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三章

人間じゃない

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攻撃してくる素振りも見せないわね…





そっちこそ調子乗ってるじゃない

構えもしないで

それだけ自信があるって事?








………いいわ

やってやろうじゃない

もうこの際、痛い目みても知らないわ




ちょうど人を殴れないせいでイライラしてたのよ

跪いて命乞いするがいいわ

あはははははは!
















「うわ…あいつニヤついてるぜ」

「………………………随分余裕だ」

「感心しますね」

美青年3人衆がボソボソほざいているが、どうでもいい





「ウェズせんせー、痛い目みても知らないよ?」


「望むところだ」













『セイント・ルミエール』






詠唱を唱えると周りが一気に輝きだす

久々の感覚に、胸が踊った




せいぜい振り回されるがいいわ







腕を振りかざしてあのジジイに向ける

…とりあえずどの位のレベルが確かめないといけないわね







ニヤけが止まらない顔をあげ、次の詠唱を考えることにした

リリアーヌの瞳は金色に輝いていた




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


















「おい………まずいんじゃないか…?」



隣にいるシルヴァンが呟く





周りの観衆もざわめいていた



ジークに関しても声は出してはいないが
少し目を見開いていた


普段表情筋を一切使わない彼にしては珍しい

だが、気持ちは分かる







この目の前で繰り広げられる闘いは尋常ではない


きっと過去にも未来にも見ることのないような激戦だ









魔法学教師イザーク・ウェズ

彼の実力は計り知れない



天才と呼ばれるジークが師とする方だ

当然私など及ぶわけが無い



何度かジークと闘っている姿は見たことがあるが…



ここまで長期戦に持っていく者は見たことがなかった

闘いの様子はジークの時よりも激しい




それにして、イアン王子の攻撃する様子は美しかった


まるで舞いでも舞っているようだ











「魔力の及ぶ範囲が徐々に広がってる!」

「バリアを張った方がいいんじゃ……」

「攻撃がこっちに飛んでくるぞ!」

「避けきれない!」

「きゃぁぁぁ!」














キイィィィィィィン



凄まじい音と共に静寂が訪れる













「………………………静かにしろ」










思わず息を止めてしまう程の凄みの皇太子がバリアを構築していく

珍しい光景に興味があるのだろう

邪魔されるのが気に入らないようだ





こういう時に反抗する者はいない
周囲が一気に静まり返る

流石と言うべきというか…









それにしても…

視線を皇子から王子へ向ける



エピスィミア王国第3王子イアン……



大事な外交相手の国代表の気を悪くさせる訳にはいかないと思い、積極的に話しかけはしたが……………







この国で彼の情報はほとんど出回っていない


事前に調べた時も

彼が研究者であること
母親の実家の後継者であること……………それくらいしか情報は出てこなかった






元々エピスィミア王国自体
積極的に外交をせず閉鎖的な風潮があるため、予想はしていたが…




これだけの実力を持っていても、これほどまでに人に知られぬものなのだろうか


彼は隣国でも学園に通っていると聞く

何らかの噂位はあってもいいだろう



ここまで情報がないと、不自然だ









帝国の次期宰相として多くの情報を手に入れておく必要がある



彼から話を聞き出さなくては

ジークもまた、彼に聞きたいことがあるらしいが…


目的は違えど、やることは同じ
 




冷酷皇子よりは私の方がマシだろう







「ジーク、顔が怖いですよ。」

一旦頭の中で情報の整理をして、皇子に話しかける






「それに…………皆が驚くのは当然とも言えます。まさかイアン王子がここまでの実力の持ち主だったとは誰も知らなかったのですよ」



「オリヴィエ、お前イアンのこと軽くディスってるだろ」



ディスる?失礼ですね








「そんなことはありませんよ。イアン王子は初めて見た時からトリッキーな方だと思っておりましたから」


「トリッキー……あいつをそんな言葉で済ませていいのか?」


「…………………言葉が哀れでならない」




ええ………………まぁ確かに




バナナを土に埋めて墓を作っている時点で、同じ人間なのかを疑ったが

しかもバナナを落とす原因になった男は彼の制裁(暴力)を受けていた




普通、あそこまでバナナに執着する者はそもそもいないだろう

トリッキーな王子…確かにその枠には収まりきらないだろう








………………話が逸れてしまった



今は目の前の光景を目に焼き付けなくては








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










うわーーーーー

詠唱無しでそのレベルかー

あの教師も舐めてたけれど、私も大概ね





しかもあのジジイ…







闇属性じゃない

確かにいかにもって雰囲気はあるわね




相性悪いわ

向こうも同じだろうけど








はぁ…どうしましょう

攻撃を止める素振りを全く見せないわ





でも………多分、ここで止めたら勢いで確実に殺られる


こんな訓練場で命を落とすなんてごめんだわ





こうなったら……………奥の手を使うしかないわね




目の前の攻撃をうけとめならがら、
辺りの空気を死ぬかと思うほど肺に溜める


そして……























「イザークせんせーーーー!いつ止めるのーーーーーーー!終わんないんだけどーーーーーーーー」












終わんないんだけど~~~~~~~~~~

終わんないんだけど~~~~~~~

終わんないんだけど~~~~

終わんないんだけど~

終わらんのだけどぉ













彼女曰く、必殺メガホンくん



リリアーヌの奥の手のひとつだった

かなりの大音量なため、大体の相手は動きを止める

体全体にバリアを張っている人間でもびっくりするレベルの音量だ










様子を見ていた生徒達もジークフリートのバリアがあったから良かったものの

なかったら全員、鼓膜が破れている








流石に驚いたのか、イザークは攻撃の手を止めた













「…………………言葉通りだったか」



先程までの機嫌の悪そうな顔は見当たらず、納得したような表情だった














「これ程の実力ならば、その言葉遣いで許されるのが納得出来る。………エピスィミア王国の未来は明るいだろう」


(急に何?)






「え?あぁ~~………どうもありがとうございます?」




イザークは帝国の人間とはいえど

魔法の発展を心から願っている者の1人



他国の人間であっても、ここまでの人材がこの世に存在したというだけで幸せなのであった





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「…お前凄いな。尊敬するわ、性格以外は」

「あ?」

「イザーク先生にも認められるとは、本当に凄いも思いますよ」

「ん、ありがと」

「いや、俺と全然対応が違う」

「…………………理由は明確だろう」




授業が終わり、寮に続く廊下を歩く

ルクス寮で生活する者は数少ないため、辺りは閑散としていた









「…すごく気になっていたのですが………」

前を歩いていた後ろを歩いていたオリヴィエが話しかけてきた


「イアン王子は国の行事にはあまり参加なさっていないのですか?」

「積極的には参加してないけど」

(争いごとが嫌いなのよね)



元々イアンの母方の実家、ローゼンバルト公爵家は
魔法伯ルゼ・ローゼンバルトの娘、ルネアが60年ほど前に国王の正妃になったことで繁栄することになった家だ





王家は当時、ローゼンバルト家が持つ強大な魔力を必要としていた


何故ならエピスィミア王国は今よりさらに小さな国で、攻められてしまえば簡単に潰れてしまうほど弱国だったからだ


そこで当主のルゼの娘を妃に据え、関係を強固なものにしようと考えた

その対価として、ローゼンバルトに公爵という位を与えたのだ




公爵の位を与えられたルゼは早々に戦場へと魔法士達を向かわせる
だが、長い間魔法の研究だけを続けていた彼らは
敵国の兵士には適わなかった


それを機にローゼンバルト公爵家は王家とはあまり関わりを持たなくなるようになり、
イアンの母が今の国王に召し上げられるまで娘が嫁ぐことはなかったのだ


現在の国王、リリアーヌたちの父はかつての王と同じように魔力のような力を求めていた

それゆえ何かと息子のイアンを政治に誘っているが、イアン本人が父の思惑を知っているため
国の行事などにも機会を作らせないように参加していないのだった





(まだイアンの方が生活しやすいはずよ。私なんかこんな他国に、性別詐称して追いやられるくらいだもの)


リリアーヌは過去を振り返らない性格だが、あいつ(父)の行為だけは許せなかった





「理由があるのですか?」

「面倒だし……そもそも俺は公爵家の人間になるつもりだから、あんまり興味ないんだよね」


(それっぽいこと言っとけば何とかなるわ)


リリアーヌは適当だった



「…あまり貴方に関する噂を聞かなかったものですから」

「まぁ半分隠居してるから。食事も自分で作る」






祖国にあるイアンの部屋はかなり実用的だ

小さなキッチンまで付いている

彼は自分の身の回りのことは全て自分でやってしまうのだ




「でもお前……料理出来なかったよな?」





これは完全にリリアーヌのミスだ

以前、2人の共同スペースでリリアーヌが作ったハンバーグなるものをシルヴァンが食べたことがある

見た目はそこそこだったが、味は最悪だったという

どうしてこんなものが出来るのか不思議になる程のレベルだったらしい





「自分で作ったものは大体美味しいだろ」



「でもお前食べたあと腹、下してただろ」


ゎぁぁぁぁぁぁ


「あれはアイスを…………」









「………………なんでしょう」




リリアーヌがシルヴァンに反論しようとした時、後ろの方からものすごい数の足音が聞こえてきた


「…………………………………厄介だ」


ジークフリートは急に姿を消す


リリアーヌは慌てて周りを見渡す


だが、この廊下には怪しい集団と自分しかいなかった















「いたっ!あそこにいるぞ!!!」

「追えっ!」

「捕まえろ!!!!!」

「あいつは、人間じゃない!」

「誰か転移魔法使える奴いるかっ!」





網を持った変人がリリアーヌに目掛けて一気に襲いかかってくる



リリアーヌは本能で逃げた








そばにあった窓から飛び降り、中庭へ出る


寮を走り抜け、何メートルか走り


部屋に逃げ込まなかったことを後悔する


猛スピードで道を走り抜け、訓練場の物陰に隠れる








「いや、誰?」

ここへ来てようやく疑問が浮かぶ

彼女は大体、考える前に行動に移すのだった













人々はそれをバカという



















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




本編外に、「レイラの話」を更新しました!

ぜひ、読んでください!
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