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三章
皇子の気苦労と頼れる兄貴の絶望
しおりを挟む「皆さん定例会で挨拶を聞いたのでもう存知していると思いますが、こちらは隣国のエピスィミアから来てくださったイアン王子です。失礼のないように」
「先生、敬称で言って頂かなくて大丈夫ですよ?どうぞイアンと呼んでください」
廊下出歩いている時もそうだったが、王子呼びを全くやめようとしない
かなり久しい留学生が自分の担当であることに緊張しているのか、その場では承諾するが気づいた時には元に戻っている
レイラがいたらもの凄い顔をするだろう
「あ、そうでしたわ…ついうっかり……………で、ではイアン。クラスメイトに挨拶して頂けますか?」
そう言われて、席に座るクラスメイトに身体を向ける
「イアン=テランス=エピスィミアだ。よろしくな」
「よろしくー」
「よろしくお願い致しますわ」
「よろしく」…
(好印象…かしら?)
生徒達から悪い視線は来ない
(一昨日はやらかしたからな…ここの学生もいたっぽいし、急に態度を変えるのも怪しまれる……。イアンが有名じゃなくて良かったわ)
お腹がすくと暴れてしまうのだ
ハイテンションになってしまう
(気をつけないと…)
隣から聞こえてくる教授の話を聞きながら、今後の動きについて考えていた
(まずは、時間が空いたら実験室に行くべきね)
第3王子イアンは、研究者だ
世界的に有名な訳では無いがそこそこの成果は出している
適度に実験室に行っておいた方が信憑性は湧くだろう
(次に、剣術…は、意外に得意よね…。これは別に気にしなくても何とかなる)
リリアーヌは、暴力を振るうだけあって運動系は大体できる
剣術は、かなり得意な方で自国の将軍ですら彼女に叶わないほどの実力があった
(定期的なテストは、毎回満点取ってかないとダメね)
もちろんだが、イアンは頭がいい
中立の王子以外に天才王子と呼ばれている
リリアーヌとイアンは数ヶ月程しか産まれの時期に差がなく、学年は一緒になるのだ
(満点取らなかったら殺されそう)
偽イアンは、本物イアンの本気の怒りを知っている
落ち着いた王子などと言っている者が多いが、周りにあまり興味が無いだけで気に入らないことがあったら何をしでかすか分からない
(イアンの方がタチが悪いのに)
偽イアン、不満が漏れる
他にも色々最終確認を済ませ、悶々と考え込んでいると隣からようやく声がかかる
「では…貴方の席は…彼の隣ね」
「あ」
「…」
「ジークフリート殿下。よろしくお願い致しますね」
教授が示した方向に目を向けると一昨日会った人物と目が合った
(早速試練がやって来たわ)
なんと言って話しかけるべきだろうか
流石に何も話さないのはまずい
しかも、皇子だったという新事実
先日の件を忘れたなんてことはないだろう
「よろしく、ジークフリート皇子」
とりあえず無難な挨拶からスタートしよう
「…」
「皇子?」
「………」
(耳が遠いのか)
一応ある程度待ってみたが返事はこなかった
「俺、お前のこと嫌いだわ」
こればかりは、本物イアンと同意見だと思う
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ジーク、そんなに睨んでも何も起こりませんよ」
「早速嫌われてるしな」
「そういや、あのバナナ王子と印象全く違ったな!」
「元の性格が一昨日の感じかどうかも分からないですけどね」
「いや、素だろ。あれは」
ハテサルの皇子ジークフリートには主に3人の友人がいる
「彼のこと気に入らないんですか?」
丁寧な口調の友人、オリヴィエ
「ああ、それは俺も気になってた。どうなんだ?ジーク」
頼れる兄貴分、シルヴァン
「拝んでけって言われたことそんな嫌だったのか?」
馬鹿みたいに明るい、リュカ
ジークフリートと大体の行動を共にする者達だ
「…あの件にどうこう思っていない」
「なら、なんでそんな暗いんだよ」
明るい青年が笑顔で真顔の青年の肩を叩く
「いつも通りでは?」
「リュカ、お前は黙ってろ」
数少ない友人達は、休憩時間になると周りに集まって騒ぎだす
何も言わないと余計に突っ込んで来るため適度に話さないといけない
「……あの男が、知り合いに似ていただけだ」
オリヴィエは、皇子の知り合いの顔を思い出す
「あぁ…彼女ですか」
「彼女?まぁ、中性的ではあるけどな」
「女子が騒いでたよ」
(…何故こうも話が脱線していくのか)
友人たちの会話を遠巻きに眺める
ジークフリートは、ベラベラと喋る人物ではないが別に寡黙という訳でもない
少し話すだけで周りにいる友人が反応するため、話すのを最低限にしているだけだった
「夏国の極寒の地」と周りから称されるようになってしまったのも、彼の友人が原因である
周りから怖がられるので自分から話しかけたりはしない
だが、こうして何も話さずに嫌われるパターンは初めてだ
これから先に起こるであろう数々の問題にため息をつく
ジークフリート皇子は、気苦労の多い皇子であった
「そういえば彼の部屋は、シルヴァンの隣でしたね」
「…嘘だろ、おい。」
さっきまで、楽しんでいた青年は一気に絶望した表情になる
「よかったな!楽しそうじゃん!」
「この前、部屋の掃除してたのそういうことだったのかよ」
「…よかったな」
「この前の行動見てどこがいいんだ?」
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