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7.元聖女は辺境の地を訪れました。
168.
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食事の後片付けを手伝ってから、私はテントの外に出て、転がっている大き目な石に腰掛けた。すっかり真っ暗になった草原に、羊やヤギが集まって丸まって寝ている。6匹の犬は、その周りを見回りするようにぐるぐる巡回していた。
働きものですね。
感心しながら目を閉じると、街にいる時よりもずっと賑やかな精霊の立てる音が耳に聞こえた。ひゅーひゅーする、風の精霊の音が一番大きく聞こえるけど、その中に聞いたことのない音も混ざっていた。
「いろいろな音がするだろう」
急な人の声に驚いて振り返ると、エドラさんが長い杖を握って立っていた。よいしょ、と私の横に腰掛けたエドラさんは、杖に向かって何か呟いた。
ひゅんっと風切り音がして、杖の端が手のひらに乗るぐらいの大きさで切れた。
「これをやろう」
エドラさんはそう言って、その切れた杖の切り端を私に渡した。
「……くれるんですか? 杖??」
わけがわからず首を傾げると、エドラさんは言葉を続ける。
「魔法使いは師から杖の端をもらって、杖を育てる。この杖は生きている。基本の5属性、火水風土、生命の精霊の力をバランスよく与えると成長する」
「生きてるんですか、これ」
私はしげしげと、そのくすんだ緑色の蔦が絡んだ棒を眺めた。
「うまく杖を育てるのは精霊の力を操る練習にもなるだろう。今日からやってみると良い」
そういえば、魔法を教えてくれるって言ってましたもんね。
私はその杖をぎゅっと握った。
「ありがとうございます」
***
翌日、私たちはその辺境民の家族に別れを告げて、さらに北に向かって出発した。
北上していくと、ぽつりぽつりと、茶色っぽい丸いテントが草原に増えてきた。
「野宿はしなくて良さそうですね」
私はステファンにそう話しかけた。
屋根のあるところできちんと寝れるっていうのは、やっぱり嬉しい。
「そうだね。――でも、こんなに、南の方に辺境民が来てるなんて。北が相当荒れてるんだろうな」
ステファンは頷きながら、顔色を曇らせた。
テントに泊めてもらいながら移動して4日めくらい。馬車を止めて一休み夕に、ちょっと高い丘があったので登ってみると遠くが見渡せた。石積みの壁の向こうに、まとまった数の建物や畑が見えて、その後ろには山がある。
「あそこがうちだよ」
目を凝らしていると、いつの間にか横に来ていたステファンが言った。
「遠かったですね……」
アスガルドをいったん出てからもう5日ちょっと経っている。
「アスガルドの一番端だからね。食事は美味しいけど、それ以外何にもないところだよ。お店なんかもあんまりないし」
ステファンは苦笑しながら呟いた。
「ご飯が美味しいのが一番大事ですよ!」
私は思わず声を大きくした。道中、辺境民の人たちにご馳走になった食事……どれもお肉の煮込みだったけど……は、本当にどれも美味しくてびっくりしました。精霊の力が強い草を食べて育ったかららしいですけど、柔らかさや味わいが全然違うんですよね。
「レイラは本当に食べるのが好きだよね」
ステファンは笑うと、私が手に握っているエドラさんからもらった杖の一部を見て首を傾げた。
「あれ、それそんなに真っ黒だったっけ?」
杖は、伸びるどころか炭みたいに真っ黒な色に変わってしまっていた。
移動中、することもないので、エドラさんに教えられるまま、精霊を通して杖に魔力を送るっていうのを繰り返してたんですけど……。
「私、やっぱり火の力が強いみたいで、その影響でこんなふうになっちゃったみたいです」
火の魔力ばっかり与えていた影響で黒くなってしまったらしい。
うなだれた私の肩をステファンが励ますように叩いた。
「気にすることないよ。そんな数日でうまくできる人なんかいないよ」
「……がんばります!」
ぐっと拳を握ると、ステファンは「さて」と呟いた。
「今日はあのあたりのテントに泊めてもらって、明日領地に入ろうか」
丘のふもとには、いくつもテントが集まっていた。
近くには小川も流れてるからか、この周辺にはたくさん人がいるみたい。
私たちは、その中のテントの一つに泊めてもらうことになった。
夕食をご馳走になった後、布団を床に広げて寝る。
この辺境民の人たちのテントで寝るのも5日目になるけど、本当に寝心地が良い。
外は夜寒いけど、テントの中はぬくぬくしてるし……。
あっという間に瞼が重くなってくる……。
意識が深い眠りの中に落ちていこうとしたその時、きゃぁぁぁという叫び声とともに、どさりとテントの壁か天井が私の上に振って来た。
働きものですね。
感心しながら目を閉じると、街にいる時よりもずっと賑やかな精霊の立てる音が耳に聞こえた。ひゅーひゅーする、風の精霊の音が一番大きく聞こえるけど、その中に聞いたことのない音も混ざっていた。
「いろいろな音がするだろう」
急な人の声に驚いて振り返ると、エドラさんが長い杖を握って立っていた。よいしょ、と私の横に腰掛けたエドラさんは、杖に向かって何か呟いた。
ひゅんっと風切り音がして、杖の端が手のひらに乗るぐらいの大きさで切れた。
「これをやろう」
エドラさんはそう言って、その切れた杖の切り端を私に渡した。
「……くれるんですか? 杖??」
わけがわからず首を傾げると、エドラさんは言葉を続ける。
「魔法使いは師から杖の端をもらって、杖を育てる。この杖は生きている。基本の5属性、火水風土、生命の精霊の力をバランスよく与えると成長する」
「生きてるんですか、これ」
私はしげしげと、そのくすんだ緑色の蔦が絡んだ棒を眺めた。
「うまく杖を育てるのは精霊の力を操る練習にもなるだろう。今日からやってみると良い」
そういえば、魔法を教えてくれるって言ってましたもんね。
私はその杖をぎゅっと握った。
「ありがとうございます」
***
翌日、私たちはその辺境民の家族に別れを告げて、さらに北に向かって出発した。
北上していくと、ぽつりぽつりと、茶色っぽい丸いテントが草原に増えてきた。
「野宿はしなくて良さそうですね」
私はステファンにそう話しかけた。
屋根のあるところできちんと寝れるっていうのは、やっぱり嬉しい。
「そうだね。――でも、こんなに、南の方に辺境民が来てるなんて。北が相当荒れてるんだろうな」
ステファンは頷きながら、顔色を曇らせた。
テントに泊めてもらいながら移動して4日めくらい。馬車を止めて一休み夕に、ちょっと高い丘があったので登ってみると遠くが見渡せた。石積みの壁の向こうに、まとまった数の建物や畑が見えて、その後ろには山がある。
「あそこがうちだよ」
目を凝らしていると、いつの間にか横に来ていたステファンが言った。
「遠かったですね……」
アスガルドをいったん出てからもう5日ちょっと経っている。
「アスガルドの一番端だからね。食事は美味しいけど、それ以外何にもないところだよ。お店なんかもあんまりないし」
ステファンは苦笑しながら呟いた。
「ご飯が美味しいのが一番大事ですよ!」
私は思わず声を大きくした。道中、辺境民の人たちにご馳走になった食事……どれもお肉の煮込みだったけど……は、本当にどれも美味しくてびっくりしました。精霊の力が強い草を食べて育ったかららしいですけど、柔らかさや味わいが全然違うんですよね。
「レイラは本当に食べるのが好きだよね」
ステファンは笑うと、私が手に握っているエドラさんからもらった杖の一部を見て首を傾げた。
「あれ、それそんなに真っ黒だったっけ?」
杖は、伸びるどころか炭みたいに真っ黒な色に変わってしまっていた。
移動中、することもないので、エドラさんに教えられるまま、精霊を通して杖に魔力を送るっていうのを繰り返してたんですけど……。
「私、やっぱり火の力が強いみたいで、その影響でこんなふうになっちゃったみたいです」
火の魔力ばっかり与えていた影響で黒くなってしまったらしい。
うなだれた私の肩をステファンが励ますように叩いた。
「気にすることないよ。そんな数日でうまくできる人なんかいないよ」
「……がんばります!」
ぐっと拳を握ると、ステファンは「さて」と呟いた。
「今日はあのあたりのテントに泊めてもらって、明日領地に入ろうか」
丘のふもとには、いくつもテントが集まっていた。
近くには小川も流れてるからか、この周辺にはたくさん人がいるみたい。
私たちは、その中のテントの一つに泊めてもらうことになった。
夕食をご馳走になった後、布団を床に広げて寝る。
この辺境民の人たちのテントで寝るのも5日目になるけど、本当に寝心地が良い。
外は夜寒いけど、テントの中はぬくぬくしてるし……。
あっという間に瞼が重くなってくる……。
意識が深い眠りの中に落ちていこうとしたその時、きゃぁぁぁという叫び声とともに、どさりとテントの壁か天井が私の上に振って来た。
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