気な所を見せておかないと心配させるわよね
これで期待値なしって思われて本当の息子(イアン)が来られても困るし
シエル姉上は私が何かすると心配して体調を崩してしまうのよね
手紙が何通か届いたけれど質問ばかりだったわ
…………
「イアン、手紙が来てる」
そう言ってルームメイトから渡された
私以外しか開けられないよう魔法が施されているようだ
紋章を見る限り王族が使えるもので、しかも上質な美しい紙で作られた便箋は
優しい姉を想像させる
(あっ…ようやく一通目ね)
国を出る時『手紙を送るから』と何度も言われた
今はちょうどハテサルに来て丁度2週間程経つため、周りの王子や王女の反対を押し切ってようやくかけたという状況だろうか
そんなことを考えながらペーパーカッターを使い、丁寧に封を開けていく
そして目に入ったのは、
『文字』だった
いや、当たり前だが
言葉通りに、『文字』なのだ
一瞬の余白すら許されていない
周りに施された美しい花の装飾の上にも文字が書かれている
しかもめちゃくちゃ文字が小さい
遠くから見たらただただ黒い紙にしか見えない
『イアン!本当に大丈夫なの?!大丈夫なのよね?大丈夫なのよね?!!?!!?!!?あぁ!私はとっても、とーっても心配よ!!!!!!同級生とはどう???上手くやれているの??虐められていない?!!?大丈夫なの?!?!そういえば寮で男性と同じ部屋になるって聞いたわ!!!!私のお母様は失神してしまったのよ?!本当に大変だったの!!
隣にいたエーテル様が魔法で抱えてお部屋まで連れていくことにもなったわ!!!!!!リリが心配で心配で…!!!
ゼインお兄様も難しそうなお顔をしていたわ……。イアンなんかはすぐに連れ戻すと綴られた手紙を何通も城に送っていたし…………………。あまりその辺の情報はこちらに来ていなかったみたいなの…………。きっと貴女のお母様であるリデラ様もとても心配しているはずよ。あのお方は他国に手紙を送る権限がないの…。私たちは情報を得て貴女を心配出来るけれど、貴女のお母様は違うわ。きっと見えない恐怖に襲われてる。………………私宛の手紙にもうひとつ便箋を入れてくれたら私が直接お渡ししておくから、また送ってちょうだい。
あぁ!そういえば聞いたわリリ!
剣術や体術を学園でやるんだとか!!!!!本当に迂闊だったわ!!!貴女はいくら強いとはいえ、立派な淑女なのに!!!!!!!!!危なすぎるわ!!!!どうしましょう、どうしましょう?!?!?!
_____………………………!!!_______ 』
…………一体これを書くのにどれだけ時間を費やしたのか
呼び名がイアンからリリに途中で変わってるし
言葉が随分反復されている
言いたいことは分かったけれども
「………………それ……誰からだ?」
ルームメイトは後ろから覗きこんでいたようで、驚きと引き気味の感情が混ざりあった顔をしている
「…………………………………異母姉」
…………
剣術と体術…………諦めた方がいいのかしら
なんかもう嫌になってきたわ
競技は好きだけど後が怖すぎる
リスクが大きい
比較的平和な魔術だけにした方がいいのかもしれないわね
………………………でもなぁ
「____、………か」
そういえば、ゼイン兄上も来るって言ってたわよね
いや別に来るのはいいけど、あの人本当に大丈夫なのかしら?
頭が大丈夫かどうかじゃなくて、時間とかの話
国外でも国内でも人気で引っ張りだこ?って言うのにハテサルに来る暇はあるのね
今度聞いてみよう
『どんなに人気の兄上でも本当は随分暇なんですね!』
殺されるわ
ゼイン兄上は比較的温和だけど、怒ると結構しっかり怒る
突き刺すような冷たい視線を送ってくる
眼力で人が殺られていく
…………もしかしたらここの皇太子とも似て……はないわね
ここの皇太子は常日頃から無差別に攻撃してるもの
差別はしない
立派なのね
「_い、__えて___のか」
……………………………抱えてる問題が多すぎる
なんでこんなことになってるのかしらね
私はただクズ共をボコボコに出来ればそれでいいって言うのに…………
…はぁ…………
こんなことを悩むくらいならクソじじいを殴ってでも来なければ良かったわ
さっさとゼイン兄上を王太子にして、王座を退けばいいのよ
邪魔
それに留学もルークとかに行かせれば良かったのよ
………まぁ多分国家問題を起こして戻ってきそうだけれど
大体あの
「イアン・テランス・エピスィミア王子!!聞いているのか!」
「はっ…」
ものすごい怒声に脳が再起動される
「上の空とは…」
今は魔法学の時間だ
暇すぎて聞いてなかった
(それにしてもびっくりしたー………どこからそんな声が出てくるのよ。メガホンか)
「イアン?」
「大丈夫か?」
あ~……考えるのを止めるつもりが……
うーわ…めちゃくちゃ見られてる
………………………人気者なのも考えものよね
………………ふっ…
「魔術大辞典、2503ページ第236章防御編」
「…………………ん?」
突然何よ
「目の前にある辞典はお飾りかね?イアン王子」
(げっ……)
しまった、処刑台行き………!
姿勢を正し、イアンの(よそ行きっぽい)笑顔を作る
「すまない、リトラス卿。奥深い魔法の授業を受けて、祖国を思い出していた。直ぐに答える」
「うむ」
満更でもなさそうね
随分誇らしげな顔をするじゃない
ええっと………2503………防御………
……………………………
………………………………………
……………………………………………………あった
「防御魔法展開に関する理。魔法陣を展開する際」
(満足かしら?)
分からない程度に話しながら少しだけ目線を上げてみる
見ると、教壇に立つ髭は手元のブロックのような本に視線が落とされている
(…………………間違ってはなさそうね)
話ながら軽く一息つく
こうして少し安心してしまうのも、
前から懸念していたことがあったからだった
ハテサルやエピスィミアで使われている言葉は世界共通語ではない
エピスィミアは伝統を重んじており、
またハテサルは多くの国が合わさってできた国のため、独特の発音をしたりする
ただ幸いなことにハテサルとエピスィミアは隣国ということもあって全く理解できない程の違いは無い
座学系の教授は発音に厳しい人が多い
(このリトラスとかいう髭は特にそういうとこに厳しそう…………
まぁ間違えても、一応他国の王族だから見逃してくれるかもしれないけど)
「…………___結論を記さず省略することで完成させられる。広範囲に及ぶ場合はカエサルをミカエルに……………」
(ん?カエサル?)
私は祖国で学園に通わせて貰えなかった
だから自分が魔力を持っていたとしても魔法陣を書く必要のない、軽い詠唱で済む魔法しか使えなかった
ただ、一応本は読ませて貰えたのもあって
そこから沢山の魔法の知識が手に入った
色んな本には正しい情報もあればそうでないのもある
どうして判別出来るのかについての理由は、
単純に実践して試し続けて来たから
<防御魔法>
防御魔法は各自の特性魔術、火、水、地、風、氷、闇、光
の7つの属性に基づいて創造される
魔法陣を展開した時に使われるのがミカエルの方程式で、発動する時に使うのがカエサルの方程式である
広範囲に展開する場合はミカエルの方程式に、カエサルの方程式を組み込むことでより効率的に発動出来る
シ───ン…………
「…………ぉぃ?イアン?」
小声で誰かの声が横から聞こえてくる
「どうしたのかね?」
「…………………………これ、間違ってますよね?」
私が知ってるのと違う
ーーー
リリアーヌの言葉にリトラスは目を見開く
「そもそもミカエルの方程式を使うなんて非効率過ぎる。普通に基本の魔法陣を描けば、発動するために必要な魔力量を抑えられるはずだ」
はっきり言って、正解はないけど
比べたらどちらの方がより効率がいいか分かるはず
「というか、ここの皇太子殿下も僕と同じ方法で展開してたじゃないですか」
知らんけど
私がそう言うとする前に、周りが一斉に騒がしくなった
「ジークフリート殿下も同じ方法で?」
「殿下は真実を知っていたのか?」
「やはり殿下は素晴らしい!」
「効率を考えられていたんだな」
「___………!!!!」
「__……!」
(……………随分信頼されてるのね)
ほんとに微笑ましい
(…………………なんでブリザード野郎が褒められてんの?褒めるの私じゃない?)
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