75 / 217
3.元聖女は冒険者として仕事をします。
73.(そのころキアーラ王国王都にて)
しおりを挟む
「エイダン様……、本気でご自身でそんな危ない場所に行くのですか?」
王宮内にて、甲冑を身に着けたエイダンの手を握って公爵令嬢のハンナは瞳を潤ませた。
「兵士たちに不満が溜まっているようだからな。次期国王として、僕が直接先頭に立つ必要があるだろう」
「――やっぱり、あのレイラって子を追い出したのがまずかったんでしょうか……」
エイダンは愛し気にハンナの金髪の巻き毛を指で撫でると彼女にキスをした。
「ハンナ、可愛い君が気にするようなことは何もないよ。あのガキはお前に嫌がらせをしてたんだろう。大司教の手先の分際で、未来の王妃である君を傷つけるようなことをするやつなんて、追い出して正解だ。そんなやつが1人いなくなっただけで、今までのようにできなくなる教会が悪いんだ」
「そ……それ」
いつもキスすると、ほのかに赤く染まるはずのハンナの顔は、今、青くなっていた。
「それ、嘘なんです」
「……嘘?」
「……嫌がらせは、されてません」
「……だって、君は言ったじゃないか、あいつに階段から突き落とされたりしたって……」
「……してません。……何にもされてません」
「……え?」
エイダンは硬直して、目をぱちぱちと閉じたり開いたりした。しばらくそうしてから、ようやく口を開く。
「どうして……そんな嘘を……」
「だって、だって、あなたの婚約者の座をあんな子に奪われて私、すごく悔しくて! 婚約破棄を突きつけてやったら悔しがるかと思ったのに! 「わかりました」ってあっさり言われて、すごくイラってきちゃったんですっ」
ハンナは泣きながら喚いた。
「それに、貴方は私の言うことならなんでも信じてくれるから、そう言えば、あの子を追い出してくれるって思って……だって、あの子、とっても可愛いんだもの! あと数年も経ったら、あなたはやっぱりあの子が欲しくなるかもしれないわ。男の人って結局、女を顔で選ぶじゃない! 私のお父様だって何人愛人を作ってることやら!!」
髪を振り乱してハンナは大声を上げた。
「こんなことになるなんて思わなかったのっ。ねえ、私を置いていかないでくださいっ。きっと私もあなたの直属の兵士たちみたいに、そのうち襲われちゃうわ……!」
エイダンは彼女を抱きしめ、乱れた髪をゆっくり指で梳いて整える。
「ハンナ――6歳の時、君に出会ってから、僕は君一筋なのに、どうしてそんなことを考えたんだ――。いくらなんでも、公爵令嬢の君に暴力をふるうようなことはないだろうけど――、君は外に出ずに、しばらく屋敷でじっとしていてくれ――」
そして拳を握って叫んだ。
「僕は国王になるのだから、行かないといけない。あのクソジジイは僕だけを悪者にするつもりだろう。このままあいつの思うとおりにさせてたまるか!」
ハンナはそんなエイダンを見つめ、頬を赤らめると「わかりました」と呟いた。
しかし、二人はそのとき、玉座の間では国王と大司教が自分たちについて話し込んでいるとは思いもよらなかった。
「陛下、兵舎内で兵士同士の暴力事件が起こる程、兵士を中心に王太子様への不満が溜まっておりますぞ。――早く王太子様への処罰をお考え下さい」
「うぅむ……」
「陛下にはまだ男のお子様がいらっしゃる。――弟君を王太子とし、エイダン様を廃嫡された方がよろしいかと。そして、レイラを弟君の婚約者にするのです。あれは隣国のマルコフ王国で暮らしています。そろそろ自分の居場所は神殿にしかないと理解してくるところでしょう。あの子を取り戻せば、現在問題になっている魔物騒ぎは治まります」
「――その娘をどうやって取り戻す?」
「エイダン様と、親の正式な取り決めもなく自ら王太子の婚約者と名乗っている――生意気な公爵家のハンナ様に謝罪させてください。手はずは私めが整えます故……、陛下はただ――賢明なご判断を」
王宮内にて、甲冑を身に着けたエイダンの手を握って公爵令嬢のハンナは瞳を潤ませた。
「兵士たちに不満が溜まっているようだからな。次期国王として、僕が直接先頭に立つ必要があるだろう」
「――やっぱり、あのレイラって子を追い出したのがまずかったんでしょうか……」
エイダンは愛し気にハンナの金髪の巻き毛を指で撫でると彼女にキスをした。
「ハンナ、可愛い君が気にするようなことは何もないよ。あのガキはお前に嫌がらせをしてたんだろう。大司教の手先の分際で、未来の王妃である君を傷つけるようなことをするやつなんて、追い出して正解だ。そんなやつが1人いなくなっただけで、今までのようにできなくなる教会が悪いんだ」
「そ……それ」
いつもキスすると、ほのかに赤く染まるはずのハンナの顔は、今、青くなっていた。
「それ、嘘なんです」
「……嘘?」
「……嫌がらせは、されてません」
「……だって、君は言ったじゃないか、あいつに階段から突き落とされたりしたって……」
「……してません。……何にもされてません」
「……え?」
エイダンは硬直して、目をぱちぱちと閉じたり開いたりした。しばらくそうしてから、ようやく口を開く。
「どうして……そんな嘘を……」
「だって、だって、あなたの婚約者の座をあんな子に奪われて私、すごく悔しくて! 婚約破棄を突きつけてやったら悔しがるかと思ったのに! 「わかりました」ってあっさり言われて、すごくイラってきちゃったんですっ」
ハンナは泣きながら喚いた。
「それに、貴方は私の言うことならなんでも信じてくれるから、そう言えば、あの子を追い出してくれるって思って……だって、あの子、とっても可愛いんだもの! あと数年も経ったら、あなたはやっぱりあの子が欲しくなるかもしれないわ。男の人って結局、女を顔で選ぶじゃない! 私のお父様だって何人愛人を作ってることやら!!」
髪を振り乱してハンナは大声を上げた。
「こんなことになるなんて思わなかったのっ。ねえ、私を置いていかないでくださいっ。きっと私もあなたの直属の兵士たちみたいに、そのうち襲われちゃうわ……!」
エイダンは彼女を抱きしめ、乱れた髪をゆっくり指で梳いて整える。
「ハンナ――6歳の時、君に出会ってから、僕は君一筋なのに、どうしてそんなことを考えたんだ――。いくらなんでも、公爵令嬢の君に暴力をふるうようなことはないだろうけど――、君は外に出ずに、しばらく屋敷でじっとしていてくれ――」
そして拳を握って叫んだ。
「僕は国王になるのだから、行かないといけない。あのクソジジイは僕だけを悪者にするつもりだろう。このままあいつの思うとおりにさせてたまるか!」
ハンナはそんなエイダンを見つめ、頬を赤らめると「わかりました」と呟いた。
しかし、二人はそのとき、玉座の間では国王と大司教が自分たちについて話し込んでいるとは思いもよらなかった。
「陛下、兵舎内で兵士同士の暴力事件が起こる程、兵士を中心に王太子様への不満が溜まっておりますぞ。――早く王太子様への処罰をお考え下さい」
「うぅむ……」
「陛下にはまだ男のお子様がいらっしゃる。――弟君を王太子とし、エイダン様を廃嫡された方がよろしいかと。そして、レイラを弟君の婚約者にするのです。あれは隣国のマルコフ王国で暮らしています。そろそろ自分の居場所は神殿にしかないと理解してくるところでしょう。あの子を取り戻せば、現在問題になっている魔物騒ぎは治まります」
「――その娘をどうやって取り戻す?」
「エイダン様と、親の正式な取り決めもなく自ら王太子の婚約者と名乗っている――生意気な公爵家のハンナ様に謝罪させてください。手はずは私めが整えます故……、陛下はただ――賢明なご判断を」
3
お気に入りに追加
3,603
あなたにおすすめの小説
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!
向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。
話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。
シャルロット……よくやってくれたわ!
貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。
これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。
聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ!
……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
もふもふ精霊騎士団のトリマーになりました
深凪雪花
ファンタジー
トリマーとして働く貧乏伯爵令嬢レジーナは、ある日仕事をクビになる。意気消沈して帰宅すると、しかし精霊騎士である兄のクリフから精霊騎士団の専属トリマーにならないかという誘いの手紙が届いていて、引き受けることに。
レジーナが配属されたのは、八つある隊のうちの八虹隊という五人が所属する隊。しかし、八虹隊というのは実はまだ精霊と契約を結べずにいる、いわゆる落ちこぼれ精霊騎士が集められた隊で……?
個性豊かな仲間に囲まれながら送る日常のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる