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1.元聖女は冒険者になりました。

27.(ライガ視点)

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「美味しいです……。何ていうか、そのままでも味があるんですね、野菜って」

 もしゃもしゃとサラダを頬張っていたレイラが、うっとりと呟いた。
 焼肉に行けなかったのは残念だけど、確かにここのランチに山盛りで出てくるサラダは美味しい。
 近くの農家から毎日届く野菜を使っているからか知らないが、何もつけなくても食べれるくらい野菜に味がある。

「もっと食べなよ」

 もしゃもしゃとサラダを頬張るレイラの取り皿の上に、ステファンがさらに野菜を盛る。

「俺の分が……ないじゃねぇか」

 いつの間にか大皿の上の野菜がなくなっていたので、愚痴るとステファンは頭を掻いた。

「悪い悪い。レイラが美味しそうに食べてくれるから、ついね。お前も野菜食べないとな」

 こいつが手を上げると、ウェイトレスが秒で駆け付けた。
 ……俺だと、他の客相手してから来るくせに。

「ステファン、今日はたくさん頼んでくれるのね」

「僕の新しい仲間も、ここのサラダ気に入ったみたいだから。この街に戻ってきたら、やっぱり一番にこの店に来ないとね」

 嘘つけ、一番に行ったの昨日の焼き肉屋だろ。
 ステファンが相変わらず外面のいい笑顔でそう言うと、ウェイトレスは若干頬を赤らめた。
 
「そう言ってもらえると嬉しいわ」

 それから思い出したように俺を見た。

「そうそう、今日はライガの好きなトマトがたくさん入ってるから、あとで持って帰ってもいいわよ」

「どうも」

 そう言うと、ステファンが俺を肘で小突いて、彼女にまた微笑んだ。

「いつもありがとう。嬉しいよ」

 ウェイトレスが去っていくと、ステファンが俺を睨んだ。

「お前は、もう少し愛想良くしろよ」

「お前が愛想良すぎるからちょうど良いだろ」

 睨み返した横で、レイラがぽつりと全然違うことを呟いた。

「仲間……」

「「え?」」

 ステファンと声を合わせて聞き返すと、レイラは少し緊張した様子で俺たちに問いかけた。

「私、ステファンとライガと、仲間ってことで良いんですよね」

 俺とステファンは再度顔を見合わせる。

 レイラとはなんか成り行きで一緒に行動してるわけだけど、こいつを冒険者登録させた責任もあるし、何より役に立ちそうだし、俺はもともと仲間になったつもりでいたわけだけど――確かに、改めて仲間だよなって確認はしてなかったもんな。

「そんなん、当たり――」

 俺が全部言うまえに、ステファンがずいっと前に出てレイラの手を握って微笑んだ。

「もちろんだよ」

 ――こいつ。

 俺は水を飲んで残りの言葉を飲み込んだ。――いつもいいとこ持っていきやがって。

「本当ですか、嬉しいです。頑張るので、よろしくお願いします」

 レイラは本当に嬉しそうに笑った。
 ステファンは女子ども向け仕様の優しい口調で言う。

「こっちこそ改めてよろしく。だからさ、僕にももっと砕けた口調で良いよ」

「砕けた口調……ですか」

「そう。ライガに対してみたいな」

 急に話題を振られて俺は咳き込んだ。

 そうだよ、レイラ、こいつ――、

「お前、俺には最初っから馴れ馴れしかったよな」

「だって――、ライガ――何となく――狼だし――」

「種族差別すんなよ。自分だって人間だと思い込んでた小人ハーフだか何だかよくわかんないもののくせに」

「うぅ」

 その時追加の皿を持って来たさっきのウェイトレスが、物珍しそうに言った。

「あら、ライガがこんなに仲良さそうにしてるなんて、珍しいわね。はい、追加のサラダ」

「……どーも」

 仲良いだって? 

 俺は皿を受け取ると、自分のところに大盛に盛ってから中央に置いた。
 さっきレイラに食べられた分は食い返してやる。

 そこで俺ははっとした。数日前に会ったやつとこんなに話しながら食卓を囲むことは今までなかった。

 ……何でだろ。
 
 俺は首を傾げた。

 何というか……、最初会った時からレイラは初めて会った気がしないんだよな。

 ステファンと同じように、昔からの知り合いのような、そんな匂いがする気がする。

「レイラももっと食べていいんだよ」

 ステファンがまた彼女の皿に野菜を持った。

「ありがとうござい……ありがとう、ステファン」

 レイラがそう言うと、ステファンは「そうそう」とまたにっこり笑った。
 
 
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