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三章

名乗り出ろ

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のらりくらりと言葉を躱しようやく退出の許可を得る


今度は迷わずに部屋までたどり着くことが出来た


そして今、こうして扉の前に立っている訳だが



「…何これ?」












扉には精巧な模様が彫られた槍が何本も突き刺さっていた






部屋の前で闘争でもあったのだろうか



いくらなんでも物騒である





寮は間違えていない

とりあえずスルーして部屋に入る

こういうのは下手に触らない方が身のためなのだ








「あ、イアン!」

扉を開けると普段部屋に響くことの無い明るい声が聞こえてくる




「何しに来たんだ?」



短髪の青年リュカは、曇りのない満面の笑みを浮かべ部屋でくつろいでいた

隣にはルームメイトもいる



リリアーヌも周りからは性格が明るいなどとよく言われるが、ここまで曇り無き笑顔は出来ない





部屋に来た理由を問うと、当時の状況を思い出したのか大笑いをし始めた


「実はさっき俺のルームメイトが大事にしてた人形みたいなのをうっかり落としてな!やばそうだったからテリビル寮から逃げて来た!!!」



「…人形」

「お前いつか呪われるぞ」




第1皇子ジークフリートの乳兄弟、リュカ=クレイはテリビル寮生だ



テリビル寮は、成績最下層クラスの学生が生活している



リュカもその1人だった



ジークフリート、シルヴァン、オリヴィエは、ルクス寮で生活しているため、リュカがここに訪れることが多い

多いといっても3人がテリビル寮に訪れることは無いが









テリビル寮にはヤバめな奴しかいないのである

学園で騒動が起こると大体1人はテリビル寮生である程だ

わざわざ面倒事に巻き込まれに行くわけが無い



「あいつすぐにキレるからなー。この前もその人形に少し当たっただけで追いかけ回されたからな!」



本人は腹を抱えながら笑っているが、
あの扉を見る限り相当な恨みを抱かれている

普通あんな槍を持ち出さないし、そもそもルクス寮までわざわざやってこない

しかも部屋に槍を突き刺すなど、部屋の主が隣国の王子と侯爵家の息子だと知っていたら絶対にやらない

扉にはネームプレートが貼られており、誰が生活しているかすぐに分かる


リュカが一緒に行動するのは皇子か宰相の息子かシルヴァンである事は多くの人に知られているため、逃げ込むのもその3人のうちの誰かの部屋であることは考えればわかることだった


それすらも分かっていない程、キレていたのは間違いない



おそらく、今回以外にも色々やらかしてるんだろうと容易に想像できた






「扉直してけよー」

「あっはっは!あいつ面白いよなー!」

(私でも、流石に気の毒だと思うわ)




まだ見ぬ彼のルームメイトがリリアーヌには不憫に思えた




(…仲良く出来そうね)












「そういえばイアンって侍従とかいないのか?他国から来たならお付の奴ぐらいいるだろ」

帰ろうとしていたリュカからの唐突な質問に驚く


「あぁ…確かにな。まだ俺は会ってない」








リリアーヌには侍女はいるが侍従はいない

そもそも公務を行うこともないため、侍女だけで十分なのだ





だが、イアンは違う


彼女の弟であるイアンは、母親の実家である公爵家の家督を継ぐことになっているため色々なことに手をつけている


そのため側近や、侍従も多い


周りに誰もいないため、不思議に思ったのだろう





イアンの情報は、一応功績を残しているため世に出回っている

リリアーヌのような、父から嫌われ海外でも認識すらされていない王女とは違う


仕えてくれているのが侍女1人などと言った時には怪しまれるのは確実だった




「一応侍女は付いてきてるよ」

「女?侍従じゃなくてか?」


「幼なじみなんだ」



これは嘘ではない

彼女を支える侍女、レイラは昔からずっと一緒だ

歳が近いのもあって2人の義母兄と姉と共に、慕っている

「今何処にいるんだ?」

「流石にここで生活するのはまずいから、学園の職員寮にいる」


一緒に生活しようと提案したが、一応男のていでここに来ているためよろしくないと却下されてしまったのだった







本当ならば一緒に生活していた方が良い

侍女が誘拐されるなんて話はよくある





普通ならば何もしないのが当たり前だと言う者が多いが、リリアーヌにはそんなことは出来ない

きっと助けに行くだろう

だが下手に動くのはあまり良くない


幸運にも職員寮の一室を貸してくれるとの事になったため、危険を防ぐためにそこで暮らしているのだ

会いに来ないのは、余計なことをしないようにとの彼女の配慮だ






「会ってみたいな!」

「別にいいけど、レイラは…嫌がる。多分」

「ならこっちから会いに行こう!」

「やめとけ。問題起こすだけだ」


リュカは問題を起こす常習犯であった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「皆さんご機嫌いかがですか」


教師の挨拶で、場が静まる

普段、常に五月蝿いリリアーヌもその言葉で動きを止めた







今日からリリアーヌも授業に参加するのだ


初めての授業の科目は魔法学、一通り1日分の座学が終われば実技に入る


既に2学年であるため、内容は応用に入っていた





リリアーヌは教師の話を聞きながらニンマリ笑う








リリアーヌは意外にも魔力量が多い


魔法を使わずとも強い彼女は普段使うことが殆どないため、慣れていないせいか使い方は少々雑ではあるが、一流の王室付き魔法士より魔力を保有しているほどだった



学生なら日常で使わずとも授業内で使う機会があるが、リリアーヌは兄妹の言いつけで学園に通うことを許されなかったため、こうして魔法を使うのは随分久しぶりのことであった


そんなこともあり、王女はとてもウキウキしていた

(フフ…気に入らない奴全員、ぶちのめす)





傍から見たらただの変人である












「お前、階級いくつ?」

隣に座っていたシルヴァンがリリアーヌに質問する


「…6だったような気がする」

(違ったっけ)

「気がするって何だよ…お前のことだろ?」

(ほーこくしょには書いてなかったけど…大丈夫かしら?)




魔法士にはそれぞれ階級がある

1から10まであり、

1から3が初級者、4から5が中級者、6から9が上級者


最高ランクである10はイカレ野郎…………………

要するに……魔法バカである






現在10レベルの者は世界で見てもほんの数名

かつてはある程度の人数が存在したのは分かっていたが、突然姿を消してしまったという












階級は魔力保有量で決められる訳では無い

扱いに優れ、無駄な動きが少ない者がより高い階級を得られる



扱いに優れた子供は、まだ成長期で保有量が少なくとも
大人より階級が高い者も稀に存在した





要するに才能が重要なのだ



こんな話はさておき、
第3王子イアン=テランス=エピスィミアは階級6の実力者である


まだ17歳であるにも関わらず、このレベルはかなり高い


もう1人、第1王子ゼインは19歳で階級8という世界記録保持者がいるが…

それを上回る階級に行けると周りから期待されているのだ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…………では座学はこれにて終了いたします。30分後、着替え終わりましたら外の訓練場にお集まり下さいな。2時間目は実技ですので。Cクラスと合同授業ですから、遅れぬように気をつけて下さいね」


「Cか…。ジークとオリヴィエのクラスだな」


「ん?ジーク?」

リリアーヌは思考が一瞬停止した




結局、帰れと向こうから言ったにも関わらず出ていこうとしたら質問攻め

よく舌がそんな回るなと関心してしまった程だ



(普段とのギャップで好きになることがあるって聞いたことあるけど…一層嫌いになったわ………
途中でぶちのめして強制的に質問止めようと思ったもの………

誰だよ、んな事言った奴…ウザイだけじゃない…名乗り出てきなさいよ……………ぶち●してやるわ)








「…ちっ」


「なんで急に舌打ちするんだよ」




彼女のルームメイトは呆れながら、訓練場とは反対の方向に背を向ける

「どこ行くんだよ」


(次は外で集合よね?)





リリアーヌの問いに、更に呆れた表情で視線を向ける


「着替えないと出来ないだろ?」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








おわっ…た

目の前の光景が夢であると思いたい

いくらなんでもそれはない

こっちは純粋無垢な少女なのだ






彼女の目の前に広がる光景

それは………


「イアン王子?大丈夫ですか?」

「…………」

「ついに頭やられたか」













上半身裸の男しか居ない、楽園だった

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