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処刑の話
しおりを挟むハテサルの学園には古くから開かれている図書館がある
ハテサルが帝国になる前からある歴史の深い図書館で、歴代の帝国の貢献者達が学生時代に己を磨き高めた所だ
勿論現在も多くの生徒に愛用されており、夜遅くまで勉強に励んでいる
ある昼下がりーー
この日も多くの生徒が訪れ、午前中に行われた授業の復習をしていた
ほとんど話している生徒がいない館内はとても静かだ
そんな中、図書館に置かれたアンティーク調の机の隅には黒髪の青年?が1人
「………………………………」
手元の本の挿絵にはギロチンにかけられ、今にも首が飛びそうなシーンが描かれている
学生が、留学していた国を冒涜し処刑を言い渡されるという割と有名な物語だ
似たような状況下にある彼女にとっては会心の一撃である
(……………………)
リリアーヌの顔からは表情が一切抜けきっていた
ーーー
数刻前…
午後からの授業が急遽中止になり、リリアーヌは何をしようか悩んでいた
これといって大きなテストがある訳でもない
同室のシルヴァンは出かけていて話す相手もいない
だからといって部屋に篭って勉強をする必要はあまり無かった
結局、暇になることが嫌いな彼女は多くの講堂が集まる建物の長い廊下をただひたすら徘徊することにした
「あれ、イアン。こんなところでどうしたの?」
突然後ろから声がかかり、ぼんやりとしていたリリアーヌが目を僅かに見開く
「……………………変人」
「うーんと……なんで僕は出会って早々に悪口を言われてるのかな?」
爽やかな笑顔とともに笑い声が廊下に響く
「………変人同好会の会長なんだからあながち変人で間違ってないだろ」
「内容はどうであれ、認識してくれていたみたいで嬉しいよ」
変人同好会改め、魔法同好会のまとめ役であるハイトは微笑む
「イアンはどこに行くつもりなんだ?もしかして講堂に向かってる?」
そう尋ねられて首を横に振る
「いや、今日の午後は休み」
「じゃあなんでここにいるんだ?部屋でゆっくり休めばいいのに」
「暇だから」
これ以外の理由がない
じっとしていることなど出来ないのだ
「ふむ、成程。なら提案してあげよう。君の暇な時間を埋める方法」
「……………出会い頭に会った奴全員を殴り飛ばすとか?」
「うん、ダメだよね」
爽やかな笑顔だ
リリアーヌも負けないくらいの笑顔を作る
「大丈夫だ。サボってそうな奴だけにするから」
「そういう問題ではないよね」
またもや笑顔で返された
「そんなに暇が嫌なら図書館に行ったらどうかな?あそこは広いし、結構面白い本もある。巷で流行っているものもあるみたいだよ」
「図書館か…………」
(思っきり勉強じゃないの)
期待外れの提案を受け、顔を顰める
「ちなみに僕のおすすめはデッド・ヒートっていう歴史を題材にした物語シリーズで」
「聞いてない」
ーーー
提案を受けたあと部屋に戻ってみたものの、やはりつまらないということで結局図書館に行くことにした
「デッド・ヒートのシリーズは何処に置いてあるか分かりますか?」
受付に座っていた女性に声をかけ、本の置いてある場所を尋ねる
案内された本棚から何冊かを取りだし、机に持ってきて暫く読んでいた訳だが…
(…………………)
(………………………………)
(……………………………………………)
(………ギロチン?ギロチン?……ギロチ…ギロ…ギロギロギロギロギロ…………)
頭の中で唱えると妙にエコーがかかって鳴り響く
(これってまさか私の未来を語ってるの?)
なんとなくかっこ良さげなタイトルだったのでつい気になってしまったのだ
そしてあわよくば戦闘シーンなどが書かれていたら、それを実践してみようかとも思っていた
初めは良かった
何も持っていない路地裏に住む主人公が貴族に声をかけられ、隣国に留学し楽しそうに学校生活を送っていた
途中には友情を深めるため拳を突き合わせるシーンもあって、
リリアーヌはワクワクしながら読み進めていったのだ
さっきまで、ワクワクだった
なのに急に死んだ
友人に呼び出されて何事かと行った先にはギロチン台
こんな恐怖があっていいのだろうか
(何故か似たような未来が見えるのは気のせいかしら)
貴重な時間をとんでもないものに使ってしまった
「はぁ…」
本をパタリと閉め、しばしの間呆然とする
(私もこんな風に…………なんて)
「はぁ………」
「………溜息をつく必要があったか?」
「?!」
突然後ろから底冷えするような冷たい声がかかり、身体が反応する
「………『デッド・ヒート』か」
意外な人物の来訪に固まっているリリアーヌを横目に、彼女が手にしている本に視線を向ける
「…………あまり好きではないが。ハテサル問わず有名な作品だったか」
(…あれ、皇子、好きじゃないの?)
予想外のコメントに驚いた
『ギロチン』なんて言葉、この目の前の男がよく使いそうなワードだ
(何なら作者と気が合うんじゃないかしら)
王女はそんなことを考える
「………ギロチンで一思いに処刑するよりも、手足を切り刻み、髪を毟り、腹を抉り、人々に踏みつけられた方が良かったと思うが」
「…無いわ」
自分がそうなる未来が見えてしまった
(いや、怖すぎでしょ?!)
リリアーヌは今、人の心と痛みが分かる王女になっていた
「ありえない。俺は反対する。そんなことするくらいなら、せめてギロチンで勘弁してやってくれ!!!!!」
「…………」
「なんだよ、まだ分からないのか???皇子のその広い心で許してくれ!!!!」
「…………………?」
今リリアーヌはジークフリートの今後の処刑の仕方に大きく関わってくる局面に居合わせているのだ
逃す訳にはいかない
今のうちに考えを固めてもらおうという魂胆だ
「なんならもう解放して、自由にしてやれよ!!!!!」
「……どうした」
突然叫び出した留学生にただひたすらについていけない皇子
「あの変人会長の言うことなんか聞かなければこんな辛い思いをしなくても良かったってのに!」
「………………『デッド・ヒート』の話だろう?主人公の殺され方について話しているのではないのか?」
「ん?どういうことだ?」
両者の間に沈黙が生まれる
「....……………主人公は拾ってくれた貴族に情報を横流ししていただろう?その貴族…主人公が住んでいた国はその情報で弱みを握り、滅亡させようとしていたのだから殺されるのは当然と言える」
「………まあ」
「…………留学先の友人をも騙していたのならば、かの国の失望は大きなものだっただろう。一思いに処刑されたのは幸運と言える」
「……………………」
「……………………友人はずっと相談にのってやれなかったことを後悔していたのだからむしろ恵まれているだろう」
「…………………………………」
「…………主人公もまた____……__」
(めっちゃ好きじゃん)
リリアーヌの頭の中はジークフリートの感想でいっぱいになった
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