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三章

誘拐の理由

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「ようやく貴方は私たちの行動を理解したようだ」


「うんうん…理解したよ。なんていい話なんだ」


「これで君も立派な一員だな!」


「そうだね!!」


「ははは!」


「あはは………………」









いや、分からん

え、どういうこと?

この同好会がただの変人の集まりではないことは分かったけど

私はなんでここにいるのよ

ここ一般人が集まる所なのよね?

私一応魔法使えるけど

変な仲間意識を持たれても困るんだけど







「ここにいる理由聞いてないんだけど?」

「なんだと思う?」

「…実験台?」






「運命さ」








馬鹿にしてる?

ねぇ、馬鹿にしてるの?



「真面目に教えろ」


「怖い……………………………」


怖くもなるわよ

このまま何も分からないまま、この同好会に入れと?





…………はぁ…流石にイラついてきたわ…


「ここに連れてきた理由は?」


「…………」


何よ

だんまり?

……






「……君をこの場にお連れした理由は、」

「一般人の…理解をしてもらうためだ」


(意外とすんなり言うのね)




「理解?…一般人の存在くらいなら誰でも知っているだろう?」

私がそう言うと、会長は俯く







「訓練場での実力を見る限り、君の魔法は強大だ」


「あのイザーク卿にも劣らなかった」


また奥から人が出てきたわね……



「君はこれから、この学園で尊敬の眼差しを向けられることになる…。だから…訴えて欲しい」



「……生徒に?」



「この学園はほとんどが貴族…彼らの両親も名だたる人ばかり。国の中枢にいる」


「私たちが訴えたところで、彼らには響かない」


…なるほどね



「つまり、俺にこの同好会に入れと」


「無理にとは言わない!………だが」


「別にいいけど」


「分かった…他を当たるよ……………」






「また皇太子殿下のところに行くの?」

「俺もう嫌だよ」

「殺される…」


ん?


「…入るってば」


「ごめんよ…無理につれ……………」


ピタッ



「ぇ………ぇぇぇぇえええええ!?!?!?!?!?!」


バク転しだした…


「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


側転も…


「うひょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


ダンス…………?



いや、すげぇなおい


随分………………………アクロバティックね

陰キャの塊みたいな奴しかいなかったのに

魔法なんか使えなくても、そっち系の仕事でいけるんじゃない?




テンションどうなってるん?





「君も一緒に踊ろう!!!!」


「テンションについていけない」


「大丈夫!とりあえず、叫んでみて!!!!」


郷には郷にしたがえ…って言うわよね

仕方ない












「あっひゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















騒ぎが収まり、部屋から生徒が出ていく

かなりの数がいたようだった

といっても10数名程度ではあるが

一般人はほとんどいないため、これでも多い方だ




リリアーヌは会長に呼び止められ、教室に残っていた






「帰して欲しいんだけど」




「もう少しだけ待ってくれるかな?……………………話があるから」

そう言って、紅茶を入れてくれる



先程他の生徒がいた時より、さらに穏やかな表情だった

久びさに向けられる優しさに、少し動揺する王女

常に殺伐とした雰囲気の中で生活してきたため、
居心地が悪く感じてしまう





「…ふふ……確かに似てる…けど、やっぱり違うね」

「え?」





















「姉弟だと、母親が違っても顔が似るものなのかな?」



















「……………………………………………は?」


「いや、確かに我々のことを知ってもらいたいのもあったんだけど………確かめも兼ねてね」


「な、何言ってるんだかさっぱりいいぃぃぃぃ………」


(ま、まずい!処刑行き!)

王女は国のことより、保身に走ることにした




「君はイアンではなく、リリアーヌ王女だろう?」


事実を突かれ、沈黙が訪れる


「……あ、君が男装していることは誰にも言わないよ?何か事情があるのはひと目で分かるしね」


固まったリリアーヌに苦笑する


「それに、イアンとは友人なんだ」


「それを先に言いなさいよ!!!!!」


思わず素が出るリリアーヌ


「あはは!……ごめんね?言おうと思ったんだけど他にメンバーがいたからさ」


「…」


「イアンとは、研究者仲間なんだ。たまたま調べている分野が同じ時があってね。…………………………………先日も彼から手紙が送られて来たよ」


「……なんて?」


「『姉をよろしく』だってさ」


「何様だよ」


「初めはなんのことかさっぱりだったんだけど、ようやく理解出来たよ」


「帰ったら絞める」


「君たち姉弟は本当に面白いね!」


リリアーヌの言葉にいちいち爆笑する会長

リリアーヌにとってはウザイ以外のなにものでもない




「……そういえば、私の名を知っているのね?一応王女だけど…私は…………」


リリアーヌの質問にハイトは微笑む


「イアンから君の話をよく聞くんだ」


「うっわ」


思わぬところで自分の情報が流れていたという事実に顔を歪める


城とは本当に恐ろしいところであると実感するきっかけとなった















「あー…そういえば」

帰り際、まだ部屋で片付けをしていた会長の方を向く



「ハーフっていうのは…………どういうこと?」

(結局どういう意味なのか分からないままだったわね)






「あぁ…あのことか」

会長自体もその件のことを忘れていたようだ





「あれはね、君の…出生のはな………」


「それは知ってる」


リリアーヌは大体ツッコまれる専門だが、この同好会のことをきっかけにツッコむスキルが格段に上がった



「君は王女様だから…父君は国王陛下だろう?」


「認めたくないけど、まぁそうね」

(悪寒がするわ…………………くそじじいのせいね)





※ここで備考だが、別にリリアーヌ父はじじいと呼ばれる年ではない(年齢35歳)




「君は知ってるかどうかは分からないけど…………………エピスィミアの王族は代々、魔力の保有量がとても少ないみたいなんだ」


「私って少なかったのね」

リリアーヌは自分がそこまで魔力に困ったことがなかったため、思わぬ事実に少し驚く



「………ハテサルの皇族は多いんだけどね…。エピスィミアは何故か少ないんだ。………………イアンもそこまで少なくないけど、不満があるみたいだよ」


「あの弟に不満ねぇ」

いつも成功している姿しか見ないリリアーヌには心底信じ難い話である




「君の母親は魔力を持っているのかい?」


「うーん………持ってない…わね」






リリアーヌの母親は小さい頃、いつもリリアーヌが魔法を扱えることを羨んでいたのだ

何度か一緒に練習したこともあったが、てんでダメだった




それは彼女の母に限らず、かつて共に生活していた人、
スキアの村人にも当てはまる

リリアーヌの周りにいる者は皆、魔力を持っていなかった

そのため、彼女だけが魔法を使えるということで周りに大変尊敬されたという記憶があるのだ





「魔力の保有量は遺伝することが多いんだ。だから、君の母親が魔力を持ってないということは、君の直近の……母方の祖父母とか…誰かが魔力を持っていた可能性があるね」


「祖父母…」



リリアーヌは祖父母に会ったことがない

祖母はリリアーヌが産まれる前に亡くなったと聞かされていたが、誰も祖父の話をしなかった


だが、特に疑問に思うこともなかった

村には一応少年はいたが、大人の男性はいなかったのだ




「どちらかが魔力を持っていない者を親に持つ子供ををハーフと呼ぶんだが………君の話を聞く限り……………………ハーフではなさそうだね」


「別になんだっていいけど」


「………強いな」


ハイトは今日初めて、イアンから聞いた話が理解出来た











『リリアーヌ王女のメンタルはダイヤモンド級』





重い話になればなるほど興味を無くす

リリアーヌはとにかく頭を使うことが嫌いだった




「また…聞きたいことがあったら、いつでもおいで。」



会長はいつまでも穏やかだった








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















リリアーヌが寮に戻る廊下を歩いていると、門の前に背の高い青年が佇んでいた







「お前さぁ…俺に面倒事押し付けるなって………………………皇子だろ?」

凍てつくように冷たい瞳が王女を捉える





「………」

「なんか喋れよ」

「………………………」

「おい」

「………………………あのどうこ」

「聞こえて…………あ、ごめん。なんて?」

「……………………はぁ…」

リリアーヌは彼がため息をつく姿しか見ない




「お前寝不足なの?」

「…あの同好会については、私が自由に活動させている」


そう言うと隣にあったベンチに腰掛け、目を閉じる


「……………生徒の中には、一般人を差別する者も少なくない……。…だか、私が許可を出した集まりならば、余計なことは言わなくなるだろう…。……皇太子に歯向かうことになるからな」


「意外に饒舌だな」

「………………………饒舌の枠組みに入るのか?」






「………大分遅くまで話し込んでいたようだが…なんの話をしていた」


「え、別になんでも良くない?」


「…なんの話をしていた」


珍しく、ジークフリートがしつこく質問してくる

整った容姿も相まって、余計凄みが増していた



「別に…同好会の話とか、俺の話とか…そんな感じ」


「…………俺の話?」


「エピスィミアでのこととか…」


「…………私には話してはくれなかっただろう」


「兄妹の中で、会長と仲の良い奴がいたんだよ」


「…………誰だ」


「…俺のところは兄妹多いし、話聞いてなかったから覚えてない」




(あからさまに機嫌悪いじゃない…。表情筋死んでるんじゃないの?)




かつてオリヴィエに聞いた情報と異なり、不満が漏れる


「………………分かった」


「…も、もー帰っていーい?」


「……構わない」






リリアーヌは腹が減っていた

何か食べないとまた、暴れてしまう



その時の彼女の帰る速度は計測不可能だったらしい



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




















………王子が訓練場にいる時…不覚にも、魅入られた

…ただの留学生だ

分かっている

だが…以前も………どこかで…



あの動き…

魔法を使って攻撃するあの姿が…


似ていたんだ…



あの時の踊りに………


私だけが知っている

彼女の舞に








…あの王子の動きは速さに特化している

魔法を放たれる位置がランダムで、余計に……




イザーク卿は強い

並の生徒なら一瞬で負ける

私も幼い頃は何度も負けた

だが、コツを掴んできて………


今では彼より強くなった

だがそれは……………………何度も戦ったからだろう


……………王子は初めてで、動きも読めなかったはず

それでも同格の力を持っていた





魔法の威力は計り知れない

きっとあれは本気ではない

………………知れば知るほど謎が深まる




……………………疲れる
















リリ………君は…どこにいる………………?




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