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6.元聖女は魔法都市でエルフに会いました。
155.
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「200歳……」
想像できない年齢で、私は復唱してしまった。
「お前は、何歳だ」
「16歳……ということになっています」
自信がない言い方になってしまう。
……もう自分が何だかわからないですもん。
「もう少し上に見えるが……どちらにせよ、まだ本当にほんの子どもだな」
「私も、エドラさんと同じくらい長生きなんですか?」
「――わからない。お前はエルフの血は混ざっているようだが――。魔族の方が、寿命が短いと聞く」
「そうなんですか?」
「食べ物の違いだろうか。エルフはほとんど食事をしなくても生きていける。身体が精霊に近い存在だ。――私も人間に混ざって生活し、食事をしていたせいか、年齢よりも老けた気がする」
「それで老けたんですか!?」
思わず大きい声で聞き返してしまった。
だってエドラさんはどう見てもステファンと同じくらいにしか見えない。
「里にいる者よりは、老けていると思う」
「その、エルフは何歳くらいまで生きるんですか……?」
「人間の世界の1年でいうなら、800年くらいだろうか」
「はっぴゃく……」
目をぱちぱちとする私をエドラさんは興味深そうに見て呟いた。
「本当に何も知らないのだな」
「――エドラさんは、どうしてエルフの里から外に出てきたんですか?」
「……美味い食事が食べたかったからだ」
「もとから、里の暮らしが窮屈に感じて……外の人間の世界に興味があった私は、里をよく抜け出していた。里がある辺境は魔物が多く、人間が来ることはあまりないが――、辺境民が迷い込んで魔物に襲われていたことがあってな。助けてやったら、お礼にと食事を作ってくれた。魔物の肉を焼いたものだったが、これが臭いんだが癖になる味だったんだ」
遠い目をするエドラさんから視線を机のお皿に盛られたお花に移動させて、私は首を傾げた。
「でも……エドラさんお肉食べるんですか?」
「……むしろ、好んで食べていた。少ししか食べられないがな。臭みや苦い味が癖になってな」
エドラさんは大きくため息を吐いた。
「しかし、肉を食べるのは里では禁忌。辺境民と食事をしたことがバレた私は、罰に処された。といっても、数年ほど里で皆の食料となる花を育てる役目をやらされただけだが。しかしあの食事の味が忘れられなかった私は、里を出た」
「今は食べないんですか……お肉?」
『食べていた』って過去形なのが気になって、私は聞いた。
それが理由でエルフの里を出るくらい好きなのに……何で今は食べてないんだろう。
エドラさんはまたため息を吐いてから話し出す。
「――――里に戻ろうと思ってな。こちらの食事をし過ぎたせいで、今のまま帰っても、里には入れてもらえんだろうから、身体を元に戻さねばならん」
「戻るんですか、出てきたのに、何で……」
せっかく自由に好きなもの食べれるところに出てきたのに、何で戻るんだろう。
「――お前には、まだわからんだろうな。生きる時間の違う者たちのところで暮らすのは、なかなか難しい。いつの間にか友人も、誰も彼もみんな老いて死んでしまう」
エドラさんは遠い目をして呟くと、私に笑いかけた。
「ただお前は、人間の食事にも馴染んでいるようだし、私たちよりも時間の流れが人間に近いのかもしれん。――私がお前に、どこかに潜んで暮らしたほうがお前の身のためだろうと言ったのは、エルフの里に近づいても、良いことはないからだ。あそこは閉鎖的で、外の者を受け付けない。お前は、このままこちらで暮らしていた方が幸せだろう。言い方がきつくなってしまったのは悪かったな」
この人はこの人なりに私のこと考えてくれたんでしょうかね、これは。
でも……。
私はエドラさんを見つめてはっきり言った。
「でも、私は、エルフの里に行きますよ」
想像できない年齢で、私は復唱してしまった。
「お前は、何歳だ」
「16歳……ということになっています」
自信がない言い方になってしまう。
……もう自分が何だかわからないですもん。
「もう少し上に見えるが……どちらにせよ、まだ本当にほんの子どもだな」
「私も、エドラさんと同じくらい長生きなんですか?」
「――わからない。お前はエルフの血は混ざっているようだが――。魔族の方が、寿命が短いと聞く」
「そうなんですか?」
「食べ物の違いだろうか。エルフはほとんど食事をしなくても生きていける。身体が精霊に近い存在だ。――私も人間に混ざって生活し、食事をしていたせいか、年齢よりも老けた気がする」
「それで老けたんですか!?」
思わず大きい声で聞き返してしまった。
だってエドラさんはどう見てもステファンと同じくらいにしか見えない。
「里にいる者よりは、老けていると思う」
「その、エルフは何歳くらいまで生きるんですか……?」
「人間の世界の1年でいうなら、800年くらいだろうか」
「はっぴゃく……」
目をぱちぱちとする私をエドラさんは興味深そうに見て呟いた。
「本当に何も知らないのだな」
「――エドラさんは、どうしてエルフの里から外に出てきたんですか?」
「……美味い食事が食べたかったからだ」
「もとから、里の暮らしが窮屈に感じて……外の人間の世界に興味があった私は、里をよく抜け出していた。里がある辺境は魔物が多く、人間が来ることはあまりないが――、辺境民が迷い込んで魔物に襲われていたことがあってな。助けてやったら、お礼にと食事を作ってくれた。魔物の肉を焼いたものだったが、これが臭いんだが癖になる味だったんだ」
遠い目をするエドラさんから視線を机のお皿に盛られたお花に移動させて、私は首を傾げた。
「でも……エドラさんお肉食べるんですか?」
「……むしろ、好んで食べていた。少ししか食べられないがな。臭みや苦い味が癖になってな」
エドラさんは大きくため息を吐いた。
「しかし、肉を食べるのは里では禁忌。辺境民と食事をしたことがバレた私は、罰に処された。といっても、数年ほど里で皆の食料となる花を育てる役目をやらされただけだが。しかしあの食事の味が忘れられなかった私は、里を出た」
「今は食べないんですか……お肉?」
『食べていた』って過去形なのが気になって、私は聞いた。
それが理由でエルフの里を出るくらい好きなのに……何で今は食べてないんだろう。
エドラさんはまたため息を吐いてから話し出す。
「――――里に戻ろうと思ってな。こちらの食事をし過ぎたせいで、今のまま帰っても、里には入れてもらえんだろうから、身体を元に戻さねばならん」
「戻るんですか、出てきたのに、何で……」
せっかく自由に好きなもの食べれるところに出てきたのに、何で戻るんだろう。
「――お前には、まだわからんだろうな。生きる時間の違う者たちのところで暮らすのは、なかなか難しい。いつの間にか友人も、誰も彼もみんな老いて死んでしまう」
エドラさんは遠い目をして呟くと、私に笑いかけた。
「ただお前は、人間の食事にも馴染んでいるようだし、私たちよりも時間の流れが人間に近いのかもしれん。――私がお前に、どこかに潜んで暮らしたほうがお前の身のためだろうと言ったのは、エルフの里に近づいても、良いことはないからだ。あそこは閉鎖的で、外の者を受け付けない。お前は、このままこちらで暮らしていた方が幸せだろう。言い方がきつくなってしまったのは悪かったな」
この人はこの人なりに私のこと考えてくれたんでしょうかね、これは。
でも……。
私はエドラさんを見つめてはっきり言った。
「でも、私は、エルフの里に行きますよ」
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