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3.元聖女は冒険者として仕事をします。
72.(そのころキアーラ王国王都にて)
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キアーラ王国王都――王宮に隣接した大神殿では身体中が殴られた痣だらけの兵士数人が神官から回復魔法による治療を受けていた。その場に駆けこんできた王太子エイダンは悲痛な声で叫んだ。
「これはどういうことだっ」
痛々しく寝ている兵士はエイダンの直属の護衛兵で、彼の指示でレイラをキアーラの外へ運んで追放した兵士たちだった。
「エイダン様――、彼らは可哀そうに、『聖女を馬鹿な王子の指示で国外に連れて行った』という咎で、地方の魔物退治から帰任した兵士たちに暴行を受けたのです」
白髪交じりの髭を撫でながら大司教ミハイルは王子にゆっくりと近づいた。
「馬鹿――? 僕のことを馬鹿だと言ったか、今?」
「言っているのは兵士たちですよ。あなたの指示で魔物被害が出ている地方へ支援に行った彼らは、苦しむ農民たちを見て心を痛め、今までに経験したことがない魔物との戦いで苦戦し、身体を痛めて帰還しました。彼らは皆口々に言っております。――何でこんなことになった? 先々代の国王様が我ら神官の祈りが国の隅々まで伝わるようこの大神殿を建立して以来、キアーラには魔物が出たことがないのに」
コツ、コツ、と大きく足音を響かせながらミハイルは王子の周りを歩き回る。
「帰還した彼らは、まずこの大神殿に乗り込んできましてな。『聖なる祈りはどうなっている』と私に問いました――だから、私は答えましたよ。『王子が聖女を自分の都合で勝手に追放したからこうなったのです』と」
ミハイルは笑い声を立てないように、時々唇を噛みながら言葉を続けた。
「その結果がこれです。さすがに王太子の貴方を彼らが咎めることはできませんからね――可哀そうに……代わりに彼らがこんなめに。ただあなたの命令に従っただけなのに」
「……うるさいっ」
エイダンは苦しそうに呟いた。
「……あのガキの祈りとやらが実際に効果があったということは、僕も認めよう」
「だがしかし!」と叫んで、彼は大司教を睨みつけ、一気にまくしたてた。
「ここまでの事態になっているのは、大司教! お前の! お前の責任だろうが! 何度も言うが! あの子どもがいなくなったところで! どうしてこうなる! お前が祈ればいいだろう! 大司教なのだから! おかしいのは、お前ら神殿だろう! 本来なら、こんなことになってるんだから、お前は1日中祈ってるべきだろう! ここで油を売って僕を貶めるような戯言を言ってる暇はあるのか! このクソジジイ!」
「エイダン様、大きな声を上げないでくださいっ。怪我人の治療に支障が出ますっ」
兵士の治療に当たっていた神官はエイダンを怒鳴りつけた。
エイダンは押し黙る。
そのとき、兵士の一人が「エイダン様……」と苦しそうに呼びかけた。
「グレッグ! 大丈夫か、ひどい目にあったな!」
エイダンは兵士の名前を呼ぶと、何か話したげな彼に顔を近づけた。
「エイダン様……、私は、あなたの指示に従って聖女様を国外に連れて行ったことを後悔しています……」
その言葉にエイダンは身を硬くした。
「……が、あなたの直属であることには……、不満はありません……、あなたは、あなたなりにこの国のことを考えているのは……承知しておりますから……」
エイダンは「グレッグ……」と兵士の名前を呼ぶと、顔を伏せた。
そして――しばらくそうしてから立ち上がるとミハイルに向かって宣言した。
「――僕は、直接魔物退治を率いる。大司教、お前たち神殿は全力で祈りにあたれっ!」
「これはどういうことだっ」
痛々しく寝ている兵士はエイダンの直属の護衛兵で、彼の指示でレイラをキアーラの外へ運んで追放した兵士たちだった。
「エイダン様――、彼らは可哀そうに、『聖女を馬鹿な王子の指示で国外に連れて行った』という咎で、地方の魔物退治から帰任した兵士たちに暴行を受けたのです」
白髪交じりの髭を撫でながら大司教ミハイルは王子にゆっくりと近づいた。
「馬鹿――? 僕のことを馬鹿だと言ったか、今?」
「言っているのは兵士たちですよ。あなたの指示で魔物被害が出ている地方へ支援に行った彼らは、苦しむ農民たちを見て心を痛め、今までに経験したことがない魔物との戦いで苦戦し、身体を痛めて帰還しました。彼らは皆口々に言っております。――何でこんなことになった? 先々代の国王様が我ら神官の祈りが国の隅々まで伝わるようこの大神殿を建立して以来、キアーラには魔物が出たことがないのに」
コツ、コツ、と大きく足音を響かせながらミハイルは王子の周りを歩き回る。
「帰還した彼らは、まずこの大神殿に乗り込んできましてな。『聖なる祈りはどうなっている』と私に問いました――だから、私は答えましたよ。『王子が聖女を自分の都合で勝手に追放したからこうなったのです』と」
ミハイルは笑い声を立てないように、時々唇を噛みながら言葉を続けた。
「その結果がこれです。さすがに王太子の貴方を彼らが咎めることはできませんからね――可哀そうに……代わりに彼らがこんなめに。ただあなたの命令に従っただけなのに」
「……うるさいっ」
エイダンは苦しそうに呟いた。
「……あのガキの祈りとやらが実際に効果があったということは、僕も認めよう」
「だがしかし!」と叫んで、彼は大司教を睨みつけ、一気にまくしたてた。
「ここまでの事態になっているのは、大司教! お前の! お前の責任だろうが! 何度も言うが! あの子どもがいなくなったところで! どうしてこうなる! お前が祈ればいいだろう! 大司教なのだから! おかしいのは、お前ら神殿だろう! 本来なら、こんなことになってるんだから、お前は1日中祈ってるべきだろう! ここで油を売って僕を貶めるような戯言を言ってる暇はあるのか! このクソジジイ!」
「エイダン様、大きな声を上げないでくださいっ。怪我人の治療に支障が出ますっ」
兵士の治療に当たっていた神官はエイダンを怒鳴りつけた。
エイダンは押し黙る。
そのとき、兵士の一人が「エイダン様……」と苦しそうに呼びかけた。
「グレッグ! 大丈夫か、ひどい目にあったな!」
エイダンは兵士の名前を呼ぶと、何か話したげな彼に顔を近づけた。
「エイダン様……、私は、あなたの指示に従って聖女様を国外に連れて行ったことを後悔しています……」
その言葉にエイダンは身を硬くした。
「……が、あなたの直属であることには……、不満はありません……、あなたは、あなたなりにこの国のことを考えているのは……承知しておりますから……」
エイダンは「グレッグ……」と兵士の名前を呼ぶと、顔を伏せた。
そして――しばらくそうしてから立ち上がるとミハイルに向かって宣言した。
「――僕は、直接魔物退治を率いる。大司教、お前たち神殿は全力で祈りにあたれっ!」
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