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三章
冷酷である理由
しおりを挟むリリと別れたあと、俺は国に帰った
手紙が送れることが分かり、早々に手紙を送る
すると門番の者宛ではあるもののかなり早くに返事が来た
無機質な日常に彩りが加えられていく
彼女はいつだって、自分を幸せにしてくれた
月日が経つごとに綺麗になっていく字体
手紙の内容も、
「げんき?わたしげんき。ばいばい」
から
「元気にしてる?ジーク。私は元気よ!あのね、この前はね~………。」
と、だんだん様々な事を教えてくれるようになった
毎回彼女の手紙が送られて来る度に笑顔になる
周りの者は少しでも機嫌が良くなるように届いたら直ぐに持ってきてくれた
彼女と初めて会ったときより表情が硬くなってしまったとは思うが、手紙を読んでいる時だけは穏やかな気持ちでいられた
会いたい
手紙を交わせば交わすほど募る思い
そう思い始めるのは当然だった
だが10年前のある日、突然連絡が途絶えてしまう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まだ7歳だった俺は今まで休んだことの無いレッスンが頭に入ってこなくなり、休息期間が設けられたほど思い詰めた
一応、何度も手紙を送ってみたが彼女からの返信は来なかった
…飽きたのかもな
育ち盛りの少女は、飽きやすいと聞く
別れた時より大きくなったとはいえ、まだ7歳
そう考えるようになったときにはもう、
諦めていた
あの事実を知るまで
「なぁ、聞いたか?」
「あぁ、エピスィミアの件だろ?」
「まさか国王が、村を潰すとはな」
「何か知られたくないことでもあったのか?」
「よく分からないが…村人は全員殺されたらしい」
「山奥にある村なんだろ?」
「あぁ。ジークフリート皇子が熱心に通ってた場所だ」
「なんて名前の村だった?」
「……スキア村」
「皇子?!」
若い騎士達の言葉に答える
「そうなのか…?」
「……はい。そうです、皇子」
目の前が真っ暗になった
殺された
あの少女が
あの少女の母が
あの村人が
俺はその時、唯一の光を失った
その時は、納得がいかなかった
だから、その日から幼ながらに情報をかき集める
だが、思った以上に情報は集まらなかった
だが、今考えれば納得出来る
彼らはスキア
影に生きていた
日に日に、自分の中の何かが冷めていく感覚に陥る
本当は、「夏国の極寒の地」と称されるのは嫌だった
そんなことを言われていることを彼女に知られたくなかった
だが………彼女がいなくなったのならそうならない理由は無い
俺は、私は、その日から感情をほとんど失った
父に他国への侵略を勧めた
元々好戦的な父だ
すぐに納得し、攻撃に移った
ハテサルの軍は強い
すぐに領土は広がり、強大な国として名を馳せるようになっていった
ある程度の年齢になって、その戦いにも参加する
たった数ヶ月しか、会ってない少女
彼女の存在は、大きかった
思い出したら、苦しくてたまらない
ほとんど感情を失ったのにもかかわらず苦しい思いだけは感じる
思い出さないように、大切に保管していた手紙をしまい込む
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だがそんな意味の無い時を過ごしていた、あの日
「殿下、実は…報告したいことが」
いつも通り執務をこなしていた、あの日
「…なんだ」
「実は先程、城内の書類整理を行っていたのですが…」
「…先日、報告があったが」
「はい。それで、1つ気になるものを見つけたのです」
「…?」
そうして、渡されたのは古びた便箋だった
「殿下は、あの御方からの手紙はご自分で管理されているはずです。ですが、こちらはまだ手元に渡っていないもののようでしたので」
そう言われて、目を僅かに見開く
急いで中を確認すると、懐かしい文字が視界に広がった
「そちらの手紙は、9年前に当時の門番へ届けられたものです。おそらく手違いで殿下の元に届かなかったのでしょう」
側近の話を聞きながら、文字を読み進める
「元気にしてるかしら?
しばらくの間、貴方に手紙を送れなくてごめんなさい
でも、怒らないで。ちゃんと理由があるの。
ジークは、ハテサルの貴族だから知ってるかどうかは分からないけど、村が襲われたの
ほとんどの村人は斬られてしまったけど母さんや、友達は無事だわ
でも、襲った奴らはまだ私達を追ってきてる
しばらく、逃げる生活になりそうだから手紙は送れそうにないわ
でも、また必ず会える日が来るわ!
じゃあね、ジーク」
彼女が生きている
今は、どのような状況なのかは分からないが少なくともあの村では殺されていないようだ
……直ぐに動かなければ
彼女が待っているかもしれない
待っていなくとも、もういなくなっていたとしても…………
無念だけは晴らせる
「…陛下に会いにいく」
「どうするおつもりで?」
「……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「陛下、お話がございます」
「どうした、ジークフリート」
「提案したいことが」
「なんだ」
こうして、信頼関係を作っておいて良かった
手間が省ける
「我が国に、エピスィミアの王族を留学生として迎えて下さい」
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