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3.元聖女は冒険者として仕事をします。
73.(そのころキアーラ王国王都にて)
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「エイダン様……、本気でご自身でそんな危ない場所に行くのですか?」
王宮内にて、甲冑を身に着けたエイダンの手を握って公爵令嬢のハンナは瞳を潤ませた。
「兵士たちに不満が溜まっているようだからな。次期国王として、僕が直接先頭に立つ必要があるだろう」
「――やっぱり、あのレイラって子を追い出したのがまずかったんでしょうか……」
エイダンは愛し気にハンナの金髪の巻き毛を指で撫でると彼女にキスをした。
「ハンナ、可愛い君が気にするようなことは何もないよ。あのガキはお前に嫌がらせをしてたんだろう。大司教の手先の分際で、未来の王妃である君を傷つけるようなことをするやつなんて、追い出して正解だ。そんなやつが1人いなくなっただけで、今までのようにできなくなる教会が悪いんだ」
「そ……それ」
いつもキスすると、ほのかに赤く染まるはずのハンナの顔は、今、青くなっていた。
「それ、嘘なんです」
「……嘘?」
「……嫌がらせは、されてません」
「……だって、君は言ったじゃないか、あいつに階段から突き落とされたりしたって……」
「……してません。……何にもされてません」
「……え?」
エイダンは硬直して、目をぱちぱちと閉じたり開いたりした。しばらくそうしてから、ようやく口を開く。
「どうして……そんな嘘を……」
「だって、だって、あなたの婚約者の座をあんな子に奪われて私、すごく悔しくて! 婚約破棄を突きつけてやったら悔しがるかと思ったのに! 「わかりました」ってあっさり言われて、すごくイラってきちゃったんですっ」
ハンナは泣きながら喚いた。
「それに、貴方は私の言うことならなんでも信じてくれるから、そう言えば、あの子を追い出してくれるって思って……だって、あの子、とっても可愛いんだもの! あと数年も経ったら、あなたはやっぱりあの子が欲しくなるかもしれないわ。男の人って結局、女を顔で選ぶじゃない! 私のお父様だって何人愛人を作ってることやら!!」
髪を振り乱してハンナは大声を上げた。
「こんなことになるなんて思わなかったのっ。ねえ、私を置いていかないでくださいっ。きっと私もあなたの直属の兵士たちみたいに、そのうち襲われちゃうわ……!」
エイダンは彼女を抱きしめ、乱れた髪をゆっくり指で梳いて整える。
「ハンナ――6歳の時、君に出会ってから、僕は君一筋なのに、どうしてそんなことを考えたんだ――。いくらなんでも、公爵令嬢の君に暴力をふるうようなことはないだろうけど――、君は外に出ずに、しばらく屋敷でじっとしていてくれ――」
そして拳を握って叫んだ。
「僕は国王になるのだから、行かないといけない。あのクソジジイは僕だけを悪者にするつもりだろう。このままあいつの思うとおりにさせてたまるか!」
ハンナはそんなエイダンを見つめ、頬を赤らめると「わかりました」と呟いた。
しかし、二人はそのとき、玉座の間では国王と大司教が自分たちについて話し込んでいるとは思いもよらなかった。
「陛下、兵舎内で兵士同士の暴力事件が起こる程、兵士を中心に王太子様への不満が溜まっておりますぞ。――早く王太子様への処罰をお考え下さい」
「うぅむ……」
「陛下にはまだ男のお子様がいらっしゃる。――弟君を王太子とし、エイダン様を廃嫡された方がよろしいかと。そして、レイラを弟君の婚約者にするのです。あれは隣国のマルコフ王国で暮らしています。そろそろ自分の居場所は神殿にしかないと理解してくるところでしょう。あの子を取り戻せば、現在問題になっている魔物騒ぎは治まります」
「――その娘をどうやって取り戻す?」
「エイダン様と、親の正式な取り決めもなく自ら王太子の婚約者と名乗っている――生意気な公爵家のハンナ様に謝罪させてください。手はずは私めが整えます故……、陛下はただ――賢明なご判断を」
王宮内にて、甲冑を身に着けたエイダンの手を握って公爵令嬢のハンナは瞳を潤ませた。
「兵士たちに不満が溜まっているようだからな。次期国王として、僕が直接先頭に立つ必要があるだろう」
「――やっぱり、あのレイラって子を追い出したのがまずかったんでしょうか……」
エイダンは愛し気にハンナの金髪の巻き毛を指で撫でると彼女にキスをした。
「ハンナ、可愛い君が気にするようなことは何もないよ。あのガキはお前に嫌がらせをしてたんだろう。大司教の手先の分際で、未来の王妃である君を傷つけるようなことをするやつなんて、追い出して正解だ。そんなやつが1人いなくなっただけで、今までのようにできなくなる教会が悪いんだ」
「そ……それ」
いつもキスすると、ほのかに赤く染まるはずのハンナの顔は、今、青くなっていた。
「それ、嘘なんです」
「……嘘?」
「……嫌がらせは、されてません」
「……だって、君は言ったじゃないか、あいつに階段から突き落とされたりしたって……」
「……してません。……何にもされてません」
「……え?」
エイダンは硬直して、目をぱちぱちと閉じたり開いたりした。しばらくそうしてから、ようやく口を開く。
「どうして……そんな嘘を……」
「だって、だって、あなたの婚約者の座をあんな子に奪われて私、すごく悔しくて! 婚約破棄を突きつけてやったら悔しがるかと思ったのに! 「わかりました」ってあっさり言われて、すごくイラってきちゃったんですっ」
ハンナは泣きながら喚いた。
「それに、貴方は私の言うことならなんでも信じてくれるから、そう言えば、あの子を追い出してくれるって思って……だって、あの子、とっても可愛いんだもの! あと数年も経ったら、あなたはやっぱりあの子が欲しくなるかもしれないわ。男の人って結局、女を顔で選ぶじゃない! 私のお父様だって何人愛人を作ってることやら!!」
髪を振り乱してハンナは大声を上げた。
「こんなことになるなんて思わなかったのっ。ねえ、私を置いていかないでくださいっ。きっと私もあなたの直属の兵士たちみたいに、そのうち襲われちゃうわ……!」
エイダンは彼女を抱きしめ、乱れた髪をゆっくり指で梳いて整える。
「ハンナ――6歳の時、君に出会ってから、僕は君一筋なのに、どうしてそんなことを考えたんだ――。いくらなんでも、公爵令嬢の君に暴力をふるうようなことはないだろうけど――、君は外に出ずに、しばらく屋敷でじっとしていてくれ――」
そして拳を握って叫んだ。
「僕は国王になるのだから、行かないといけない。あのクソジジイは僕だけを悪者にするつもりだろう。このままあいつの思うとおりにさせてたまるか!」
ハンナはそんなエイダンを見つめ、頬を赤らめると「わかりました」と呟いた。
しかし、二人はそのとき、玉座の間では国王と大司教が自分たちについて話し込んでいるとは思いもよらなかった。
「陛下、兵舎内で兵士同士の暴力事件が起こる程、兵士を中心に王太子様への不満が溜まっておりますぞ。――早く王太子様への処罰をお考え下さい」
「うぅむ……」
「陛下にはまだ男のお子様がいらっしゃる。――弟君を王太子とし、エイダン様を廃嫡された方がよろしいかと。そして、レイラを弟君の婚約者にするのです。あれは隣国のマルコフ王国で暮らしています。そろそろ自分の居場所は神殿にしかないと理解してくるところでしょう。あの子を取り戻せば、現在問題になっている魔物騒ぎは治まります」
「――その娘をどうやって取り戻す?」
「エイダン様と、親の正式な取り決めもなく自ら王太子の婚約者と名乗っている――生意気な公爵家のハンナ様に謝罪させてください。手はずは私めが整えます故……、陛下はただ――賢明なご判断を」
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